『異世界特番 2』
画面が切り替わる。
映し出されたのは、空から見た異世界の景色だった。
『いやぁ、絶景ですね』
青空の下、どこまでも続く広大な森。その中を幾筋もの川が蛇行し、はるか先には幾重にも山々が連なっている。
『ええ、とても壮大です。ここで特に注目すべきなのは、空の青さと木々の色なんですよ』
『色、ですか?』
『はい。空が青く見えるのは、太陽光が大気中の分子によって散乱されるためです。画面にも太陽によく似た光源が映り込んでいますね』
画面いっぱいに広がる、緑の森。
『木々も、異世界の植生ですからもっと違っていても不思議ではないんです』
『確かに。そう言われると』
『植物の緑色は、主に葉緑素――クロロフィルによるものです。もしこれらの植物も同じような仕組みで光合成をしているのであれば、非常に興味深いですね』
『なるほど、言われるまで気にしていませんでした』
空を飛びながら、楽しそうに会話を続ける調査団の姿が映し出される。
「私は、こちらも気になりますね」
別の専門家が映像を指差した。
「それなりに速度が出ているように見えるんですが、髪や衣服が乱れていません。それどころか、普通に話していますよね」
「ええ。呼吸に苦戦する様子もありませんし、目を細めたり、風を気にしている様子もありませんね」
「単純に空を飛んでいるだけでは、こうはならないでしょう。周囲の空気を制御しているのか、あるいは機体の周辺だけ気流を遮断しているのか……」
専門家は画面を見つめる。
「どういうカラクリなのか……非常に興味がありますね」
「それで言えば、そもそも何の問題もなく呼吸できていること自体が驚くべきことですよ」
「あっ、そう言われると確かに」
司会者が画面に映る調査団の姿へ目を向ける。
「太陽系を見てもそうですけど。まず月には、非常に薄い外気圏しかありません。地球のような大気は存在しないんです」
「月では人間が呼吸できる空気がないわけですね、宇宙服が必要なわけです」
司会者が頷く。
「火星も、大気の大部分は二酸化炭素です。しかも気圧は、地球の一パーセントにも満たしません」
「地球とは、かなり違いますね」
「はい。そして金星になると、さらに極端です。大気のほとんどが二酸化炭素で、気圧は地球の九十倍近くあります」
司会者が思わず目を見開く。
「ははぁ……」
「人間がそのまま呼吸できる環境というのは、実はとても稀なんです。そう考えるとこの異世界はまさに奇跡のような存在なんですね」
「そうなんですね……」
司会者がしみじみと頷く。どこまでも広がる草原にやがて巨大な生き物の群れが現れる。
「あっ!」
司会者の目が輝く。スタジオの専門家たちも、身を乗り出しモニターに見入る。
四本の太い脚で大地を踏みしめた巨大な生き物が、長い首を伸ばして悠々と草を食んでいる。
「いやぁ、まるで恐竜だな……」
ゲストの一人が思わず声を漏らす。
「現地では『魔獣』と呼ばれているようです。おそらく、魔物の『魔』から来ているものと思われます」
「凄いのはこの大きさですよ」
古生物学者が画面を食い入るように見つめる。
画面が少し引いた。魔獣のすぐそばには、田中たち調査団が立っている。
人間と並んだことで、その巨大さがはっきりと分かる。魔獣の肩の高さだけでも、調査団の身長の二倍を軽く超えている。
長い首を伸ばせば、その頭は地上十メートル近い高さにまで達していた。
「……これ、地球上で確認されている最大級の恐竜と比べてどうなんですかね?」
「それがですね、ざっと見た限りですがアルゼンチノサウルスなどの超大型竜脚類とほぼ同じサイズなんですよ」
「ええっ、そうなんですか」
画面の中で、魔獣がゆっくりと一歩を踏み出す。その脚一本だけでも、調査団の体よりはるかに太い。
「しかも、これが一頭じゃないという」
草原の奥には、同じような巨大な魔獣が何十頭と群れを成していた。
「……さすがに少し怖いですね」
「ですよね。ただ、ここは異世界の養殖場らしくて。ここにいるのは地球でいう鶏や羊、牛のような家畜にあたる生き物みたいなんです」
「サイズ感が全然違いますけど、すごいですね」
その後も草原を駆ける小型の魔獣。大きな翼を広げて空を飛ぶ魔獣。丸々とした体で群れになって日向ぼっこをしている魔獣。
次々と映し出される、地球には存在しない生き物たち。
「いやぁ……」
司会者が画面を眺めながら、感嘆の息を漏らす。
「これ直接見たい人、たくさんいるでしょうね」
「私もぜひ見たいですよ」「私もです」「ですよね!」
専門家たちからも、次々と声が上がる。
「ただ……」
別の専門家が少し苦笑する。
「地球に連れてくるとなると、さすがに難しいでしょうね」
「やっぱり大きさですか?」
「大きさもですし、まぁ何より生き物ですからね」
「そうですよねぇ、いやぁ見てみたいものです」
広大な草原を、何千もの魔獣が悠々と闊歩する。
それは、地球では決して見ることのできない異世界の風景そのものだった。
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