日本政府と
佐々木さんが額に手をやり、目を伏せた。
「……なるほど、よく分かりました」
しばらく考え込んだ後、佐々木さんは腹をくくったように顔を上げた
「明日、国王陛下とお会いになるのは何時の予定ですか?」
「大体十二時くらいです。その後は一緒に昼食を取る予定です」
私が頷くと、佐々木さんはもう何事もなかったかのように表情を整える。
「確認しますが、その際に外交団が同行しても本当に構いませんか?」
「はい、大丈夫だと思います。元々私と同郷の人たちが町に来ることは伝えていましたし。まあ、会談をというのは予想外でしたけど」
「そうなんですね。では、それでいきましょうか」
佐々木さんが大臣たちへ視線を向ける。大臣たちも互いに目を合わせ、短く頷き合った。
どうやら話がまとまったようだ。
「明日のスケジュールですが、町から王都までの移動時間は、どのくらいでしょうか?」
「空飛ぶマンションで、一時間くらいですね」
「……なるほど」
「はい」
佐々木さんが一瞬、遠い目をした。だがもう突っ込む気はないらしい。
「……では、午前十時に外交団を異世界に転移してもらえますか?」
「分かりました」
私は頷いた。
こうして、明日正午に日本の外交団と国王陛下との会談が決まった。
話が一段落すると、それまで黙って聞いていた大関さんたちが、苦笑を浮かべながら口を開いた。
「……田中さん」
「はい?」
「実は、田中さんにお会いしたら、お聞きしたいことがいくつもあったんです」
大関さんが、深く息を吐いた。
「まぁ、衝撃の事実の連続ですっかり後回しになってしまいましたが」
「ああ……」
私は思わず苦笑する。
「改めていくつか確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。もちろんです」
「ありがとうございます」
大関さんが、改めて私に向き直る。
「では、まず諸外国についてです」
大関さんが少し表情を引き締める。
「現在、日本政府には各国から問い合わせが殺到しておりまして。田中さんは今後、諸外国に対しどう対応されるおつもりでしょうか?」
「そう、ですね……」
「田中さんとの接触方法はないのかとか、異世界について把握している情報を教えてほしいとか、とにかく各国からせっつかれている状況でして」
「あぁ……」
「日本政府としても把握している情報自体がまだ限られていますから、事実確認中で押し通している状況なんです」
大関さんが苦笑する。
「ですがまあ、いつまでもそれが通用するわけがなく。最近では『日本だけが異世界との関係を独占するつもりなのか』と、かなり強い調子で言ってくる国まで出てきまして」
「……なんかすみません」
「いえ」
大関さんが、少し困ったように苦笑する。
私は少し考え答える。
「うーん……正直なところ、今は日本としか考えていませんね」
大関さんが瞬く。
「日本と貿易して、町の暮らしが快適になればいいなぁくらいしか考えてないんですよね」
「なるほど」
大関さんが頷く。
「では、諸外国からの問い合わせについては、日本政府を窓口にするのはどうでしょう?」
「え?」
「諸外国が、田中さんとの接触を諦めることはないでしょう。日本政府としても、田中さんとの関係を軸にして、諸外国との調整を行いやすくなるというメリットがあります」
「ああ、それならぜひお願いしたいです」
「ありがとうございます」
大関さんの表情が、わずかに緩んだ。
「では日本政府としても、その形で対応させていただきます」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
話がまとまったところで、佐々木さんが内線で飲み物を頼んだ。ほどなくして届いた麦茶に口をつける。
冷たい麦茶が美味しい。
大臣たちもそれぞれ飲み物を手に取り、一息つく。
「では、ここからの話ですが」
大関さんがペットボトルの蓋を閉めながら切り出す。
先ほどまでとは違う、少しだけ低い声だった。
「今回判明した内容については、極めて厳重に扱います」
部屋の空気が急速に引き締まる。
「田中さんにスキルがあるという事実は、公表します」
「はい」
「ただし、その能力の詳細については、一切明かしません」
大関さんは一人一人の顔を見回す。
「知ることができるのは、極々限られた者だけにし、国家機密に準じる扱いとします」
大臣たちが一斉に頷いた。
「田中さんの能力がどのようなものか表に出れば、国内外を問わず、利用しようと考える者が出てくるでしょう」
大関さんの表情は真剣だった。
「ですから、そこについては政府として最大限の配慮をします」
「……ありがとうございます」
私は小さく頭を下げた。
「こちらこそ、正直にお話してくださりありがとうございます」
大関さんも静かに頭を下げた。
それに続くように、佐々木さんをはじめ、その場にいる大臣たちも一斉に頭を下げた。




