正直に
「田中愛子さんの持つスキル《地球所有》についてです」
佐々木さんがそう告げた。
「スキル?地球所有?」
大関さんが目を瞬かせる。
「はい。今回、調査団が異世界へ行けたのもこのスキルによるものです」
「んん?」
里中さんが眉を寄せる
「スキルを用いると田中さんは所有しているものを自由に移動させることが出来ます」
「…………それはつまり?」
大関さんが恐る恐る問い返す。
「私たち人間も、田中さんの所有物に含まれるということです」
沈黙。大臣たちの表情が固まっている。端っこに座っていた別の大臣が、何か言いかけて口を閉じた。
言葉を選んでいるのか、それとも単純に言葉が見つからないのか。
「ちょ、ちょっと待ってください」
里中さんが割って入ってくる。
「私たち政府は、田中さんが『何かしらを転移させる能力』を持っていると想定していたのですが」
「はい」
「それが……実際には地球を所有?していて?その所有物を異世界に移動??人間も所有物??」
里中さんの言葉は、途中から完全に混乱していた。口にしてみたことで、余計に訳が分からなくなったらしい。
無理もない。
これまで政府が想定していた「転移能力」だけでも、既存の科学や国家安全保障の常識を根底から覆すものだった。
それが、それはより巨大な何かの一部に過ぎなかったのだ。
全員が言葉を失い、互いの顔を見合わせた。何かを書き込もうとしていた大臣のペン先が紙の上で止まっている。
佐々木さんが私を見る。
「田中さん。よろしければスキルについて簡単にご説明いただけますか?」
「あ、はい」
私は頷いた。どうやら、このままでは話が進まないらしい。
少しだけ考えて、できるだけ簡潔に説明することにした。
「えーー私の固有スキルは《地球所有》といいまして」
「……」
皆さんの視線が、一斉に私へ集まる。
改めて口にすると、やはり不穏なスキル名だ。
「まぁ、私が地球の所有者として登録されたようで……そこら辺は正直私もよく分かってないんですが、はい。スキルで出来ることが幾つかありまして」
指折りながら、一つずつ説明していく。
大臣たちは一言も挟まなかった。ただ、私の言葉を聞き逃すまいとするように、じっと耳を傾けている。
「【地球モニター】は、地球の様子を映像で好きに確認できます。
【帰還】は、地球へ戻る能力です。
【所有物の取り寄せ】は、地球にある私の所有物をこちらへ持ってくることができます。逆もです。
【所持品】は、私が所有しているものの確認ですね。
【一時置き場】はその名の通り、物を一時的に保管しておけます、異次元に?かな。今の所容量に限界はないですね」
私が一つ説明するたびに、大臣たちの表情が変わっていく。
「とまぁ、こんな感じです」
説明を終えた。
しばらくは、誰も口を開かなかった。
大臣たちはそれぞれに何かを考えているようだった。
手元へ視線を落とす人もいれば、腕を組んだまま空を見つめ黙り込んでいる人もいる。
しばらくして大関さんが、乾いた声で呟く。
「……田中さんが、地球を所有しているとなると」
しかし、その先の言葉は続かなかった。
大関さんが口を閉じると、また部屋が静かになる。誰も何も言わない。
……なんだか、ものすごく深刻な話になっている気がする。
「あの……」
全員の視線がこちらを向く。
「私、スキルを悪用するつもりありませんよ」
「……」
「何かする時も、極力迷惑をかけないようにするつもりですし」
見つめた先、大関さんがようやく少し肩の力を抜いた。
「それを聞いて、少し安心しました」
見回すと、他の大臣たちも似たような顔をしていた。どうやら私は、思っていた以上に警戒されていたらしい。
「それよりも今回日本に来た、国王陛下との会談の件なんですけど」
もともと私は、週に一度鉱石を納めに王都に行っている。その際、陛下と食事するのがもはや恒例となっていた。
そして、その予定が明日なのだ。
「なので、その時に会談も一緒にしたらどうかなと思っていて」
「…………」
「どうでしょう?」
佐々木さんがぼそっと呟いた。
「……鉱石を、納めている?」
「あ」
しまった。この手の話はしてなかった。
佐々木さんがこちらを見る。追及するわけでもなく、ただじっと。
「あー……」
私は少しだけ視線を逸らした。けれど、ここまで話したら誤魔化しても仕方がない。
「実はですね」
観念して、正直に話すことにした。
「地球の内部の、かなり奥深い場所から鉱物を取り寄せてるんですよ」
「…………」
「あ、今現在の技術では絶対に取り出せないような場所のものですから」
慌てて付け加える。
「なので迷惑はかけてませんよ」
「…………」
佐々木さんの表情が、なんとも言えないものになる。周囲の大臣たちも、互いに顔を見合わせている。
……あれ?




