一緒に日本へ
私は渋々ながら頷いた。
「一度、日本へ戻りましょう」
「ありがとうございます!」
佐々木さんが顔を上げ、ほっとした顔で息を吐く。そしてすぐに表情を引き締めた。
「では一刻も早く戻りましょう」
「……そんなに急ぎます?」
「急ぎます」
即答だった。
「国王陛下から正式に会談の申し出があったんです。急ぎ政府に報告して、今後の対応を決めなければ」
佐々木さんが腕時計で時間を確認する。今の時刻は15時半だ。
「田中さん。本当に申し訳ないんですが、今すぐは無理ですか?」
「いえ、大丈夫ですけど……」
「でしたら、お願いします!」
佐々木さんの圧が強い。
「日本側への事前連絡はど
「必要ありません」
「え」
「もう直接戻ります。驚かれるでしょうが緊急事態です」
「……」
佐々木さんの鬼気迫る雰囲気に少々引きながら、私は黙って見守っていてくれたレオン先生へ振り向く。
「レオン先生。急ですみませんが私たち今から一度、国へ戻ります」
「、分かりました」
レオン先生は少し驚いた様子だったが、すぐに頷いた。
「どうなるかは分かりませんが、少なくとも私は夜までには町に戻りますので。すみませんけど、護衛の皆さんを町まで送ってもらえますか?」
「分かりました。私もこのまま町へ帰ります。どうかお気をつけて」
レオン先生に頭を下げ、そのまま調査団の五人の顔を見回す。
「じゃあ、このままいいですか?」
「はい!お願いします!!」
佐々木さんが勢いよく答え、その後ろで他の四人も頷いた。
「では――」
私はスキルを操作した。
「…………え?」
少し離れたところから、呆然とした声が聞こえた。
そちらへ目を向ける。
部屋の隅で作業をしていた数人の政府関係者が、こちらを見て固まっていた。
「調査団が……」
「帰ってきた?」
「え、帰ってきたのか?」
帰還場所は、調査団が転移した時に私が指定した首相官邸の閣議室にした。マスコミ関係者がいないのは確認済みだ。
「え、田中愛子……?」
一人の男性が、私の顔を見つめたまま呟いた。
「……はい」
答えた瞬間、その場の空気が変わった。
「た、田中愛子本人だ!」
「すぐ上に知らせろ!」
「調査団が戻ったぞ!」
「田中さんも一緒だ!」
廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。次々と人が集まってくる。
「……思ったより驚かれて驚いてます」
私が呟くと、隣で佐々木さんが苦笑した。
それから、ものの数分もしないうちに、さらに大勢の人が駆け込んできた。
先頭にいたのは内閣官房副長官の大関さん。この部屋でメモを用いて私が接触を図った人物だ。
その後ろには、内閣府特命担当大臣の里中さんをはじめ、見覚えのある人が何人も続いている。
「田中、愛子さんですね」
大関さんが私の姿を確認すると、深く息を吐いた。
「はい。田中愛子です」
頭を下げる。
「初めまして」
「……初めまして」
大関さんが少しだけ面食らったような顔をした後、苦笑した。
「あなたとはお話したい事があり過ぎて……一体何から話せばよいのか困っています」
そう言って息をついた大関さんと、隣の佐々木さんの目が合う。
佐々木さんは何も言わない。ただ、ほんの一瞬だけ会議室の奥へ視線を向けた。
それだけで察したのか、大関さんの表情が変わった。すぐに近くの職員へ指示を出しはじめた。
「調査団の皆さんを、別室へ案内してください。まずは健康状態の確認を。詳しい聞き取りは後ほど行います」
「はい」
佐々木さん以外の四人が職員に案内され、部屋を出ていく。
続いて大関さんは室内へ視線を向けた。
「ここから先は、まだ公にできない話も含まれる。申し訳ないが、同席する者を限らせてもらう」
そして部屋に残ったのは大関さん、里中さんを含む数名の大臣と、私、そして佐々木さんだけになった。
扉が閉まる。それまでの慌ただしさが嘘のように、室内が静まり返った。
全員が席につく。
「まず、我々も調査団の午前中の様子については、撮影された映像で確認済みです」
大関さんの視線が佐々木さんへ向いた。
「佐々木君。何があった?」
「はい」
佐々木さんが姿勢を正す。
「異世界の国王陛下から日本へ、正式に会談の申し出がありました」
その瞬間、部屋の空気が張り詰めた。
「会談……正式に?」
里中さんが確認するように呟く。
「はい」
「それは……外交団を派遣する必要がありますね」
大関さんが腕を組み、考え込む。
「異世界の国と初めての会談となると、こちらも相応の人員を揃える必要があります」
「そもそも、相手国について分かっている情報が少なすぎます。国の規模も、政治体制も、他国との関係も――」
「日本がどういう立場で臨むのかも、早急に整理しなければなりません。あくまで友好的な交流なのか、それとも正式な外交交渉を想定するのか……」
「先方がこちらに何を求めているのかも確認する必要がありますね」
私は黙ってその様子を見ていた。次々と意見が飛び交う中。
「皆さん」
佐々木さんが、少しだけ声を張った。
それだけで、部屋の会話が止まる。
「国王陛下との会談も早急に準備を進める必要があります。ですがもう一つ、ご報告しておきたいことがあります」
佐々木さんが一度、私を見る。
「田中愛子さんの持つスキル《地球所有》についてです」




