素材
降下ボタンを押し、草原の端へ続々と着陸する。
シートベルトを外し、立ち上がる。降り立った護衛たちが素早く周囲を固めてくれる。
前後左右をゆるく囲むように立ち、こちらの進行方向と魔獣たちの様子をそれぞれ確認している。
物々しく取り囲むというほどではない。
けれど、何かあればすぐに動ける。そんな配置だった。
「んーー」
小さく伸びをして、身体をほぐす。隣に降りてきた森田さんが勢いよく立ち上がる。魔獣の群れへ向けた目は輝いていて。
そのまま調査団は慌ただしく手荷物を背負い直し、カメラや採取用の道具、計測機器などを確認していく。
一方、護衛たちはというと、特に緊張した様子はない。
何人かは魔獣の様子を眺めながら目配せした後、慣れた足取りで周囲に散らばっていく。
横に立つカクさんとスケさんに尋ねる。
「カクさん、スケさん。皆さん魔獣を見るのは初めてなので、何か気をつけたほうがいいことってありますか?」
「そうですね……」
カクさんが草原の魔獣たちへ目を向ける。
「ここにいるのは基本的には大人しい魔獣ばかりなので基本、刺激し過ぎなければ問題ありません」
「なるほど」
スケさんものんびりと口を挟んだ。
「いきなり触らなければ大丈夫っすよ。触るならゆっくり、首とか背中あたりをですね~。頭や角は嫌がる奴も多いんで」
「なるほど。いきなりは触らない、と」
そのまま調査団の面々に伝えると微妙な空気が流れた。
「まぁ、用心しながら近づいてみましょうか」
気を取り直すように歩き出すと慌てたように山田さんが先頭に。森田さん、田辺さんもそわそわした様子で着いてくる。
高橋さん、そして少し遅れて佐々木さんも覚悟を決めたように続いた。
ゆっくりと、距離を縮めていく。
魔獣たちはこちらに気づいているが、逃げることも向かってくることもない。
ときおり顔を上げてこちらを眺め、また何事もなかったかのように草を食んでいる。
「……近いですね」
佐々木さんが小声で呟いた。
柵もない広い草原で、巨大な魔獣たちがすぐそこにいる。
「角の形が独特ですね」
「脚もかなり太いですよ」
「体表は……毛というよりあれは、皮膚でしょうか?」
「首の可動域もかなり広そうです」
森田さんと田辺さんの二人が早口で言葉を交わし合っている。
魔獣たちは、そんな私達の視線など気にすることもなく、のんびりと草を食べていた。
「……あの牙で草食なんですね」
警戒態勢の山田さんが腑に落ちないという顔をしている。
高橋さんは少し離れた位置から、カメラを構え続けていた。
森田さんと田辺さんが魔獣が食べている草をせっせと、採取用の袋へ収めはじめた。
「あっ、これはすごい!」
森田さんが草むらにしゃがみ込んだ。
「おぉっ!」
田辺さんまで嬉々として袋を取り出す。
「とても新鮮ですね」
「状態もいいです」
二人は嬉しそうに魔獣の糞を採取し始めた。
その様子を、少し離れたところから護衛たちが眺めていた。
「……何してるんすか、あれは」
スケさんが困惑した表情で首を傾げている。
カクさんまで、私のそばへやってきた。
「タナカ様。あれは何をしてるんでしょうか?」
「あぁ、研究のためですね」
「研究……」
「はい。彼らの国にはいない生き物なので、できるだけ色々なものを調べたいんだと思います」
私がそう説明すると、カクさんが少し考えるように首を傾げた。
「それでしたら、養殖業者に依頼したらどうでしょうか」
「え?」
「魔獣の体毛や角、爪などはもちろん、糞も肥料や薬の材料として扱われていますし。直接頼めば、研究用に色々な素材を売ってくれますよ」
「そうなんですか?」
「はい。必要なものをまとめて用意してもらえると思います」
私は少し離れた場所の二人を呼ぶ。
「森田さん、田辺さん!」
「はい?」
「養殖業者さんから、色々な素材を買えるみたいですよ!」
「…………」
二人の動きが止まった。
「ぜひ詳しくお話を伺いたいです!」
私たちは再び空飛ぶソファに乗り込み、村を目指した。
その一角にある養殖業者の家を訪ね、カクさんが前に出て、素材の購入を交渉してくれる。
話しは順調に進み、業者は快く応じてくれた。
「実際にどのようなものがあるか見せてもらっても?」
「もちろんです。こちらへどうぞ」
案内されたのは、家の裏手に建てられた大きな物置だった。中には、様々な素材が所狭しと詰め込まれていた。
魔獣の体毛。抜け落ちた牙や爪。角。鱗。乾燥させた皮。
乾燥させて小分けにされた排泄物まである。
一種類だけではない。
棚にも床にも、魔獣ごとに分けられた素材が大量に保管されていた。
「…………すごい」
田辺さんが呟く。森田さんはというと、完全に瞳孔が開いていた。二人は次々と素材を確認していく。
「これも欲しいです」
「こちらも」
「あ、あれもお願いします」
「これも全部……」
気がつけば、物置の前には選んだ素材が山のように積み上がっていた。
「……ちょっと、多すぎましたかね」
森田さんが、じっと目の前の山を見つめる。
「……そうかもしれません」
田辺さんも、さすがに少し不安そうだ。
研究のために、できるだけ多くの試料が欲しい。
そう思って選んでいるうちに、いつの間にかこれだけの量になってしまったようだ。
「さすがに欲張りすぎでしょうか……」
「厳しいでしょうね……」
二人がそんな話をしている間に、私は業者さんに支払いを済ませた。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。こんなに買っていただいてどうもどうも」
そのまま私は素材の山へ近づき一時置き場へ、全てを瞬時に収納した。
「…………」
唖然とする調査団の面々を促し、村を後にする為空飛ぶソファへ歩き出した、その時だった。
――ピピピッ。
「ん?」
腕輪型の通信機が鳴った。見ると、着信を知らせる光が点滅している。
レオン先生からだった。




