空から
「わ……!」
ソファが空へ浮かび上がった瞬間、隣の森田さんが声を漏らす。そのままゆっくりと上昇していく。
建物の屋根が眼下に並び、通りを歩いている人々が小さくなっていく。
さらに高度が上がる。
「わぁ……!」
石造りの建物が並ぶ町並み。その外側には開拓地が広がり、さらに先にはどこまでも続く森の大地があった。
はるか先には幾重にも連なる山々。
空から見る異世界は、地上から眺める景色とはまた違っていた。
「……すごい」
森田さんが呟く。他の面々も、眼下の景色に目を奪われている。
高橋さんはずっとカメラを回し続けている。時折、短くレンズを動かしては、次の景色を追っていく。
私はそんな五人の様子を眺めながら、少しだけ笑った。
しばらくその場で留まっていたが、そろそろ出発することにする。事前に伝えたように、矢印ボタンを押すよう調査団に声をかける。
ソファがゆっくりと前へ進み始めた。
調査団を挟むように、カクさんやスケさんを含む二十人の護衛が前後に分かれて飛んでいく。
「おお……」
田辺さんが小さく声を漏らす。身体が後ろへ持っていかれることもなく、揺れも感じない。
「正直、想像の100倍乗り心地が良いです」
田辺さんが感動したようにソファを触りながら言う。
「でしょう?」
私は笑う。
「安全第一で作ってますので」
「なるほど、なるほど」
速度はそれほど速くない。けれど、地上を歩くよりずっと早い。心地よい乗り心地で、ソファは上空を進んでいく。
眼下に広がるのは、広大な森。
その中を幾つもの川が蛇行し、木々の間を縫うように流れていた。
「……すごいな」
田辺さんが呟く。皆さん眼下の景色へ目を奪われている。高橋さんも夢中でカメラを回し続けていた。
不意に、少し離れた場所を飛んでいる佐々木さんと目が合った。こちらを見て小さく頷く佐々木さんに私も静かに頷き返す。
先ほど広場で交わした会話。
私のスキル《地球所有》について話した後、佐々木さんはしばらく難しい顔で考え込んでいた。
そして、少し困ったような、それでいて真剣な表情で言ったのだ。
「スキルについて教えてくださり、ありがとうございます」
「あぁ、いえいえ」
「ですが……これは到底、私一人で抱えられるような内容ではありません」
それはそうだと思う。
地球を所有しているなんて、改めて言葉にすると、あまりにも大きすぎる話だ。
正直自分でも、半信半疑なくらいだ。
「後ほど改めて、より詳しくお話を伺ってもよろしいでしょうか」
「あ、はい。そうですね」
私が頷くと、佐々木さんはほっとしたように小さく息を吐いた。そして、周囲に聞かれないように少しだけ声を落とす。
「それと……この話は、今のところ他の調査団の方には内緒にしておいていただけますか?」
私は一瞬だけ佐々木さんの顔を見た。その表情は真剣だった。
「……はい」
私は小さく頷いた。
しばらく空を進んでいると、前を行くスケさんが、こちらを振り返り教えてくれる。
「何でしょう?」
隣の田辺さんに聞かれ答える。
「そろそろ村の養殖場ですよって言ってます」
「ほぉ、養殖場ですか」
「はい」
だんだん森が途切れ、広々とした草原が姿を現した。
「…………え?」
最初に気づいたのは、山田さんだった。
草原のあちこちに巨大な生き物の群れがいた。
「…………」
調査団全員が言葉を失った。
大きい。あまりにも大きい。
四本の太い脚で地面を踏みしめ、長い首を伸ばして草を食べている。
頭には立派な角まで生えていた。
「……ええっ!?」
田辺さんの大きな声が上がる。
「な、何ですか、あれは!?」
「魔獣ですね」
「まじゅう!?」
スケさんが振り返り、尋ねてくるので皆に聞く。
「どうします?下りて近くで見ますか?」
「ええっ!!?」
田辺さんが素っ頓狂な声を上げた。
「近くで見るっ?だ、大丈夫なんですか?」
「あ、大人しい種類だから大丈夫ですよ」
「いや、そういう問題じゃないでしょう!!」
山田さんがシートベルト越しに身を乗り出し叫んでいる。
「本当に大丈夫なんでしょうか……?」
佐々木さんまで強張った顔で呟いている。
「すごいっすごいっ!!」
そんな中、一人森田さんの目が輝いている。
「田中さん、是非降りましょう!!」
「あ、降ります?」
「はい!!」
声が興奮で弾んでいる。他の面々の顔が引きつる。
高橋さんのカメラは忙しなくあちこちに動いていた。
巨大な魔獣の群れ。その向こうにも、別の魔獣が群れを作っている。
羽の生えたもの、巨大な毛玉のようなもの。
さらに奥にも、こちらを気にすることなく動く、見たこともない多種多様な生き物たち。
調査団全員の目が奪われていく。
高橋さんのカメラが、その光景を余すことなく映像に収めていく。
そこには、日本では決して見ることのできない光景が広がっていた。




