地球Side『え゛』
建築現場を抜けると、そこから先は手つかずの森が広がっていた。しばらく木々の間を歩く調査団。
やがて、遠くに巨大な白い岩壁が見えてきた。
近づくと、その白い岩壁の人の腰ほどの高さから透明な水が湧き出し、小さな滝となって下の泉へ流れ込んでいる。
泉は底の小石が見えるほど澄み切っていた。
『ここら一帯が水源ですね』
田中愛子が指差すように、少し離れた場所にも同じような泉がいくつもあった。どれも清らかな水を流し続けている。
学者の森田と田辺の目の色が変わった。
『……すごい』
『これは……』
二人とも泉へ駆け寄るように近づいていく。
『森田先生、見てください! 水が』
『ええ、すみません田中さん、これ、採取してもよろしいですか?』
『はい。どうぞ』
『『ありがとうございます!!』』
森田は嬉々として採取用の容器を取り出し、田辺もすぐさま別の器具を準備する。
そこからは二人とも完全に夢中だった。
泉の水を採り、岩肌を調べ、周囲の土を根こそぎ採取していく。
『こちらも採りましょう!』
『はい!』
その目は、宝物を前にした子供のように輝いていた。
その様子を手持ち無沙汰に眺めながら、田中愛子は周囲を興味深そうに見回している佐々木へ声をかけた。
『佐々木さん』
『はい』
『そろそろお昼ですけど、ご飯どうします?』
『お昼……』
佐々木が腕時計を見る。確かに、いつの間にか昼近くになっていた。
田中愛子が首を傾げた。
『ご飯食べに、一回日本に戻ります?』
『え゛』
佐々木から変な声が出た。
『日本に……?えっと、そんな簡単に戻れるんですか?』
『はい。別にいつでも大丈夫ですけど』
こっちで食べるなら屋台とか食堂ですねと軽く続ける田中愛子。
佐々木は少し遠い目をした。
『……屋台でお願いします』
その時、地面をいくつもの大きな影が横切った。
『……?』
佐々木が訝しげに顔を上げる。カメラマン高橋も素早くカメラを空へ向けた。
青空を背景に、こちらの上空を通過し、飛んでいくもの。
『『…………』』
それは、一人掛けのソファに座った人だった。
一台だけではない。
渡り鳥の群れのように、少し間隔を空けて何台も連なっている。
『ソファ?』
『飛んで……?』
調査団の五人が呆然と見上げる。
空飛ぶソファの一団は、そのまま森の上空を通り過ぎていった。
『あぁ、あれも魔道具です。別の現場へ出動中の皆さんですね』
田中愛子が何でもないように言う。
空を見上げたままの調査団に、田中愛子がふと思いついたように言った。
『屋台でお昼ご飯を食べたら、私たちもあれに乗って上空からこの辺を観光でもしましょうか?操作は簡単なので、誰でも乗れますよ』
『……あれに、ですか?』
佐々木が少し躊躇いながら瞬く。だがその目には隠しきれない好奇心が浮かんでいた。
『正直すごく乗ってみたいです』
森田が呟くと、他の四人も顔を見合わせる。
『私もです』 『是非』 『せっかくですし』 『私も』
『じゃあ、そうしましょう』
田中愛子が笑って頷いた。画面にカメラマン高橋の手が映る。
『あ、その前に一ついいですか?』
『はい?』
『日本との行き来にそれほど負担がないのであれば、一度日本に戻って、ここまでの映像を渡してきたいんです』
高橋はカメラを軽く持ち上げる。
『向こうも、我々が無事なのか気になっているでしょうし。安否確認も兼ねて』
『ああ、それはいいですね』
田中愛子が頷いた。
その後、森田と田辺が採取した水や岩、土のサンプルを一つずつ整理していく。
『これは水源の上流側で』 『こっちは岩石。採取場所も撮影済みです』
その、もう暫く掛かりそうな様子に。
『じゃあ、今のうちに高橋さんは一度、日本戻りましょうかね』
『お願いします。あ、でも』
『?』
『データを渡したら、すぐ此方に戻してください』
『?』
『空飛ぶソファ、自分も絶対に乗りたいんで』
高橋の真剣な声が続く。
『昼飯の後ですよね? 絶対自分を置いていかないでくださいね』
『ふふ、分かりました。では』
高橋のほっとしたような息と共に画面は真っ白になり、映像はそこで終わった。
【そりゃあカメラマン高橋も即戻りますわ】
【戻るわなw】
【空飛ぶソファ優雅すぎん?】
【こちとら毎朝詰め込まれてるというのに】
【格差すごすぎぃ】
【しっかし異世界と日本って案外近いんだー棒】
【昼飯食べに帰れるんだぞ】
【まじ異世界何処にあんだよwww】
【余裕で通勤圏内やん】




