地球Sideふぁ!!?
異世界へ行くという、あまりにも現実味のない話に、内閣官房副長官の大関は思わず立ち上がった。
「待って下さい、田中さん!異世界に行くとしても、確認しなければならないことがたく」
ひらり。
「……!?」
言葉を遮るように、一枚の紙が大関の机に現れた。
大関は素早く拾い、読み上げる。
「『異世界に来るのでしたら、三日後の午前十時に、この場所で待機していて下さい』」
「三日後?早すぎないか?」
室内がざわめく。紙には、さらに続きがあった。
「……『人数は五人でお願いします』」
「五人!?」
「いや、ちょっと待て。たったの五人で異世界へ行けというのか?」
「そもそも、何を持っていけばいいんだ!?武器は?食料は?移動手段はどうするんだ!?」
次々と声が上がる中、大関が震えながら紙の最後の一文を告げる。
「……『では、失礼します』」
「ふぁ!!?」
おかしな沈黙が、閣議室を包んだ。
あまりに突然だった。 異世界の存在を明かし、招き、日時と人数まで指定して――それだけ言い残して終わり。
「待ってください!」
慌てた秘書官が思わず声を上げる。
「田中さん!まだ確認したいことが沢山あります!!」
返事はない。
「田中愛子さん!応答して下さい!!」
大関も呼びかける。
しかし、数分経っても紙が現れることはなかった。
「…………」
大関は長い息を吐き、力が抜けたようにどさり、と腰を下ろした。
「……三日後、か」
その呟きを合図に。
「官房長官への報告を!」
「防衛省に至急連絡してください!」
「警察庁にも回せ! 異世界派遣の可能性があると伝えろ!」
「研究者はどうする!? 何を最優先で選定するかだ!」
「五人だぞ! 五人しかいないんだ!」
「装備はどうする!?銃器類は許可するのか!?」
まるで蜂の巣をつついたように、閣議室では怒号と指示が飛び交った。
日本政府は異例の速さで動いた。
急遽、庁舎内でもっとも広い会議室が確保され、関係各所へ緊急招集がかけられた。
集まった人数は、到底ひとつの部屋に収まるような規模ではなかった。内閣官房をはじめ、外務、防衛、警察、研究機関、危機管理を担当する各部署。
次々と人が入ってきて、用意された席は瞬く間に埋まっていく。立ったまま資料を受け取る者まで現れ、壁際には追加で机が運び込まれた。
「……しかし本当に、異世界なんてあるんですかね?」
机に座り開始時間を待つ一人が、隣の同僚に小声で尋ねる。
「さぁ……」
問われた同僚も困惑した顔を隠せない。
無理もなかった。ここにいる全員が、田中愛子との最初の接触を直接目にしたわけではない。
実際に、目の前で紙が現れるのを見た人間は限られている。
「とても信じられませんよね」
「まぁ私だってそうですけど、こんな人数を集めてですからねぇ……」
そんな会話が、あちこちで交わされていた。
半信半疑。当然だった。
異世界などという話を、簡単に信じろというほうが無理がある。
しかし、会議室の前方に設置された大型スクリーンには、件の田中愛子から送られてきた紙の内容が映し出されている。
そして、その紙がどのようにして現れたのか、その場にいた複数の人間が、同じ証言をしている。
何よりこれまで日本各地で起きた説明のつかない現象。すべてを「あり得ない」で片付けるには、積み重なったものが多すぎた。
「時間になりましたので、始めます」
前方に立った大関が口を開く。ざわめきが少しずつ収まっていく。
「議題は一つです」
スクリーンに、大きく文字が映し出された。
【異世界派遣団・五名の選定】
室内が静まった。
「三日後の午前十時。異世界へ、五名の人員を派遣します」
ざわ、と室内が揺れた。
誰もが周りの人間と顔を見合わせる。 冗談でも、仮定の話でもない。
三日後には、本当に五人が異世界へ向かう。
その事実が、ようやく全員に現実味を持って迫ってきた。
そして――そこから先は、凄まじかった。
「政府側の人間は必須です」
「外交交渉を考えるなら、外務関係者も入れるべきでは?」
「しかし現地の安全確保も必要だ」
「警察官を一名」
「いや、自衛隊員を二名にするべきです」
「二名では他の枠が足りなくなる!」
「そもそも武器を持ち込むこと自体が適切なのか?」
「未知の世界ですよ? 丸腰で行けというんですか!」
「研究者も必要でしょう」
「地質学者です!未知の鉱物がある以上、最優先です!」
「生物学者だってそうでしょう!」
「そもそも言葉は通じるのか?」
「食料や水はどの程度必要ですか? 現地にはどれくらい滞在する想定なんですか?」
「あーーもうっ。五人なんて少なすぎる!」
議論は次々とぶつかっていく。必要な人間を挙げればきりがない。
外交。安全保障。警護。
医学。生物。地質。通信。記録。
どれも重要だった。
意見は割れに割れた。時計の針だけが、淡々と進んでいく。最初は半信半疑だった者たちも、いつしか真剣な顔で資料をめくっていた。
もし本当に異世界があるのなら。
この五人は、日本人として初めてその世界へ足を踏み入れることになる。
ならばその五人を間違えるわけにはいかない。
議論は、深夜になっても終わらなかった。
ちなみにまだメンバー決めてません( 一一)




