地球Side開示の裏側
首相官邸の閣議室では、閣僚たちが激しく意見を交わしていた。
「諸外国への情報公開は、どこまで進めるべきでしょうか」
「現状では、限定的な公開に留めるべきだ。情報が一気に流出すれば、混乱を招きかねない」
「しかし、すでに海外の研究機関からの要請を抑えるのも限界に達しています。こちらだけが情報を抱えている状態に――」
資料がめくられ、言葉が飛び交う。議題は尽きない。
未知の穴、正体不明の鉱物、各地で確認されている不可解な現象。
「少なくとも、新しく発見された内容については――」
そのときだった。
ひらり、と一枚の紙が、天井付近から舞い落ちてきた。
「……ん?」
何人かが顔を上げる。訝しげな視線が、宙を舞う紙を追った。
紙はゆっくりと宙を漂い、そのまま長机の中央へ落ちた。
「何だ、これは?」
議論がぴたりと止まった。
「どこから落ちてきた?」
最も近くにいた官僚が紙を拾い上げる。素早く目を走らせ――その目が大きく見開かれた。
「……田中愛子の署名があります」
「なにっ?」
その一言に、室内の空気が止まった。
先ほどまで飛び交っていた声が、嘘のように消える。
「……田中、愛子」
誰かが確認するように呟いた。
その名前を知らない者は、この場にいない。
行方不明となり、現在起きている不可解な現象の数々と関係しているであろう人物。
「内容はっ」
急かされ、官僚は紙に書かれた文章を喉を鳴らして読み上げる。
「『突然すみません、田中愛子です』」
室内に、わずかなざわめきが起こる。
「『日本政府の方に、お願いがあります』」
そこまで読んだところで、官僚の言葉尻が弱くなる。
「……『個人的に、日本と貿易をしたいです』」
「…………」
「……以上です」
数秒間、誰も反応しなかった。
「……貿易?」
ようやく誰かが呟いた。
あまりにも予想外の内容だった。
そしてこれが、田中愛子からの初めての接触だった。
「……本人、か?」
「いや、それより……どうやって、この部屋に紙を?」
ざわめきが戻ってくる。誰も状況を理解できていない。
閣議室は再び、一気に騒がしくなった。
そのとき、一人の秘書官が口を開いた。
「待ってください。正確にこの場に紙を送ってきたということは……こちらの状況を何らかの方法で把握できているという事ではないでしょうか?」
「……!」
何人かが反射的に辺りを見渡した。
「……もし、そうなら試してみる価値はあるな」
そう言って立ち上がったのは、内閣官房副長官の大関だった。
「田中愛子さん」
何もない空間に向かって、大関が声をかける。
「こちらの声が聞こえていますか?」
返事はない。
「……お聞きしたいことが多々あります。この、貿易とは具体的にどういうことでしょうか。また、あなたは今どこにおられるのでしょうか」
しばらくの静寂の後、大関の手元の机に、一枚の紙が現れた。
「……!」
大関は紙を取り上げ、急いで目を通した。
『貿易は、こちらの物と日本の物を交換できたらと思っています。
こちらには日本にないものがありますし、日本の物はこちらではとても価値があると思います』
「こちら、とは?……田中さん。あなたは今、どこにいるんですか?」
ひらり。
『信じてもらえるか分かりませんが、私は今、異世界にいます』
「異世界……?」
その言葉が落ちた瞬間、室内の空気が変わった。
「異世界だって……?」「そんな、本当に……?」「いやいや、待て。そんな馬鹿な」「……あり得るのか、そんなこと」
ざわ、ざわ、と声が広がっていく。
「……まさか」
「いや、しかし今までの現象を考えれば……」
ざわめきは、次第に大きくなっていく。誰もが紙を見つめ、互いの顔を見合わせていた。
異世界。
その言葉が、会議室にいる全員の頭の中を駆け巡っていた。
驚きが収まらない中、ひらり。また一枚の紙が、大関の机の上に現れた。
大関が読み上げる。
「『私個人では、日本とこちらの貿易を判断するのが難しいです。なので、一度こちらに来てもらえませんか?』……来てもらえませんかっ?」
「…………」
室内が静まり返る。
「『実際にこちらを見て、日本にとって利益になるか判断してほしいです』」
「……なんだって?」
誰かが呟いた。
「異世界へ、行く?」
「そもそも、どうやって行くんだ?」
「安全は確保できるのか?」
一気に声が飛び交う。
さっきまでの驚きの比ではない。
今度は、その異世界へ自分たちが行くという現実に直面していた。
この日を境に、日本政府の方針は大きく変わった。
異世界の存在まで明らかになった今、未知の鉱物の一つや二つに固執している場合ではない。
むしろ、世界中の研究機関と情報を共有し、未知の世界との接触に備える必要がある。
日本政府は――新たな世界へと、大きく舵を切ることになった。
難産でした;
どう接触するのが自然か迷いまくり
結果、なんか田中愛子がポケッとした感じになりました




