地球Side開示
巨大な穴を囲むように設けられた仮設の報道エリアには、国内外の報道機関がひしめいていた。
テレビ局、新聞社、通信社、海外メディア。
カメラの数だけでも、いったい何台あるのか分からない。
だが、記者たちの間には、普段とは違うざわめきがあった。
「しかし、なんで急にここで会見なんだ?」
「さぁな。政府からは『新たな確認事項について公表する』としか出ていない」
「わざわざここで?」
「しかも海外メディアまで呼ばれてるぞ」
記者たちも、何が発表されるのか知らされていなかった。
「来たぞ」
鋭い声が飛ぶ。報道陣が一斉に前を向いた。
パシャッ、パシャッ、パシャッ――。
無数のフラッシュが、一斉に瞬いた。
仮設ステージへと、一人の男が歩み出る。
今回の一連の事象について、政府側の責任者に任命された内閣府特命担当大臣、里中だった。
壇上に立つ里中にフラッシュが再び弾けた。
「えー。本日は、現在までの調査で確認された事象について、ご説明します」
記者たちが身を乗り出す。
「ちなみにですが、政府は本件について、可能な限り情報を公開する方針に決定しました」
その言葉に、会場がざわついた。
何人もの記者が一斉にメモを取る。
「そして本日は、そのうちの二つを実際にご覧いただきます」
里中大臣が横へ視線を向ける。
それを受け、内閣府の担当職員が一台の机を運び込んだ。
その上に置かれたのは、一台のスマートフォンだ。
「こちらをご覧ください」
里中大臣がスマートフォンを手に取り、画面をカメラへ向ける。液晶には、蜘蛛の巣のような亀裂が走っていた。
「えー。こちらは意図的に破損させた端末です。現在、電源も入らない状態です」
端末が机の上へ戻される。
その隣に、透明な小さなケースが置かれた。
中に入っているのは、現場から採取された銀色の鉱物の欠片だ。
大臣の隣には、大型モニターが設置されている。
なので会場後方の記者からも、その様子がはっきりと確認できた。
「では、こちらを使います」
担当職員がケースから鉱物を取り出す。
そして――ひび割れたスマートフォンの画面へ、そっと触れさせた。
「……?」
記者たちが息を潜める。
数秒後、大型モニターに映し出された画面の亀裂が、わずかに動いた。
「……ぇ?」
――ピシ、ピシッ。
蜘蛛の巣のように広がっていた亀裂が、まるで時間を巻き戻すように一本ずつ消えていく。
「ちょっと待て!」
「動いてるぞ!」
「カメラ! 寄って!」
記者たちが一斉に立ち上がり、辺りは一気に騒然となる。
そして、最後の亀裂が消えた。
大型モニターに映っているのは、傷一つない画面だった。
そのまま大臣が側面の電源ボタンを押す。大型モニターに、見慣れた起動画面が映し出された。
「ぇぇ」
会場のあちこちから声が漏れる。
ホーム画面が表示され大臣が画面をいくつかタップした。
「はい。このように通常通り使用できます」
その一言で、再び大量のフラッシュ。
「何ですか、これは!?」
「どういう原理なんですか!?」
「修復したんですか?自然に!?」
質問が一斉に飛ぶ。
大臣は落ち着いたまま答えた。
「はい。これまでに行った実験では、すべて例外なく同じ現象が確認されています」
ざわめきが広がる。
「げ、原因は分かっているんですか?」
「現時点では、分かっていません」
大臣は淡々と答えた。
「続いて、二つ目の発表です」
大きな透明の容器が運ばれてくる。中には、黒く濁った水が入っている。
「こちらは、水に墨を溶かしたものです。これに、この鉱物を投入します」
担当職員が青い鉱物の欠片を容器の中へ入れる。
数秒。何も起こらない。
だが黒く濁っていた水に、ゆっくりと変化が現れた。
墨がまるで何かに引き寄せられるように集まり始める。
「……っ!?」
記者たちが息を呑む。
黒い色がみるみる薄くなっていく。やがて、容器の底には黒い沈殿物だけが残った。
そこにあったのは、透明な水だった。
「ええっ、水が透明になったぞ!」
「浄化したのか?」
「その水は安全なんですか!?飲めるのですか!?」
記者が言い終えるより早く、大臣は担当職員へ視線を向けた。
「グラスを」
すぐに小さな透明のグラスが差し出される。
大臣は大きな容器から、澄み切った水をグラスへ注いだ。
そしてためらうことなく、口へ運ぶ。
ごくり。
「…………」
会場が静まり返る。
大臣は空になったグラスを机へ置いた。
「はい、何の問題もありません。ごく普通の水です」
数秒遅れて、会場が爆発した。
無数のフラッシュが再び弾ける。
パシャッ、パシャッ、パシャパシャパシャッ――。
大臣は騒然とする記者たちを前に、何事もなかったように手元の資料へ目を落とした。
「えー。現時点で、この作用の原理は分かっていません。ですが、これらの可能性については、政府としても非常に大きな関心を持っています」
誰もが固唾を呑んで聞いていた。
「そのため――」
大臣はカメラへ向き直る。
「この現象について確認されたデータを公開するとともに、国内外を問わず、希望する研究機関には、分析用サンプルを提供します」
世界中の人々へ向けて、ニュース速報が走り抜ける。
『日本政府、未知の鉱物による新たな現象を公開』
『破損した電子機器が自己修復』
『汚水が短時間で浄化――政府、原理は不明と発表』
『未知の鉱物、国内外の研究機関へサンプル提供へ』
世界中が、その映像に釘付けになった。
だが、この日公開されたのは、まだほんのはじまりに過ぎなかった。




