表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら、地球を所有してました。その裏で、地球では大騒動が始まっていた。  作者: りどみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/64

なめてました

 お疲れ様会の開催が決まると、その知らせは瞬く間に町中へ広まった。

 護衛たちは巡回先で、技術者たちは工房や建設現場で、商人たちは店先で、口々に伝えて回る。


「三日後の夕方、広場でお疲れ様会を開きます」

「ぜひご家族やお友達とどうぞ!チキ様から町の皆さんへの感謝を込めた宴です」

「肉も海鮮も食べ放題! お腹を空かせて来てくださいね!」


 その話は人から人へと伝わり、町は開催前からちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。


 そして迎えた当日。

 夕暮れの広場には、大勢の人々が続々と集まってきた。

 運河工事に携わった技術者たち、日々チキを支えてくれた護衛たち、その家族。そして町の人々。

 広場には長机がずらりと並べられ、その中央には大きな鉄板型の魔道具がいくつも設置されていた。


 チキは集まった皆の前へ一歩進み、小さく頭を下げた。


「皆さん、いつも助けていただき本当に感謝しています。今日は美味しいものを沢山用意しました。遠慮しないで、お腹いっぱい食べてください!」

「「「おおおおおっ!!」」」


 歓声と拍手が広場に響く。


「それでは焼き始めましょうか」

 レオン先生の合図で、助手たちが手際よく鉄板型の魔道具へ肉や海鮮を乗せていく。


 ジュウゥゥッ――。

 火属性の魔石で熱せられ、香ばしい匂いが辺り一面に広がる。


「いい匂い!」

「おおっ!美味そう!」


 肉が焼き上がるのを待つ間、一人一人に液体入りの器が配られていく。


「これは?」


 スケさんが器を持ち上げ、中を覗き込んだ。

 茶色い液体からは、初めて感じる甘辛い匂いが漂っている。


「チキ様、これは何ですか?」

「これはお肉につける『焼肉のタレ』です」


 チキがそう説明すると、周囲から不思議そうな声が上がった。


「タレって何だ?」

「塩じゃなくて?」

「こんな液体につけて食べるなんて、初めて聞いたな」


 この世界では、焼いた肉は岩塩を振って食べるのが一般的だった。やがて鉄板の上で焼けた石垣牛を、チキが一枚取り分ける。


「こうやって」


 焼きたての牛肉を茶色いタレへ軽くくぐらせ、そのまま口へ運ぶ。


「ん~~! 美味しい!!」


 思わず頬が緩むチキを見て、スケさんも恐る恐る同じように肉をタレへつけ、一口かじった。


「……っ!?」


 目を見開いた。


「う、うまい!!」


 その叫びを聞いた周囲の人たちも、一斉に肉をタレへつけ始める。


「何だこの味は!?」 「肉汁と合わさって、ものすごく美味い!」 「塩とはまた全然違うぞ!」 「甘い……いや、香ばしい! これは止まらん!」


 あちこちで歓声が上がり、焼き上がった肉は瞬く間に皿から消えていく。


「チキ様! このタレ、最高です!」 「これを考えた人は天才だ!」


 初めて味わう"焼肉のタレ"は、町の人々の心をあっという間につかんでしまった。

 宴は、その後も大いに盛り上がる。


 鉄板の上では、肉だけではない。

 プリプリのエビ、カニ、肉厚のホタテ、香ばしく焼けるイカ。 さらに玉ねぎ、ピーマン、ナス、かぼちゃ、とうもろこしなど、色とりどりの野菜が次々と並べられていく。


「この野菜、焼くとこんなに甘くなるのか!」 「貝が柔らかい!」 「エビも最高だ!」


 肉とはまた違った美味しさに、人々は次々と手を伸ばす。

 鉄板のあちこちから立ち上る湯気と香ばしい匂い。 笑い声は途切れることがない。

 やがて、広場の一角から湯気が勢いよく立ち上った。


「豚骨ラーメン出来ました!」


 大鍋いっぱいに作られた白濁したスープへ、茹で上がった麺が次々と入れられていく。


「何だ、この白いスープは?」 「すごい香りだな」


 興味津々の人々へ器が配られる。


「熱いうちにどうぞ」


 恐る恐るスープを一口飲んだ瞬間。


「……うまい!」


 あちこちで歓声が上がった。


「こんな濃厚なスープは初めてだ!」 「麺ってこんな風にも食べれるのか!」 「腹一杯なのに、いくらでも食べられる!」


 夢中になって麺を頬張り、最後の一滴まで飲み干す人も少なくなかった。

 食後には、大皿いっぱいの果物が並べられる。

 赤く熟したブドウ、みずみずしい桃、甘いメロン、宝石のようなサクランボ。


「なんて甘さだ……」 「お菓子みたいだ」 「こんな果物、食べたことがない!」


 幸せそうな笑顔が広場いっぱいに広がっていく。

 その様子を眺めながら、チキはレオン先生とメロンを食べる。


「鉄板の魔道具、大成功でしたね」

「ええ。火力も均一でしたし、大人数でも十分に対応できました。皆さんにも好評で良かったです」


 レオン先生は満足そうに頷く。


「この果物も信じられないくらい甘いですね」


 チキはレオン先生と、果物を頬張りながらそんな話をしていた。そこへカクさんが近づいてきた。


「チキ様」


 隣にはカクさんの奥さんと、その腰にへばり付いたまだ小さなお子さん達。


「今日は本当にありがとうございました。どれも大変美味しくて……家族みんなで、楽しく頂きました」


 カクさんはそう言って、深々と頭を下げる。

 その隣では、奥さんと子どもたちもぺこりと頭を下げた。

 

「お肉、美味しかった!!」 「らーめんも美味しかった! 全部!」

「ふふっ、良かった。いっぱい食べてくれてありがとう」


 チキが笑うと、子どもたちは嬉しそうに頷く。

 その姿を見た周囲の人たちも、次々と声を掛けてくる。


「本当にご馳走様でした!」 「全部、信じられないくらい美味しかったです!」 「ありがとうございます、チキ様。とても楽しかったです!」 「家族みんなでお腹いっぱいです」 「最高のお祭りでした!」


 あちこちから感謝の言葉が飛び交い、チキは思わず照れくさくて笑った。


「皆さんに喜んでもらえて、本当に良かったです。またやりましょう」


 皆が沸く中、カクさんの奥さんが少し遠慮がちに尋ねる。


「チキ様、あの焼肉のタレなんですが」

「はい?」

「もし可能であればなんですけど、作り方を教えて頂いたりとかは……?」


 チキは少し考えた。


「えーっと……」


 たしか醤油がベースで、砂糖やニンニク、それに林檎や香辛料なんかも入っていたはずだ……多分。そもそも、この世界に醤油なんてあるんだろうか。


「ちょっと材料とか作り方、調べときますね」


 あまり深く考えず、チキは軽く答えた。


「本当ですか!」

「はい」

「ありがとうございます、チキ様!」


 奥さんが嬉しそうに頭を下げる。


「いえいえ、美味しかったなら良かったです」

 






 このときのチキは、まだ知らなかった。

 焼肉のタレというものが思っていた以上に奥深く、再現するのがほぼ不可能に近いということを。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ