これぞまさに
翌朝、私は護衛にスケさんを伴って、町の中を歩いていた。朝の通りには、店を開ける人や仕事へ向かう人の姿がちらほらと見える。
そんな町の様子を眺め歩きながら、私はぼんやりと考えていた。日本に輸出できるもの、他にもないかな。
出来ればこちらの世界では余ってる、地球には存在しないものがいいんだよね。
「スケさん」
「はい?」
「この辺りで、何か余ってるものとかありますかね?」
「余ってるものすか?」
「はい。使い道がなくて困ってるとか、たくさんあって持て余してるとか。そういうの」
スケさんは少し考えるように視線を上げた。
「そうっすね、持て余してるというと魔獣の素材とかですかね~」
「まじゅう?」
「はい」
スケさんは頷いた。
「この辺りの村では、魔獣の養殖が盛んなんすよ」
「へー。まじゅうを養殖ですか」
「はい。今から四十年くらい前になるかな~。養殖技術が確立されて、それから一気に広まって」
詳しく聞けば、食用になる種類もいれば、皮や角、羽などを素材として利用する種類もいるらしい。
野生のまじゅうを狩るより安定して確保できるため、今では一つの産業として定着しているそうだ。
「兵士の訓練でも、魔獣を扱うんすよ」
「へぇ?」
「養殖場の手伝いをしたり、捕獲や解体を学んだり。実戦で魔獣と遭遇することもあるんで」
「ははぁ」
スケさんが兵士になるまでの訓練にも、そういった内容が組み込まれていたらしい。
「それで素材が余ってるんですか?」
「すべてが高く売れるわけではないっすからね~」
「ちなみにどんなものが余ってるんでしょうか?」
「んーー。脱皮する魔獣の抜け殻とか、自然に抜け落ちた角や、抜け羽とか」
「へぇ。そういうのって、どうしてるんです?」
「使える分は加工しますけど、余った分は砕いて肥料にしたりしますね~」
「肥料?」
「はい。あとそれでも余るやつは」
スケさんはすれ違った同僚に軽く手を上げながら続ける。
「埋め立てに使ったりしますね」
「埋めちゃうんですか?」
「そうっす。捨てるのも手間なんで、埋めて基礎に使ったりしますね~」
「へーー……」
なんだか、ものすごく勿体ない気がするがこの世界では、それくらいありふれたものなのだろう。日本でいうと卵の殻とかかな。
「ちなみに、まじゅうってどんな姿なんですか?」
「そうっすね、色々いますけど。代表的なものは竜種とか、角象の大型種なんかの~」
スケさんがいくつもの名前を挙げていく。
呪文のようなカタカナの名前が、長々と続く。
「……へーー」
丁寧に説明してくれるが、何が何だかさっぱり分からない。そんな私の様子に、スケさんが苦笑する。
「実際に見たほうが早いかもしれないっすね~。一番近くの養殖場まで行ってみます?」
「え、いいんですか?」
「もちろんっす」
私は頷き、スケさんと一番近くの村の養殖場へ向かうことにした。ただ、少し距離があるらしい。
「なので、あれで」
スケさんが指差した先にあったのは、レオン先生が開発した魔道具――空飛ぶソファ(一人掛け)だった。
「これ、誰でも操作できるように作られてるんすよ」
聞けば、安全性を最優先にしているため、それほど速くはないらしい。
私が座ると、スケさんが簡単に操作方法を教えてくれた。
「このボタンを押すと浮きます、降りるときはもう一度同じボタンを押して。方向指示はシートベルトについてる矢印ボタンで」
「……簡単ですね」
「そうなんですよ」
二人同時にボタンを押す。ソファが静かに浮かび上がる。
「おお……」
地面が少しずつ遠ざかっていく。一定の上昇の後、前を行くスケさんの後についていく。
風を切るような速度ではない。むしろ、拍子抜けするくらいゆっくりだ。
けれど、歩くよりはずっと早い。
「これ、便利だなぁ」
ゆったりソファに身を沈め、眼下に広がる景色を眺める。
……これも日本に持っていったら面白そうだな。
空を飛ぶ誰でも操作できるソファ。安全第一で、速度もそれほど出ない。
「レオン先生、すごいもの作ったなぁ……」
私はそんなことを呟きながら、村の方角へ目を向けた。
しばらく飛んでいると、木々が途切れ、広々とした草原が見えてきた。
「……ん?」
草原のあちこちに、何かの群れが見える。
大きな四足の生き物が、何頭も集まって草を食べていた。
……この高さから見てあのサイズは相当大きくない?
長い首。
太い脚。
そして頭には、立派な角まで生えている。
「……恐竜みたい」
見たところのんびりと草を食べている。
「あの辺りに降りましょうかね、ボタンを押しましょう」
「えっ、近づいて大丈夫ですか?」
「大丈夫すよ、ここらに放牧されてるのは大人しい種類っすから」
「は、はぁ」
スケさんに続いて、私もゆっくりと高度を下げる。
草原の端に空飛ぶソファを着陸させ、私はそっと立ち上がった。地上から改めて見ると。
「…………でっか」
思わず声が漏れた。
目の前にすると更にデカい。象をもっと分厚くして、長い首と角を付け足した感じ。太い脚が地面を踏みしめるたび、ずしんと響く。
「スケさん……」
「はい?」
「これ、本当に大丈夫?」
「大丈夫っすよ~」
スケさんは慣れた様子で、魔獣の群れへ近づいていく。
一頭がこちらに気づき、ゆっくりと顔を上げた。
大きな角。
大きな目。
そして、こちらへ向かって一歩。
「ひぇっ……」
私は思わず後ずさった。
「ス、スケさんっ!!」
「大丈夫、大丈夫~」
スケさんは魔獣の喉?あたりをぽんぽんと軽く叩いた。
魔獣は嫌がる様子もなく、のんびりと草を食べ続けている。
私は改めて辺りを見回した。
広い草原のあちこちで、様々な魔獣が草を食んでいる。
あっちは――背中に羽が生えているウサギ?
その隣には、真ん丸な毛玉みたいな生き物が、ころころと転がっている。
少し離れたところには、犬くらいの大きさのフワフワの群れが日向ぼっこしていた。
「ものすごいファンタジーだな」




