地球Side発光
《バラバラバラバラ――》
テレビ局のヘリコプターが、巨大な穴の上空をゆっくりと旋回する。
「ご覧ください! こちら現場上空です!」
興奮気味のリポーターの声が、生中継で全国へ流れていく。
「画面中央に見えますのが、現在インターネット上で話題となっている巨大な穴です!昨日配信された映像をきっかけに、現在、現場周辺が大変な騒ぎとなっております!」
カメラがゆっくりとズームする。
緑豊かな山々の中央。ぽっかりと円形に空いてしまっている。
「直径はおよそ三キロ。深さは…一キロほどでしょうか。まるで巨大なクレーターのようにも見えますが、詳しいことはまだ分かっていません!」
ヘリの影が穴の縁を横切る。
そのすぐ下では、規制線の内側を慌ただしく歩く警察官や調査隊の姿があった。
警察によって張られた規制線の向こうには野次馬が集まり、各々スマートフォンを掲げて撮影している。
現場は、さながら祭りのような騒ぎになっていた。
「……」
現場責任者の南野警視は眉をひそめ、頭上を見上げる。
テレビ局は視聴率が取れると踏んでいるのだろう。穴の上を何度も旋回しながら、生中継を続けている。
ヘリコプターのローター音が、いつもは静かな山に響き渡る。
事の発端は、昨日の夕方だった。
山中で配信していたユーチューバーの生配信を見た視聴者から通報が相次ぎ、最寄りの交番から警察官が現場へ急行した。
しかし、状況は到底一交番で対処できる規模ではなく、警察官は直ちに応援を要請。
その様子は生配信によってリアルタイムで全国へ拡散され、瞬く間にSNSを席巻する騒動へと発展していった。
苦々しい表情で、上空を旋回する報道ヘリコプターを見つめていた南野のもとへ、一人の男性が足早に近づいてきた。
「南野さん」
声を掛けたのは、地質学者の沖田教授だった。
この山一帯の地質調査を長年続けてきた第一人者であり、今回の異常事態を受けて、警察の要請で早朝から数人の助手を率いて現場へ入っていた。
現場へ到着し、この巨大な穴を目にした瞬間、教授は絶句し立ち尽くしていた。
穴の縁に立ち、呆然と眼下へ視線を落とす。
どこまでも続く垂直の岩肌。 底が霞んで見えるほどの巨大な円形空間。
「あり得ません……」
誰に言うでもなく、小さく呟く。
「私は先週も、この山で学生たちの地質実習を行いました。この尾根も、この周辺も通い慣れた道です。このような穴など存在するわけがない」
助手たちも青ざめた表情で顔を見合わせる。
「教授、本当に先週までこの穴は無かったのですか?」
「はい」
沖田は即座に言い切った。
「仮にこの規模の陥没が起きれば、周辺一帯の地盤に大規模な亀裂が走ります。地震計にも異常が記録されるでしょう。何より、これほどの土砂が崩落すれば、凄まじい轟音と土煙で県中が大騒ぎになっているはずです」
混乱と困惑の空気の後、教授たちは調査を開始した。
レーザー測量、岩石サンプルの採取、周辺地層の確認――。
助手たちは各所へ散り、沖田教授自身も穴の縁から露出した岩盤を入念に観察し続けていた。
そして現時点で判明した内容を報告するため、沖田教授は南野のもとへ戻ってきたのだった。
「何かわかりましたか」
南野が問い掛けると、沖田はゆっくりとうなずく。
「現時点で、一つだけ断言できることがあります」
教授は巨大な穴へ視線を向けた。
「この穴は、自然に形成されたものではありません」
「……人工的、ということですか」
「ええ。ただし、我々の知る重機や爆薬によるものでもありません。」
南野の表情が険しくなる。
「岩盤の断面が、異様なほど滑らかなんです。まるで巨大な刃物で切り抜いたような――自然現象では説明できません」
南野は巨大な穴へ視線を落とした。
「では、一体どうやって……」
「それが分からないのです。だからこ」
「……教授っ」
若い研究員が、穴の縁から少し離れた場所を指差した。
「あれを!」
その場に居た全員が一斉に視線を向ける。
穴の縁から数十メートル離れた地面が、淡い白い光を放ち始めていた。
「……何だ、あれは」
誰一人、動けなかった。 白い光は円を描くように広がり、複雑な紋様が次々と地面へ浮かび上がっていく。
知らず、全員が息をのむ。
上空を旋回していた報道ヘリから、興奮と恐怖が入り混じった無線が響き渡った。
『こちら報道ヘリ! 現場に謎の白い光が出現! 巨大な円形の光が……地上に広がっています!!』




