地球Side会見
当日午後、日本政府は、緊急記者会見を開くと発表した。
その一報が流れた瞬間、国内の空気が変わった。
テレビ局は一斉に通常番組を中断し、各局が特設スタジオを用意する。
『政府がまもなく、今回の巨大発光現象について緊急会見を行います』
『現時点で政府から詳細な発表はありません』
『なお、会見には複数の関係省庁から担当者が出席する見込みです』
ニュースキャスターたちも、いつもの落ち着いた口調を保ちながら、明らかに緊張していた。
今回の事件について、政府が正式に口を開く。それだけで、日本中が画面に釘付けになっていた。
スマートフォンには速報が次々と届く。
【政府、まもなく緊急会見】
【巨大な穴の正体について発表か】
【女性消失事件との関連は?】
【政府が何を掴んだのか】
SNSの勢いも凄まじかった。
――政府会見きたぞ
――何を発表するんだ?
――絶対なんか掴んでるだろ
――例の女の件も絡んでるよな
――政府が緊急会見する時点でヤバい
――世界中が見てるぞこれ
海外メディアも速報を流し始めていた。
日本国内で起きた不可解な現象。様々な憶測が、国境を越えて広がっていく。
会見開始まで、あと十分。官邸の記者会見場には、すでに国内外の報道機関が詰めかけていた。
普段なら数人しか入らない記者席は完全に埋まり、テレビカメラが何台も並んでいる。外国人記者の姿も少なくない。
誰もが、政府が何を語るのかを待っていた。
ざわめいていた会場が、少しずつ静かになっていく。
カメラの赤いランプが、一斉に点灯した。
世界中の視線が、東京へ集まっていた。
政府による緊急記者会見が、始まった。
「本日は、緊急の記者会見にお集まりいただき、ありがとうございます」
官房長官は一度言葉を切り、正面に並ぶカメラへ視線を向けた。
「本日、国内某所において確認された大規模な発光現象および、その直後に発生した土砂の消失について、政府として現時点で確認している事実をご説明いたします」
会見場は静まり返っていた。
シャッター音だけが、断続的に響く。
「まず、現場についてです」
官房長官の背後に設置された大型スクリーンに、上空から撮影された映像が映し出された。
巨大な円形の穴。
その大きさは、画面の中に並ぶ車両や人物と比較しても異常なものだった。
「現在、現場周辺には警察および自衛隊を含む関係機関を派遣し、立ち入りを制限するとともに、周辺の安全確保を行っております。また、現場上空についても、航空機等の接近を制限しております」
記者たちが一斉にメモを取る。
「現時点において、現場周辺から新たな発光現象などは確認されておりません」
そこで官房長官は、わずかに表情を引き締めた。
「次に、今回の土砂の消失についてです」
スクリーンに、発光現象が起きる直前の映像と、直後の映像が並べて表示された。
「複数の映像記録および現地調査の結果、発光現象が発生する以前には存在していた大量の土砂が、発光現象の終了と同時に消失したことを、政府として確認しております」
記者席から、小さなどよめきが起こる。
「なお、現時点で確認されている範囲では、消失した土砂は一般的な土砂であり、希少な鉱物や特殊な物質などが大量に含まれていた事実は確認されておりません」
数人の記者が顔を見合わせた。ならばなぜ消えたのか。
その疑問が、誰の表情にも浮かんでいる。
「また、爆発や大規模な掘削、地滑りなどによって生じたものではないことを示す複数の状況も確認されております。周辺への大規模な土砂の飛散や、地下へ移動したことを示す痕跡も、現在まで確認されておりません」
会場の空気が、少しずつ変わっていく。
「現在、関係する各分野の専門家による分析を進めておりますが――」
官房長官はそこで一度言葉を止めた。
「現時点において、この現象を既存の科学的知見のみで説明することは困難であると、政府は認識しております」
記者席のあちこちから小さなどよめきが起こる。
「科学で説明できないって……」
「政府がそこまで言うのか……」
「だったら一体……?」
官房長官は記者たちの反応を待つことなく、次の資料へ進んだ。
「そして今回の調査にて、もう一つ重要な事実が判明しております」
大型スクリーンの映像が切り替わった。
海。青い海面の上に、淡い白い光が浮かび上がっている。
それはゆっくりと円を描きながら広がり、やがて複雑な紋様を形作っていく。
「……え?」
誰かが声を漏らした。
記者席がざわつく。
スクリーンいっぱいに映し出されたのは、今回、地上で確認されたものと酷似した白い紋様だった。
「こちらは、六日前に海上で撮影された映像です」
ざわめきが大きくなる。
「海上でも……?」
「六日前?」
「どこの海域なんだ」
次々に声が飛ぶ。
官房長官は、手元の資料に目を落としながら続けた。
「現象が発生したのは、六日前の未明です。周辺に航行中の船舶はなく、人的被害も確認されておりません」
記者たちが顔を見合わせる。
「衛星画像や海上監視システムなどの記録を確認した結果、この現象を把握しました」
碧い海面に、白い光と複雑な紋様が浮かぶ。
「この発光現象は、約二十分にわたって記録されています」
「二十分……?」
記者席から思わず声が漏れた。
「その後、発光は突然消失しました。これについても現在、関係機関が解析を進めております」
会見場が、一気に騒然となった。
「これらの現象について、政府はどう行動するつもりですか!」
「国民の生活に影響はないのでしょうか」
記者たちが次々に声を上げる。
官房長官が軽く手を上げ、会場を制する。
「順番にお願いいたします」
ざわめきが少しずつ収まっていく。
「ただ、現時点では原因を特定できておりませんことを申し上げます」
官房長官は資料へ視線を落とした。
「そして――」
ほんの一瞬だけ、間があった。
「今回の現象と……女性失踪事件との関連についても、現在、捜査および調査を進めております」
「!」
記者たちの手が一斉に止まった。
会場の空気が、明らかに変わる。
「正式に関連を認めたということですか?」
「その女性は今回の件と関わりがあるのでしょうか?」
無数の質問が飛び交う。
官房長官は、静かに答えた。
「現時点で、両事件の関連を断定することはできません。しかし、今回確認された発光現象と、当該女性が失踪する直前に確認された現象との間に、複数の共通点があることを確認しております」
再び、会場がざわめいた。
官房長官は続ける。
「このため、政府としては、当該女性の所在確認を含め、今回の現象との関連について、引き続き慎重に調査を進めてまいります」
一人の記者が勢いよく手を挙げた。
「その女性についてお尋ねします!」
指名を待たず、別の記者も声を上げる。
「田中愛子さんのことですが」
会場が凍りついた。
官房長官は、すぐには答えなかった。
数秒の沈黙。
無数のカメラが、その表情を捉えている。
やがて官房長官は、静かに口を開いた。
「……個別の捜査に関わる事項については、お答えを差し控えます」
その瞬間。
会見場に、再び無数のシャッター音が鳴り響いた。
難産でした……




