一区切り
「王都にも、同じ設備を整備してほしい」
見学を終えた国王陛下は、その場で正式に依頼してくださった。その話はすぐに王城内へ広まり、やがて貴族たちの耳にも届く。
快適な気温、指先ひとつで灯る照明、尽きない水、食材を長く保存できる冷蔵庫。そんな夢のような暮らしに誰もが目を輝かせた。
「我が屋敷にもお願いできないだろうか」「家族にも、快適な暮らしを味わわせたい」「費用はいくらかかっても構わない」
そんな依頼が少しずつ増えていった。
魔道具を作る工房では増産の準備が始まり、設置や調整を行う職人たちの育成も進められていく。
こうして嬉しい悲鳴を上げるほど急速に、新たな技術を受け継ぐ職人や技術者たちの仕事が生まれていった。
レオン先生を中心に、職人たちへ技術を伝えていく。これから先、この設備を広げていくのは、私たちではなく彼らなのだ。
いずれは王城や貴族の屋敷だけでなく、一般家庭にも魔道具が普及していくだろう。
依頼は順調に進み、職人たちの体制が整っていった。私たちの役目は、もう十分に果たせただろう。
「陛下。魔道具については、主要な説明・整備も終わりましたので、そろそろ町へ戻らせていただきます」
「そうか。もう少し滞在してもらいたいところだが……」
陛下は少し寂しそうに笑われた。
「だが今は、そなたたちが設置した通信の魔道具もある。連絡が取れぬわけではない。それに、そなたたちのおかげで王都と町の距離も、ずいぶん近くなった」
「はい。何かあれば、すぐに駆けつけます」
そう答えると、陛下は満足そうに頷かれた。
こうして私たちは王城を後にし、再び空飛ぶマンションで町へ帰ることになった。
私は遠ざかる王都を眼下に眺めながら大きく伸びをした。
「無事に終わって良かったぁ……」
どうなることかと思った依頼も、これでようやく一区切り。ぼんやりと思い返す。
危険な任務に最後まで付き添ってくれた護衛さんたち。
昼夜を問わず作業を続けた技術者のみなさん。
そして、私たちの帰りを待ってくれている町の人たち。
「みんなで、お疲れ様会したいな……」
隣で書類を捲っていたレオン先生がこちらを見る。
「お疲れ様会ですか?」
「はい。今回の成功を祝って技術者さんも、護衛のみんなも、町のみんなも呼んで、美味しいものを食べるんです。陛下から沢山報酬もらったんで参加費無料で」
レオン先生は優しく笑った。
「それは素敵ですね。きっと皆さん喜びますよ」
話が聞こえていたのだろう。
「自分は上手い肉が食いたいです!」
背後からの声に振り返ると、スケさんが目を輝かせてこちらを見ていた。周囲の護衛たちも同様に期待に満ちた目をしている。
「お肉いいですね」
その一言をきっかけに、護衛たちの会話は一気に弾けた。
「俺は魚がいいな」 「いや、この前できた食堂も捨てがたい」 「甘いお菓子も欲しいです」
すると技術者さんたちも会話に加わってきた。
「レオン先生のお勧めが知りたいです」 「私は焼きたてのパイが食べたいですね」 「いやいや、大人数なら広場で大きな鍋を囲むのも楽しそうですよ」
あちらこちらで「それもいい」「いや、こっちだ」と賑やかな声が飛び交う。
みんな楽しそうだった。
「チキ様のお好きなものは何ですか?」
カクさんが、子を持つ父親らしい優しく落ち着いた声で尋ねてきた。
「私は……」
少し考える。
ふと思い浮かんだのは、いつかの送別会。
柔らかくて、口の中でとろけるように美味しかった。
「石垣牛、かな」
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