回します
王都が見えてきた頃、空飛ぶマンションに気付いた人々が次々と空を指差し始めた。
「っ!!」「な、何だあれは?」「空に……建物が飛んでいるぞ!」
騎士たちも慌ただしく城壁へ駆け上がり、上空を見上げる。やがて報告を受けた国王陛下も、城のバルコニーへ姿を現した。
巨大な建物が、風を切ってゆっくりと王城へ近づいてくる。その異様な光景に、陛下は思わず目を見開いた。
「……」
隣に立つ宰相も言葉を失う。
「報告では聞いておりましたが……ここまで大きいとは」
巨大な建物は速度を落とし、王城の着陸場へ静かに降下していく。その衝撃はほとんどなく、まるで最初からそこに建っていたかのように滑らかだった。
やがて建物の扉が開き、チキとレオンが姿を現した。
その姿を見届けた国王陛下は、小さく息を吐く。
「……聞きたいことがあり過ぎて困るものよ」
その一言に、張り詰めていた空気がわずかに緩み、その場にいた騎士や家臣たちから小さな笑いが漏れた。
私たちは案内され、そのまま謁見の間へと向かう。
改めて運河建設と砦の整備について一連の報告を終えると、国王陛下は満足そうに頷いた。
「見事であった」
その短い一言は、何よりの賛辞だった。
「国境の防衛力は飛躍的に向上した。それだけではない。兵たちの負担まで軽減してくれた。チキ、レオン、この功績は計り知れん」
陛下は侍従へ目配せする。
運ばれてきたのは、ずっしりとした複数の革袋と、一枚の証書だった。
「これは今回の報酬だ」
中には、これまでで最高額となる莫大な金貨が納められていた。
私は思わず目を丸くする。
「こ、こんなにいただいていいんですか?」
陛下は笑みを浮かべた。
「構わぬ。余は既に知っておる。そなたらが金を私欲のためだけに使わぬことをな」
そう言って私を真っ直ぐ見つめる。
「そなたは研究へ投資し、雇用を生み、町を発展させ、民の暮らしを便利にしてきた。その恩恵は巡り巡って国全体を豊かにしておる。ならば、報酬を惜しむ理由など一つもない」
宰相も頷き、告げる。
「むしろ、国としては投資と言ってもよいでしょう。お二人が新たな魔道具を生み出せば、それだけ国は発展します」
レオン先生は背筋を伸ばし、一礼した。
「……期待に応えられるよう、今後も研究を続けます」
「わ、私も出来ることをやりますっ」
「うむ。楽しみにしておる」
さらに陛下は、砦へ導入した冷暖房や給湯、浄水、防犯結界などの魔道具にも強い関心を示された。空飛ぶマンションにも同様の設備を備え付けてあると知ると、陛下はますます興味を深められた。
「聞けば聞くほど興味が尽きぬ。建物が空を飛ぶだけでも驚きだというのに、その中で人々が快適に暮らせるとは……」
陛下は少し考えた後、私へ視線を向ける。
「チキ、もし構わぬのであれば、その中を見せてもらうことはできるか?」
「あ、はい。もちろんです。ぜひ見ていってください」
私が答えると、陛下は満足そうに頷かれた。
すると、遠巻きに見守っていた騎士たちが慌ただしく動き始める。陛下の視察ともなれば、護衛が必要になる。
近衛騎士を中心とした護衛の列が組まれ、その後ろには宰相をはじめとした側近たちが続く。
気が付けば、国王陛下一行は護衛や側近を含めた大所帯になっていた。ぞろぞろと歩く一団が王城の廊下を進み、やがて着陸場へと到着する。
そこには、先ほど降り立った巨大な建物――空飛ぶマンションが静かに佇んでいた。近くで見るその姿に、護衛や側近たちから改めて驚きの声が漏れる。
「これが……空を飛んできたのか」
「信じられん……」
そんな声を聞きながら、陛下は満足そうに頷いた。
「では、案内を頼む」




