Side砦の司令官
挨拶もそこそこに、チキ殿たちは現地を確認したいと要望した。
陛下から託された任務を優先したいという気持ちは理解できる。その要望に応えるべく、私はチキ殿たち一同を国境の最前線へと案内した。
砦の外へ出ると、乾いた風が吹き抜ける。
見渡す限りの砂の大地。その向こうには、敵国との緩衝地帯が果てしなく続いていた。
「では、始めましょう」
レオン殿が静かに告げると、作業服を着た十人ほどの男たちが一斉に動き出した。
各々持ち運んでいた荷箱を展開していく。
中から現れたのは、見たこともない形の測定器具や魔道具の数々だった。
「基準点を設置します」
「第一班は東側へ。三百メートルごとに測定杭を打ってください」
「第二班は標高を測ります。誤差は一センチ以内でお願いします」
「了解」
迷いのない返事とともに、それぞれが散っていく。
ある者は細い金属杭を地面へ打ち込み、その先端へ魔石を組み込んだ小型の魔道具を取り付ける。
淡い青色の光が走ると、杭と杭の間に細い光の線が浮かび上がった。
「基準線固定。距離、三百一・二七メートル」
「記録しました」
別の男は地図へ細かな数字を書き込みながら首を振る。
「北へ行くほど傾斜が強くなっています。平均二・四度ですが、この付近だけ五度を超えています」
「地盤の影響でしょうか」
「いえ、地下岩盤の隆起かもしれません。掘削深度を確認します」
今度は円筒形の魔道具を地面へ押し当てる。
低い駆動音とともに魔法陣が回転し、助手が表示を覗き込んだ。
「地表から二・八メートルまでは砂礫層。その下に硬質岩盤を確認しました」
「硬度は?」
「十分です。大型術式の固定基盤として使用できます」
「ならアンカーは短くできますね」
「資材も節約できます」
次々と結論が導き出され、ちらりと見た用紙にはびっしりと数値が並んでいく。
さらに別の男は、小さな風車のような魔道具を高く掲げた。羽根がゆっくりと回転し、透明な魔力の粒子が空中へ舞う。
「平均風速、毎秒六・二。突風は九・八まで確認」
「乱流は?」
「午後になると西側から発生しています。浮遊術式へ影響する可能性があります」
「補正術式を一段追加しましょう」
「了解」
誰一人として無駄口を叩かない。
一人が測り、一人が記録し、一人が計算し、その結果を別の者が即座に検証する。
まるで長年訓練された軍隊のような統率だった。
その中心でレオン殿は地図と報告書を見比べながら、時折短く指示を飛ばす。
「第三班、測定範囲をさらに五百メートル延長してください」
「こちらの地盤データは再確認を。数値が美しすぎます。測定誤差の可能性があります」
「この地点だけ魔力濃度を追加で測りましょう。術式効率に影響するかもしれません」
正直言っている事の半分も理解できない。
測量が始まると、チキ殿はしばらく私の隣で現場の様子を見守っていたが、やがて軽く一礼した。
「私は少し別の準備をしてきますので、こちらはお任せします」
そう言い残すと、護衛二人を伴って空飛ぶ要塞へ戻っていく。
その背を見送っていると、レオン殿が何やら合図を送る。
次の瞬間、荷箱から次々と小型の飛行魔道具が飛び立った。
一機や二機ではない。数十機もの魔道具が鳥の群れのように空へ舞い上がり、国境沿いへ一斉に散開する。
「上空測量開始」
技術者の号令とともに、飛行魔道具は地上班と連携しながら広大な砂漠を測り始めた。
私は思わず息を呑む。
数十キロにも及ぶ測量だ。本来なら何週間、いや何か月とかかる作業のはずだった。
だが、地上では技術者たちが、空では飛行魔道具が、それぞれ同時に測量を進めている。
「……これが、王国最高峰の魔道具研究所か」
私はただ、その圧倒的な光景を見上げることしかできなかった。




