表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら、地球を所有してました  作者: りどみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/54

Side砦の司令官


 国境砦司令官ガレスは、執務室の窓から砂漠の先を眺めていた。隣国との緊張は日に日に高まり、いつ戦が始まってもおかしくない。

 砦には七千の兵士が駐屯し、警戒態勢は常に維持されている。

 その時だった。


「司令官!」

 見張りの兵士が血相を変えて飛び込んできた。


「空にっ巨大な物体を確認!」

「飛行魔物か?」

「分かりません! ですが巨大な建造物のように見えます!」

「建造物?」

 意味が分からない。


 ガレスは見張り台を駆け上がり、望遠魔道具を受け取った。

 レンズの先に映ったものを見た瞬間、言葉を失う。


「……何だ、あれは」

 巨大な建物だった。

 小山ほどの大きさの石造建築が空を飛んでいる。

 

「あり得ん……」


 そうしている間にも凄まじい速さで一直線に、この砦へ向かってくる。


「警戒警報を鳴らせ!」


 ガレスの怒号が砦中へ響く。

 鐘が激しく鳴り渡り、兵士たちが一斉に持ち場へ駆け出した。


「弓兵は城壁へ!」

「魔導兵は迎撃準備!」

「門を閉鎖しろ! 非戦闘員は地下へ!」


 訓練場は瞬く間に戦場の空気へ変わる。

 役人たちは重要書類を抱えて地下倉庫へ走り、補給部隊は武器や食料の搬送を始めた。

 ガレスは空を睨みつける。


(隣国の新兵器か……?)


 もしこれほど巨大な建物を飛ばせる技術を実用化したのなら、国境の要塞など意味を失う。

 壁を越え、兵を送り込み、補給まで行える。

 これまでの戦術が根底から覆される。


 嫌な汗が背中を伝った。


 巨大な飛行建築は速度を緩め、砦の前へゆっくりと降下を始める。

 その圧倒的な威容を前に、数千の兵士たちは武器を構えながらも、見守ることしかできなかった。










 巨大な建物が、静かに砦の前の砂漠へ着地する。

 砂煙が舞い上がり、重苦しい静寂が辺りを包んだ。


 見張り台を降り、正門前の指揮位置に立つガレス。 背後には副官と伝令、左右には近衛兵。

 城壁の上では数千の兵士が弓と魔導具を構え、彼の命令を待っている。


「全軍、構えを解くな」


 司令官ガレスの低い声が響く。

 数千の兵士が弓を引き、槍を構え、魔導兵たちはいつでも術式を放てるよう魔石へ手を添えている。


 巨大な建物の扉がゆっくり開く。砦側に緊張が走る。


 最初に姿を現したのは、武装した者たちだった。

 彼らは周囲を警戒しながら次々と建物から出ると、手際よく建物を囲むように左右へ展開する。

 重要人物を守るための陣形。


 その姿を見た砦の兵士たちの間に、小さなどよめきが広がった。


「……ん?」

「おい、あれ……」

「第四近衛隊の奴らじゃないか?」


 城壁の上で弓を構えていた兵士が目を丸くする。あちこちから戸惑い混じりの声が漏れ始める。

 周囲の兵士たちはさらに顔を見合わせる。


「敵じゃないのか?」

「いや、陛下直属の護衛だぞ、なぜここに」

「同期がいるんだが……」


 張り詰めていた空気に、わずかな困惑が混じり始めた。

 司令官ガレスも眉をひそめ、静かに見渡す。確かに見知った顔が数人いる。


 やがて一人の男がゆっくりと歩み出た。

 剣には手を掛けず、両手を見える位置に置いたまま砦の前で立ち止まる。


「国王陛下直属、第四近衛隊です」


 よく通る声が砂漠に響く。


「司令官ガレス殿へ、陛下より親書をお預かりしております」


 そう言って懐から封蝋の施された書状を取り出す。


 ガレスは視線だけで伝令へ合図した。

 伝令は警戒を解かぬまま砦を出て書状を受け取り、封蝋を確かめてからガレスのもとへ運ぶ。


 王家の紋章に間違いはない。

 ガレスは書状へ目を通し、眉をひそめた。


「……陛下が、この者たちへ国境防衛の支援を依頼した、とある」


 副官が戸惑いを隠せない表情で口を開く。


「しかし、そのような知らせは届いておりません」


 隊長格の護衛は困ったように苦笑した。


「申し訳ありません。恐らく、我々が伝令を追い越してしまったのでしょう」


 確かにあの速さで空を飛んで来たのなら、砦へ向かう伝令より早く到着したとしても、不思議ではなかった。

 ガレスは書状と護衛たちを見比べ、小さく息を吐いた。


「なるほどな。それで『支援』とは何だ?」


 護衛隊長は建物を振り返り、小さく一礼した。


「ご本人からご説明いただくのがよろしいかと」


 その言葉とともに、巨大な建物の入口に二つの人影が現れる。


 まだ若い女と白衣をまとった若い男だった。

 女は護衛に囲まれながらゆっくりと階段を下り、まっすぐガレスの前まで歩み寄ると、丁寧に一礼した。


「初めまして。チサと申します」


 続いて隣の男も軽く頭を下げる。


「魔道具研究所所長、レオンと申します」


 ガレスは目を細め、副官たちは思わず顔を見合わせた。

 巨大な建物から現れたのは、歴戦の将でも豪腕の騎士でもない。


 どこにでもいそうな女と研究者だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ