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異世界転移したら、地球を所有してました。その裏で、地球では大騒動が始まっていた。  作者: りどみ


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二日目の朝

 深い眠りから目が覚めた。

 カーテンの隙間から光が差し込んでいる。


「……よく寝た」

 

 天井の木目をぼんやり眺める。

 異世界へ来てまだ一日も経っていない。なのに、随分馴染んでしまった気がする。


 目を閉じ、地球のことを考える。


(昨日は金曜日だったから、今日は土曜日か)


 脳裏に浮かんだのは職場だった。

 このまま月曜日に出勤しなければ、なにかしら連絡がくるだろう。無駄に騒ぎになるのは面倒だ。


「退職、しようかな」


 正直だいぶブラックな職場なのだ。同期は全員転職し、もう一人も残っていない。決定的に辞める理由が無かっただけで、やり甲斐も無かった。


 横になったままやるべき事を考える。

 自宅の紙と封筒、ボールペンを取り寄せて退職届を書いたら、職場のポストへ直接投函しに行こう。

 手続きの不備も、不足もあるだろうがもうどうでもよかった。自分の意思を示せていればそれでいいや。

 

「荷物も空にしないと」


 自宅アパート。狭いワンルーム。

 《所有物の取り寄せ》で《一時置き場》に全部収納しておけばいい。

 ベッドも冷蔵庫も、本も食器も全部。 空っぽの部屋だけを残す。


 口座から貯金も全部引き出しておこう。

 家賃が引き落とせなくなれば、管理会社が部屋を確認し、住人が消えたと判断する。あ、一筆残しとけばいいのか。迷惑をかけるから十万くらい包んで……


 その後はもう、どうでもよかった。

 考えれば考えるほど、地球での自分が遠ざかっていく。


「……とりあえずご飯にしよ」


 今すぐ決めなくてもいい。

 窓の外からははじめて聴く鳴き声が聞こえていた。地球とは違う朝のはじまり。












 塩味オンリーの朝ごはんを頂き、宿を出る。

 お昼近い街は活気に満ちていた。


 石畳を行き交う荷馬車。 店先では威勢のいい声が飛び交い、香ばしい肉の匂いが風に乗って漂っている。


「いらっしゃい! 今朝採ったばかりの果実だよ」

「鍛冶屋の新作、ニーズ産で切れ味保証中!」

「値上がりしてるよぉ薬草は今日中に買っておきなよ!」


 市場は様々な商品で埋め尽くされていた。


 見たこともない紫色の野菜。 鱗の付いた巨大な魚。 拳ほどもある木の実。 透明な液体が入った小瓶。


(異世界だなぁ……)


 武器屋では剣や槍だけでなく、杖や魔導書らしき本まで並んでいる。

 薬屋からは独特の草の匂い。


 一際大きな建物が目に入った。石造りの三階建て。

 入口には大きな木製の看板『冒険者組合』

 剣と盾を組み合わせた紋章の下に、大きく文字が刻まれている。


 興味本位で近付く。入口は大きく開け放たれ、中から賑やかな声が漏れてきていた。

 中は想像していたより広い。


 酒場のように大きなテーブルが並び、革鎧姿の男女が大勢食事をしていた。

 巨大な斧を背負う男。ローブ姿の女性。

 耳の長い種族。犬のような耳を持つ獣人。

 昨日街を歩いていて見かけた以上に、多種多様な人々がいる。


 依頼を終えたばかりなのか、笑いながら酒を飲む者。受付で真剣な顔をして話す者。地図を広げて相談する者。

 まるでゲームや漫画の世界そのものだった。


(すご……)


 奥の壁には、人だかりができている。

 近付いてみると、大きな掲示板だった。びっしりと紙が貼られている。


『薬草採取 二十束 報酬 銀貨二枚』

『護衛依頼 一日 報酬 銀貨五枚』

『迷子猫捜索 報酬 銅貨八枚』

『討伐依頼 森狼 三頭 報酬 銀貨二十枚』


(昨日のペットボトルの買取、すごく高かったたんだなぁ)


 よく見ると、掲示板の端には何枚か古びた紙が残っていた。

 角が丸まり、日焼けしてしまっている。


『西の鉱山に棲みついた巨大岩蛇の討伐』

『立入禁止区域にある希少鉱石の採取』

『毒沼地帯の調査』

『崩落した坑道の復旧』


 どれも報酬は金貨数十枚。とんでもない金額だ。


(誰も受けない依頼かぁ)


 討伐は命懸け。毒沼など近付くだけで危険。

 崩落した坑道など、普通ならどうにもならない。


(……いや、ちょっと待って)


 《地球所有》地球から物質を取り寄せられる能力。


(毒沼……)


 地球には毒を吸着する素材がある。

 活性炭。ゼオライト。石灰。

 それこそ薬品を大量に用意できれば、水質を改善できるかもしれない。


(崩落した坑道)


 鉄骨。ジャッキ。ワイヤー。コンクリート。工事用資材。

 いや、そもそも一時置き場に収納してしまえば……。


(岩蛇……蛇、ヘビかぁ)


 高温のマグマや大量の落石を利用すれば、なんとかなるかも……。







「…………」


 思考が止まらない。


 難易度の高い依頼でも、地球のモノを使って解決できるかもしれない。逆に、この世界では当たり前でも地球にはないものもあるだろう。


 魔法と科学。それらを組み合わせたらどうなるのか。

 

(……ちょっと興味あるな)











 

「あの、すみません」


 私は受付へ行き、女性職員へ声を掛けた。


「はい、何でしょう?」

「少し気になったんですが……」


 私は掲示板を指差した。


「ああいう依頼って、魔法で簡単に解決できたりしないんですか?崩落した坑道なら土魔法で直したりとか」


 受付の女性は一瞬きょとんとした後、小さく笑った。


「ふふっ、確かにそう思われても不思議ではありませんね」


 彼女は丁寧な口調で説明してくれた。


「確かに魔法は便利です。でも、皆さんが想像されるほど万能ではないんですよ」

「そうなんですか?」

「はい。まず、魔法は誰でも使えるわけではありません。適性が必要なんです。また、学ぶのにも莫大な時間とお金が掛かります」


 なるほど。

 ゲームのように全員が火球を撃てるわけではないらしい。


「それに魔法は自分の魔力を消費します。一日に使える量には限りがありますから。

 崩落した坑道を直せるほどの土魔法使いでしたら、王都の工事や城壁建設に引っ張りだこですね」


 意外と現実的だ。

 無限に撃てるわけではないらしい。


「それに、魔法を使える人は貴重ですからね」

「そうなんですか?」

「ええ。だからこそ、薬草採取や荷運び、街道の警備などは冒険者の皆さんが請け負ってくださるんです。魔法使いが毎日そうした仕事をしていたら、需要と供給が足りなくなってしまいますから」


 社会全体で役割分担ができているわけか。そう考えると、とても納得できた。

 私は頭を下げた。


「ありがとうございます。よく分かりました」

「どういたしまして。分からないことがあれば、いつでも聞いてください」


 私はもう一度掲示板へ視線を向ける。


 ここは魔法の世界だけど、何でも魔法で解決できるわけじゃない。だからこそ――地球の知識や道具が通用する余地がある。

 

 なにか私にしかできないことがあるかもしれない。

 

 

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