地形
大規模な取り寄せで沼地を埋め立てた数日後、私は王城へ呼ばれた。
応接室には国王陛下と宰相、それにレオン先生まで顔をそろえている。
陛下は穏やかな表情で口を開いた。
「まずは礼を言わせてほしい。あれほどの規模の事業をよく、わずかな時間で成し遂げてくれた。国中が驚いておる」
「ありがとうございます」
宰相は姿勢を正し、静かに切り出した。
「チキ殿。一つ、お伺いしたいことがあります」
「はい」
「今回の件で、改めてお力の凄まじさを実感いたしました。そこでお聞きしたいのですが……その『取り寄せ』には限界があるのでしょうか」
私は少し考える。
「……正直、私にも分かりません」
「分からない、と言いますと?」
「この力は、こちらへ召喚されてから突然使えるようになったものです。最初は小さな私物しか取り寄せていませんでしたが、必要になるたび少しずつ規模を大きくしてきました」
一度言葉を切り、私は続けた。
「でも今まで『これは無理そうだ』って感覚が一度もないんです」
部屋の空気が静まり返る。宰相は聞き返した。
「つまり……現時点では不可能、と思われる取り寄せはない、と」
「はい。少なくとも、私が試した範囲ではありません」
その瞬間、陛下と宰相が顔を見合わせた。レオン先生も静かに固まっている。
しばらく沈黙が流れた後、宰相は小さく息を吐いた。
「チキ殿。実は、頼り切りになってしまい大変心苦しいのですが……」
「はい」
「もう一つご相談したいことがございます」
宰相は机の上に地図を広げ、その一角を指差した。
「我が国と隣国との国境線です」
地図の国境線を指でなぞりながら、静かに続ける。
「隣国とは、過去の領土問題をきっかけに、長年関係が良好とは言えません」
陛下も憂いの表情で口を開いた。
「それでもこれまでは互いに自制し、大きな衝突は避けてきた。しかし、ここ最近は貿易摩擦も重なり、緊張が高まっておる」
宰相は一枚の書類を取り出した。
「実は先月から、我が国は隣国へ滞在している国民に対し、順次帰国するよう勧告を出しております」
その言葉に、私は思わず息をのんだ。
「そこまで状況が悪いんですか……」
「はい……もちろんすぐに戦争になるというわけではありません。しかし、国家とは最悪の事態を想定して備えるものです」
宰相は真っ直ぐ私を見つめた。
「ご相談なのですが隣国との境界線に、天然の防壁となる地形を築けないでしょうか。断崖でも、山脈でも構いません。侵攻を容易には許さない障壁を用意したいのです」
「なるほど……」
私は地図へ目を落とした。
国境線は思っていたよりもずっと短い。
「意外と距離は長くないんですね」
「ええ。この一帯は広大な砂漠でして、両国を隔てる国境も、その砂漠の中にあります」
宰相が地図を指し示す。
「人が住める土地は限られておりますので、実際に警戒すべき範囲はこの区間だけなのです」
私は地図を見つめながら考え込んだ。
「……それなら、防壁を造るよりいい方法があるかもしれません」
「ほう?」
「国境に沿って、幅二キロほどの大きな運河を造るんです」
その場にいた全員が目を丸くした。
「運河、ですか?」
「はい。砂を《一時保管》へ取り込んで、その下の岩盤も必要な深さまで取り込みます。そこへ大量の海水を取り寄せて満たします。人工の堀になりますから、軍勢は簡単には渡れません」
部屋が静まり返る。
宰相が恐る恐る尋ねた。
「……海水を、それほどの量取り寄せられるのですか」
「はい。この程度の量なら問題ないと感覚で分かります」
国王は苦笑しながら息を吐いた。
「お主は発想まで規格外じゃな……」
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