大規模、取り寄せ
魔導列車の建設計画は、町と隣街を結ぶ一本の路線から始まった。
従来は馬車で二刻かかっていた道のりが、ほんの瞬き足らず。
座席に腰を下ろし、窓の外へ目を向けた頃には、もう到着している。
初めて乗る者はあまりの速さに驚き、何度も乗るうちに、その便利さは欠かせないものになっていった。
利用者は日に日に増え、駅の周辺には露店や食堂も並び始める。
一方で、街道を行き来していた馬車の仕事は大きく減った。
そこで私は、馬車の御者や従業員たちへ声をかけた。
「よかったら、駅で働きませんか?」
駅員として切符の販売確認。慣れない乗客の案内。荷物の積み下ろし。車両の清掃や点検。
これまで街道で人や荷物を運んできた経験は、そのまま駅の仕事でも大いに役立った。
新しい仕事に最初は戸惑っていた者たちも、次第に慣れて乗客を迎えるようになる。
そして隣街との路線が軌道に乗ると、私は次の路線の建設を始めた。
一本ずつ、着実に。
魔導列車の線路は、少しずつ王国の街と街を結んでいった。
次の路線の視察を終えた私は、久しぶりにナナとカイのいる宿を訪ねることにした。
手土産に選んだのは、駅で人気の駅弁当だ。
木箱の蓋を開けると、香ばしく焼かれた肉や煮物、色鮮やかな野菜がぎっしりと詰められている。列車の旅のお供として評判になり、昼頃には売り切れてしまうことも珍しくない一品だった。
宿へ顔を出すと、私に気づいたナナとカイがぱっと駆け寄ってくる。
「チキお姉ちゃん!」
「久しぶり!」
二人は以前より少し背が伸びていて、その成長に思わず頬が緩んだ。
「久しぶりだね、元気だった?お土産があるよ」
私がご家族分の駅弁当を差し出すと、ナナとカイは目を輝かせた。
「わ、駅弁当だ!」
「ありがとう、チキお姉ちゃん!」
二人が嬉しそうに受け取っていると、宿の主人が笑いながらやって来た。
「実はこの前、休みをもらって家族みんなで魔導列車に乗ってきたんだよ」
「え、そうなんですか?」
「うん。いやぁ、本当に驚いたよ。座って景色を見ていたら、もう着いていてね。あっという間だったよ」
主人は感心したように何度も頷く。
「揺れも少なくて快適だし、子どもたちも大喜びでね」
「また乗りたい!」
「今度はもっと遠くまで行こうよ!」
ナナとカイが口々に話し始め、その楽しそうな様子に私も自然と笑みがこぼれた。
魔導列車の建設は順調に進んでいた――だが、ある地点で工事は完全に止まった。
町と町を結ぶ最短ルートの途中に、巨大な沼地が横たわっていたのだ。
見渡す限り続くぬかるみ。底なし沼と恐れられる程深く、柔らかい。線路を敷いても地盤ごと沈んでしまい、とても列車の重量には耐えられない。
「迂回するしかありません」
工事責任者は地図を広げながら肩を落とした。
「ですが、この湿地を避けるとなると、大きく南へ回り込む必要があります。工期は一年以上延び、建設費も莫大になります」
沼地を前に、同行していた町長が深いため息をついた。
「まさか、またこの沼に行く手を阻まれるとは……」
悔しそうに広がるぬかるみを見つめる。
「昔から何度も道を通そうという話はあったんです。しかし、人が入れば足を取られ、資材を運べば沈み込む。橋を架けようにも土台が作れず、結局、誰も手を付けられませんでした」
工事責任者も頷く。
「街道も大きく迂回しています。この沼さえなければ、隣町まで半日近く短縮できたはずなんですが……」
町長は苦笑した。
「商人も旅人も、この沼には何百年も泣かされてきました。王国でも指折りの役立たずな土地なんです……」
そう言って遣る瀬無さそうに、見渡す限り広がる底なし沼を眺める。
重苦しい空気が現場に流れる。
私は少し考え、《地球所有》を発動した。人が住んでおらず、環境への影響も最小限で済む場所を検索する。
すると、広大な岩山や採石場跡、人気のない荒野が次々と表示された。
「ここなら……」
誰もいないことを何度も確認してから、私は取り寄せを実行する。
「なら、埋め立てましょう」
「……はい?」
「資材なら取り寄せます」
現場を見て出現地点を定め、取り寄せを実行する。
沼地の上に無数の魔法陣のような光が広がる。
次の瞬間。
ゴォォォォッ――!
巨大な岩塊が次々と空中へ現れ、一直線に沼地へ落下していく。
轟音が連続して響き、大地が激しく揺れた。
「うわぁっ!」
「な、なんだっ……!」
「岩が降ってるぞ……!」
作業員たちは腰を抜かし、護衛たちは身を固くする。
しかし、落下する岩は誰一人傷つけることなく、正確に沼だけを埋めていく。
「狙って落としているのか……?」
「こんな大規模な魔法、見たことがない……」
驚きの声が次々と上がる。
取り寄せたのは、地球に無数に存在する大量の砕石だった。
空中から轟音とともに岩石が次々と降り注ぎ、広大な沼地へ積み重なっていく。さらに砂利や砂も大量に投入し、何層にも締め固める。
途切れることなく降り注ぎ、沼はみるみるうちに埋まりはじめる。
誰もが息を呑み、目の前の光景をただ見守るしかなかった。
数刻後、沼地は見違えるほど頑丈な地盤へと生まれ変わっていた。
工事責任者は何度も地盤を歩き回り調査し、信じられないという表情で報告する。
「問題ありません……これなら予定どおり開通できます!」
静かに歓声が上がる。
「まさか、本当に沼を消してしまうとは……」
町長が呆然と呟き、その場にいた全員が深く頷いた。
こうして最大の難所は、わずかな期間で突破され、魔導列車の建設は再び勢いよく進み始めた。




