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異世界転移したら、地球を所有してました。その裏で、地球では大騒動が始まっていた。  作者: りどみ


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取り寄せ

 正直、森を舐めていた。

 大小様々な石が転がり、巨大な根が張っている。削られたような窪みもある。苔むした地面は踏ん張りがきかず危ない。



 四苦八苦しながらもしばらく進んでいくと、木々がだんだん無くなってきた。

 不意に、土が踏み固められた場所に出た。


「……道?」


 よくよく見やるとそれはまっすぐ伸びていた。






【所持品】から取り出した自転車へとまたがる。気持ちいい風に背を押され進んでいく

 時折自転車を停め、辺りを見遣る。だんだん土から草原に変わってきた。


 緩やかな坂を上り切ったところで、思わず息を呑んだ。


「わ、あ」


 視界の先。巨大な石造りの城壁が地平線を横切るようにそびえ立っていた。

 その内側にはオレンジ色の屋根が幾重にも並び、奥には高い塔まで見える。

 街だ。想像していたより、ずっと大きくて立派だ。


 正直、この世界のことは何も知らない。

 言葉が通じるのか。人間同士で争いはないのか。


「慎重にいこ……危ない時は即帰還で」












 自転車でそれなりの距離まで近づいた後【一時置き場】に収納し、城壁へと歩き出す。

 大きな門の前には長い人の列ができていた。


 開かれている巨大な鉄製の門、その両脇には揃いの格好の兵士が四人。簡素な鎧を身につけ、列へ視線を向けている。

 何かしらチェックを受けた人や荷馬車が次々と動く。

 

 旅人らしき格好の人。荷物を背負った男性。馬付きの大きな荷車を引く商人。

 兵士は一人ずつ何かを確認してから、中へ通しているようだった。


「身分証とかいるのかな……」


 もちろん、この世界の身分証など持っているはずがない。

 どうしたもんか。


「とりあえず聞いてみよ……」


 列はゆっくりと進む。私の前の二人組は収穫物の話をしていた。


「今年は雨が少なくて参ったよ」

「魔法で水を引いても限界があるよな」


 魔法。その言葉に心臓が跳ねた。すぐ後ろからは愚痴が聞こえてくる。


「今度から銀貨二枚も増えて、商売あがったりだよ」

「最近は検査も厳くてよ」


 兵士の声が聞こえてきた。


「通行証と身分証を」

「よし。次」


 もしかしたら観光地のように誰でも入れるのでは、と少しだけ期待していた。

 あーーどうしようかな。正直に異世界から来ましたと言う?魔法がある世界なら、そういう事もあり得ないかな。

 順番になり、兵士が私を見る。


「通行証と身分証を」

「あーーその、ちょっと」

「持ってないのか?」

「えっと……」


 沈黙が流れる。

 兵士は隣の仲間と小さく目配せした。


「確認するのでこちらへ」

「……はい」


 先を行く兵士に連れられ門脇の建物へ入った。

 案内されたのは、小さな机と椅子だけが置かれた質素な部屋。兵士に促され、硬い木の椅子へ腰を下ろす。


  向かいの席に新しく現れた兵士が座る。斜め後ろに立つここまで連れてきた兵士より少し年上だ


  「これは取り調べではありません。身元が確認できない方には、事情を聞く決まりになっています」


 穏やかな口調で告げられ、少しだけ肩の力が抜ける。


「お名前は?」

「田中愛子です」

「たなかあいこ」


 兵士は紙にペンを走らせる。


  「では、なぜ身分証を持っていないのですか」


 私は迷った。ここで嘘を重ねても、きっとすぐに矛盾が出る。この世界のことを何も知らないのだから。


「……信じてもらえないかもしれませんが」

  「正直に話してください」


 私はゆっくりと息を吸った。


「歩いていたら、急に地面が光って……」


 兵士の表情が変わる。


  「気が付いたら森の中に立っていました。正直、ここがどこの国なのかも分かりません」


  部屋が静まり返った。

 やっぱりこんな話、信じてもらえるはずが


「転移事故か」


 兵士がぽつりと呟いた。 思わず顔を上げる。


「検査機を」

「はい」


  若い方の兵士が、壁の棚から手のひらほどの透明な板を取り出した。


「両手を重ねてこちらへ乗せて下さい」


  恐る恐る手を乗せると、光が私の体を包み消えた。

 若い兵士は板を見つめ、小さく頷いた。


「残っています」

「どの程度だ?」

「かなり高位の残痕です。しかも本人が発動したものではありません」


 年配の兵士は腕を組んだ。


「巻き込まれか」


 私は思わず尋ねた。


「あの……こういうことは、よくあるんですか?」


  兵士は頷き「頻繁ではありませんが、 高位の転移魔法や召喚魔法に第三者が巻き込まれる事があります」


 この世界では認識されている現象らしい。胸をなで下ろす。


  「取り敢えず臨時の身分証の発行が必要だな」


  兵士は机の横から書類を取り出しながら言った。


「出身地はどちらですか?」


 少し迷ったが、本当のことを言う事にした。


「……日本です、小さな島国です」

「にほん?」


  兵士が顔を上げる。


「はい。海に囲まれた、小さな国です」

「……聞いたことがないですね」


 若い兵士が首を傾げる。 年配の兵士も地図を思い浮かべるように目を細めた。


「……まぁ世界は広い。海の向こうには交流のない島国もあるのだろう。出身は『遠方の島国』と記録しておきます」


 兵士はそう言って書類へペンを走らせた。

 私は小さく頭を下げた。


「身分証はこれでよいとして。転移してきたとなるとこれからどうするかですね。一応、転移事故の被害者には最低限の保証は付きます。ただ、国も慈善事業ではないので……」

「はい」


 それは当然だと思う。


「何か仕事につけそうなスキルはありますか?」


  少しだけ迷う。私自身まだ詳しく把握出来ていないから何が出来るか分からない。


「えっと、物を取り寄せるような提供系の魔法を」


  嘘ではない。ただ、本当の規模は隠す。

 兵士の目が瞬く。


「珍しいですね」


  若い兵士も物珍しげにこちらを見る。


「提供、支援系は数が少ないので、使い方次第では十分食べていけますよ」


 そう言われても実感はない。


「それなら話は早いですね」


  兵士は紙を一枚取り出し、さらさらと何かを書き始めた。


「城門近くに国が扱っている質屋があります。適切な値で買い取りを行なっておりますので」


  書き終えると、紙を私へ差し出した。 簡単な地図と店の名前が記されている。


「ありがとうございます」

「今後の生活についても、随時相談を受け付けますので。何かあったらこちらへお気軽に声をかけてください」



 

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