表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら、地球を所有してました。その裏で、地球では大騒動が始まっていた。  作者: りどみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/54

転移

 仕事が終わって会社を出たところで、スマートフォンが震えた。

 画面には叔母の名前。

 嫌な予感を覚えながら電話に出る。


「お米がなくなりそうだから買ってきて。ついでに洗剤も」

「……今日は疲れてるからちょっと」

「はぁ? 家族なんだから、これくらいいいじゃないの。どうせ通り道なんだし」

 その言葉を聞いて、小さく息をつく。

「……分かった」

 反論するのも面倒だった。


 通話を切ると、夜風が頬を撫でる。

 駅前は仕事帰りの人たちで賑わっていた。

 楽しそうに笑い合う会社員。

 恋人らしい二人。親子連れ。

 その中を一人で歩く。


 幼い頃、交通事故で両親を亡くした。

 そのあと親戚に引き取られ育てられた。

 残された遺産は「管理してあげる」という言葉とともに、いつの間にか身内の遊興費へ消えていた。

「家族なんだから」の一言で労働力として良いように使われる日々。


 逃げるように一人暮らしを始めてもそれは変わらず。

 買い物。送迎。

 ちょっとしたお金の立て替え。

 断れば空気が悪くなるから、結局引き受けてしまう。

 それが当たり前になっていた。


「はぁ……」

 深いため息が漏れる。

 断れない弱い自分が嫌いだった。


 ただ、自分の時間が欲しい。

 家に帰って、お風呂に入って、美味しいものを食べ好きな動画でも見ながら寝たい。

 それだけだった。

「疲れたなぁ」

 俯き、歩きながらぽつりと呟く。


 その瞬間だった。

 足元に淡い光が広がる。

「え?」

 螺旋を描くように光が地面を走り、複雑な模様を形作る。

 まるでファンタジーのような魔法陣。


 あっけにとられた瞬間、身体から重力が消えた。

 周囲の喧騒が消え、身体がふわりと浮く感覚。

 そして――。


「……っ!」

 瞬きの間に、足元は湿った土へと変わっていた。

 目の前は見渡す限りの木々。

 青い空へと伸びていく巨木たち。

 さっきまでいた駅前は跡形もなかった。

 土と湿度の空気。


「なにこれ?」

 見知らぬ景色に立ち尽くしていると、目の前に青い光が集まり正方形のモニターになる。

 半透明の、大きな画面だった。


【異世界へようこそ】

「……異世界?」

 思わず読み上げる。


 画面は静かに切り替わった。

【固有スキルを確認します】

 《地球所有》


「地球、所有?」

【あなたは地球の所有者として登録されました】

「えぇ……?」

 意味が分からない。

 地球って、所有できるものなの?

 困惑していると、新しい項目が複数表示された。


【地球モニター】

【帰還】

【所有権限】

 試しに『地球モニター』へ触れる。

 画面いっぱいに映像が映し出された。


 夜の街。

 車が走る駅前。


「……これ」

 ついさっきまで自分がいた場所だった。

 映像は自由に動かせるらしい。

 指を上に滑らせると視点が上昇し、日本列島が映る。

 さらに高く雲を抜け、宇宙へ。

 青く輝く地球。


「地球だ……」

 映画でも見ているような感覚だった。


 次に『帰還』へ触れる。

【地球へ帰還しますか?】

【YES/NO】


「帰れるんだ」

 少しだけ安心した。帰れないわけではない。その気になれば、戻れるらしい。

 画面を見つめたまま考える。


 叔母からの繰り返される電話。

 明日も明後日もその先も何も変わらないだろう日々。


「……」

 指先がさ迷い、そのまま動きを止めた。


「……いいか。帰らなくて」

 自分でも驚くほど、あっさりと言葉が出た。

 仕事だって自分の代わりはいくらでもいる。

 誰かが泣いて探してくれるとも思えない。未練はなかった。


 自分でもつまらない人間だと思う。

 だったら、こんな時くらい自分の気持ちを優先してもいいだろう。

『NO』を押す。

 森を吹き抜ける風が心地いい。


 モニターが再び光る。

【《地球所有》第一権限を解放します】

 画面の端に、新しい項目が一つ追加された。

【所有物の取り寄せ】


「……え?」

 思わず瞬きをする。

 触れると、画面が切り替わった。


【取り寄せ可能な対象を表示します】

 一覧が現れる。


【大気】


【海水】


【淡水】


【土壌】


【砂】


【岩石】


【植物】


【鉱物】


【建造物】


【乗り物】


【日用品】


【その他】


「……えぇ?」

 思わず画面を二度見した。

 さらに詳しくスクロールすると、項目は延々と続いている。


「ちょっと待ってよ……」

 壮大過ぎて頭が追いつかない。

 ふと目へ入ったのは【所持品】だった。

 タップすると自分の家の中の私物がズラリと表示される。

 洋服。ノートパソコン。本。食器。

 身の丈に合った内容に安堵する。


「あ」


【自転車】

 あの家を出て一人暮らしを始めたときに買った。

 安物だけど、バイト代を貯めて買った相棒だ。

 思わず『取り寄せ』ボタンを押す。


 足元に光の輪が広がった。

 ポンッ。

 軽い音とともに、自転車が現れた。


「……私のだ」


 傷の位置も、前かごに貼った防犯シールもそのまま。

 間違いなく、自分の自転車だった。


「すごい……本当に地球から取り寄せたんだ」


 どこまでも続く木々の中に、自転車と私だけがぽつんと立っている。

 それが妙におかしくて、思わず笑ってしまった。

「ふふっ。」


 妙に浮かれた気分で自転車にまたがる。この先に何があるかなんて分からない。

 それでも、不思議と心は軽かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ