地球Side刑事
捜査本部へ駆け込んできた刑事が、強張った顔で告げる。
「行方不明者の田中愛子さんについて、新しい情報です」
会議室にいた刑事たちが一斉に顔を上げる。
「勤務先の十三人が確認し全員が本人と断言しました。また服装も、失踪当日に駅前の防犯カメラへ映っていたものと同様のもの、歩き方も一致したそうです」
黒崎は眉をひそめた。
「その後の足取りは?」
黒崎の問いに、報告していた刑事は悔しげに首を横に振った。
「追えませんでした」
「どういうことだ」
「会社の防犯カメラは、田中愛子さんが封筒を投函した後、敷地を出るところまでは確認できています」
資料をめくりながら続ける。
「その先200メートルは別の店舗の防犯カメラにも映っています。そこまでは追跡できました。ですが」
説明しながら、刑事はスクリーン上の地図の一点を指差した。
「ここ、この細い路地です。ここに対象が入っていく姿が確認できるのですが、そこから先がわかっていません。
ここは両側の建物に遮られ、防犯カメラの死角になっています」
黒崎は地図へ視線を落とす。
「反対側の出口は」
「確認しました。しかし、どのカメラにも田中さんらしき人物は映っていません」
部屋が静まり返る。
「つまり……」
「路地へ入ったところまでは確認できています。しかし、そこで消えてしまっています」
黒崎は腕を組む。
「周辺の聞き込みは」
「休日のオフィス街のため、人通りが少なく、有力な目撃証言は得られていません」
黒崎はゆっくり息を吐いた。
「……分からない、か」
「ですが、会社へ現れるまでの足取りは追えました」
刑事は新たな資料を机に広げた。
「監視カメラをつなぎ合わせた結果、田中愛子さんは本日昼、自宅アパートを出ています」
黒崎は時系列の一覧へ目を落とす。
「アパート……」
「その後、駅前のコンビニへ立ち寄り、ATMで現金を引き出しています」
「金額は」
「銀行へ照会中です」
さらに資料をめくる。
「その後、自宅最寄り駅から電車に乗車。会社最寄り駅で降りています」
「ふむ」
「その後、徒歩で会社へ向かい、午後一時四十七分、会社の郵便受けへ封筒を投函しました」
黒崎は静かに頷く。
「つまり、会社へ着くまでは行動を追えているわけだな」
「はい。防犯カメラのリレーで、ほぼ途切れることなく確認できています」
黒崎は資料から顔を上げた。
「……自宅アパートを出る前の足取りはどうなっている?」
会議室が静まり返る。
報告していた刑事は、申し訳なさそうに首を横へ振った。
「それが……確認できていません」
「できていない?」
「はい。昨夕、駅前で光に包まれて姿が消えた、あの直後からです」
刑事は監視カメラの配置図を広げる。
「駅周辺、主要道路、商店街、公園、住宅街と、防犯カメラを可能な限り確認しました。しかし――」
一呼吸置いて続けた。
「田中愛子さんの姿は、一度も映っていません」
黒崎の眉が寄る。
「そして、次に確認されたのが?」
「本日昼過ぎ、自宅アパートの防犯カメラです」
別の刑事が補足する。
「午後一時三分、自宅アパートから出てくる田中さんが映っています。服装も所持品も昨夜と同じで、特に変わった様子はありません」
「つまり……」
黒崎はゆっくりと言葉を続けた。
「駅前で消えたあと、自宅へ戻るまでの足取りが、まるごと分からないということか」
「はい」
刑事は頷いた。
「どうやって自宅へ戻ったのか。徒歩なのか、車なのか、誰かと一緒だったのか。それとも別の経路を使ったのか……現時点では何一つ分かっていません」
会議室に重い沈黙が落ちる。
佐伯は腕を組んだ。
「……空白が二つあるな」
「二つ、ですか?」
「ああ。駅前から自宅まで。そして会社を出て路地へ入ったあとだ」
どちらも、防犯カメラでは説明できない空白。
しかも二回目は自分からカメラの死角に入ったように見える。
偶然とは思えなかった。
「令状を取る。家宅捜索の準備を」




