地球Side巡査部長
金曜日の午後六時過ぎ。
駅前交番で勤務中だった巡査部長・佐伯は、一本の110番通報を受けた。
『あ、あの……人が消えました!』
受話器の向こうから、震えた女性の声が聞こえる。
「落ち着いてください。場所を教えてください」
『○○駅の東口です! 目の前で、人が光って……そのまま消えたんです!』
佐伯は一瞬だけ手を止めた。
(光って消えた?)
酔っ払いか、精神的に混乱している人の通報か。
そう思いながらも、警察官としては決めつけるわけにはいかない。
「その方は男性ですか、女性ですか」
『女の人です! 若い人! 突然、足元が光ったと思ったら、眩しくなって……一瞬でいなくなってしまいました!』
「事件性がある可能性もあります。その場を離れずにお待ちください。すぐに向かいます」
通話を切ると、佐伯は無線を取る。
「○○駅東口。女性が突然消失との110番。確認に向かいます、どうぞ」
同僚とともにパトカーで現場へ急行した。
現場には十人ほどの人だかりができていた。
「警察です。少し下がってください」
規制線を張り、通報者から事情を聞く。
「本当に目の前で消えたんです」
四十代ほどの女性は顔色を悪くしながら話した。
「スマホで通話しながら歩いていたんです、その人。で、スマホを耳から離して『疲れたな』って言ったと思ったら……地面が白く光ったんです。それで、一瞬目を閉じて開けたらもういなかったんです」
「……誰かと接触したり、車に乗ったりは?」
「そんなのありません。何も」
周囲の目撃者にも話を聞く。
「私も見ました」
「光ったのは確かです」
「爆発とかじゃない。音もしませんでした」
「消えた……としか言えないです」
証言は細部こそ違うものの、大筋は一致していた。
現場には血痕も争った跡もない。
目撃者たちの連絡先を控え、解散してもらう。
「監視カメラを確認しよう」
駅前には防犯カメラが何台も設置されている。
映像を確認すれば、何かわかるかもしれない。
数時間後。警察署の映像解析室。
佐伯は防犯カメラの映像を食い入るように見つめていた。
映像には、女性が歩いている姿が映っている。
次の瞬間。
足元から白い光が広がり――消えた、一瞬で。
編集の痕跡もない。
カメラの故障でもない。
「……なんだ、これは」
部屋の空気が重くなる。
隣で映像を見ていた刑事も言葉を失っていた。
「誘拐でも拉致でも説明がつかないぞ」
「映像解析にも回します」
「マスコミにはまだ出すな。混乱する」
その日、事件は『行方不明事案』として処理された。
しかし担当した警察官たちは誰一人として、あの映像を忘れることはできなかった。
"人間が光に包まれ、瞬時に跡形もなく消える"
常識では説明できない出来事。
その真実を知る者は、この世界にはまだ誰もいなかった。




