第34話 「肺臓・毒味クイーン2」
アナタは『言葉に詰まった』ことがありますか?
「うおおぉぉーーーーっ」
バアアァァーーーー
毒味クイーンは、吹っ飛んでいった
「や、やったーーっ!」
「毒味ねえさん!」
心配した薬味ちゃんが、毒味クイーンのもとに駆け付ける
「う、うぅぅ……」
「よかった、死んではいないみたい」
薬味ちゃんは、毒味クイーンを回復している
パアァァ……
薬味ちゃんに回復してもらった毒味クイーンは、上体を起こす
「まさかここまで強くなっていたとは……私の読みが甘かったというのか……?」
メンバーとたもつが、毒味クイーンの前に。
代表してレッドが話し出す
「毒味クイーン、このままこの身体が崩壊すれば、どこにも安全な場所などない。
お前の望みである、『薬味ちゃんと、二人で平和に暮らす』ことも、きっと叶わない」
「悪玉キングさまは、『私と薬味の命だけは保証する』と言ってくれたのだ……」
「それこそ利用されているだけだとしたら? 確証などないのだろう?」
「……」
毒味クイーンは黙し、俯いてしまう
「私たちと一緒に来てくれ、私たちが死なずに、この身体が平和になる方法を、一緒に考えよう」
「……」
レッドが、毒味クイーンに手を差し伸べる
毒味クイーンが、ゆっくりと手を伸ばす……
その時――
ズズズズズズ……
「な、なんだ? この邪悪な波動……?」
「こんなもの凄い波動、今まで感じたことなんてない……鳥肌が、止まらない!」
全員に動揺が走る
毒味クイーンが、冷や汗を流し、ガタガタ震えだした
「これは、まさか……」
そう言って、空を見上げる
メンバーとたもつも、毒味クイーンが見ている方に視線を移す
「なんだ、あれは!?」
ズズズアアァァ……
空中の一部に、亀裂が入ったかと思うと、そこから指が出てきて、空間を無理やりこじ開ける
バキバキバキバキーーッ
中から出てきたのは、鎧を纏い、隙間から邪悪なオーラが吹きだしている、巨大な何か……
ワナワナと震えている毒味クイーンが、震える声で静かに呟く
「あ、悪玉キングさま……」
「なんだって!?」
「あれが……悪玉キング!?」
悪玉キングと呼ばれしその者は、空中で制止し、その氷のように冷たい真っ赤な目で、眼下のメンバーとたもつ、そして毒味クイーンを見おろす
「なんというプレッシャーだ……睨まれているだけで、体に力が入らない」
「こ、呼吸が……息苦しい……」
存在するだけで、周りの雰囲気は一変。 まるで地獄の底に落とされたよう
静かに、しかし異様なほど低く、響く声で、悪玉キングが話し出す
「毒味クイーンよ、どうやら敗れてしまったようだな」
「も、申し訳ありません、悪玉キングさま」
毒味クイーンは、その場で土下座、震えが止まらない
「構わん、お前はよくやってくれた、もうよい、下がるがいい」
悪玉キングの目線は、毒味クイーンからメンバーとたもつへ
「フフッ、忌々しい善玉キングの犬めらが……
散々、我の邪魔をし、毒味クイーンまで倒すとは、見上げたものだ。
丁度良い、今ここで、今までの『お礼』を返すとしよう」
悪玉キングが両手を広げる
それだけで、もの凄い突風が吹き荒れる
ゴオオオォォォーー
「うわぁっ」
細身のブルーとピンクは耐えられず、ゴロゴロ転がって、壁にぶつかる
「なんなんだ、あいつ……」
想像よりも、はるかに強大なその姿に、たもつもメンバーも驚愕する
たもつは、何とか立ち上がり、悪玉キングを指差し、叫ぶ
「やめろっ、悪玉キング! お前だって俺の体の一部だろ? だったらこれ以上この身体を悪くするな、お前だって存在できなくなるんだぞ」
悪玉キングは、たもつを睨みつける
「たもつ……この身体そのもの……貴様の存在が、この身体の現状となる」
「そ、そうだ!」
「ならばなぜ、善玉キングと共闘し、我を倒そうとする?」
「それは……お前が、この身体を悪くしようとするから……」
悪玉キングは目を閉じ、すぅっと一息息を吸うと、また目を見開き、たもつを睨む
「我を作ったのは貴様だ……ならば、我を否定するな」
「うっ……」
たもつは言葉に詰まる。
そう、悪玉キングを作ったのは、まぎれもなく『自分』……
自分の、今までの不摂生、不衛生、食への、そして健康への無関心、その全てが、悪玉キングをここまで強大にしてきた最大の要因
「たもつよ、そこでおとなしくしていろ……
この身体は、貴様に変わり、我が支配する。 そして、我の意のままの姿に変える。
そのためには、貴様らは邪魔だ、デリシャスファイブ」
「くっ……」
メンバー全員身構える
「お待ちください悪玉キングさま、やつらの中には、妹の薬味も……」
毒味クイーンが、悪玉キングとメンバーの間に割り込む
「毒味クイーンよ、下がれといったはずだが」
「し、しかし……」
毒味クイーンが懇願するも、悪玉キングは聞く耳を持たない
「我の邪魔をするものは、何人たりとも容赦せん……さあ、そろそろ時間だ」
悪玉キングが右腕を前に出すと、もの凄い『漆黒のエネルギー』が集中していく
「なんだあれは? あんな凝縮された邪悪なエネルギーは、見たことがない!」
「みんな、早く逃げないと……」
「逃げるってどこへ?
あんなのを落とされたら、ここから見える景色、全部が吹き飛んじゃうよ!」
ゴゴゴゴゴゴ……
「さあ、目障りな善玉キングの犬どもよ、ひとかけらの細胞も残さず、我の前から消え去るがよい……
『アクダマインパクト』!」
ドオオオオーーーーッ
凝縮された、邪悪なエネルギーの塊は、そのままメンバーとたもつたちの方へ飛んでくる
「薬味ちゃん!」
薬味ちゃんが、その場で震えながら動けないでいる
「薬味ちゃん、エネルギー切れで動けないんだ、あのままじゃ直撃だ!」
「あ、あああ……」
薬味ちゃんは、恐怖で涙を流す
「薬味ちゃーーーーんっ」
バッ!
薬味ちゃんをかばうように、エネルギー波の前に立ったのは、毒味クイーンだった
「ねえさんっ!?」
「おおおおーーーーっ!」
ズッドオオオーーーーンッ
ガガガガガガガーーーーッ
「うわぁっ」
「きゃーー」
凄まじい爆音
凄まじい衝撃
段々と、煙が晴れていく……
メンバーも、たもつも、そして薬味ちゃんも、全員無事だった
「ど、毒味クイーン!?」
バタッ……
毒味クイーンは、前のめりに倒れる。 その体はボロボロに
「ねえさん! 毒味ねえさんっ!」
薬味ちゃんが急いで回復するが、エネルギー切れと、すでに間に合わないほどのダメージが
悪玉キングは、自分の右手を見つめて
「フム、時間切れか……まあ良い、余興としては楽しめた、『メインディッシュ』は取っておくこととしよう」
悪玉キングは、もと来た空間のヒビから戻り、消える
空間のヒビも、瞬時に修復され、消えた
薬味ちゃんの膝に抱えられた毒味クイーン、もう息も絶え絶え……
「や、薬味……無事、か……?」
「ねえさん、ねえさん、ワタシは姉さんのおかげで無事よ、ねえさんしっかり!」
「そうか、よかった……」
毒味クイーンは、震える手で、薬味の手を握る
「薬味……お前は、私の分も……生きて、幸せ、に………………」
パタッ
毒味クイーンの手が、地面に落ちる
「ねえさん! 毒味ねえさんっ! いや~~~~っ!」
薬味ちゃんの泣き声が、こだまする
毒味クイーンの、壮絶な最後……
メンバー全員、心にしこりと、何とも言えない悲しみが残る
メンバーとたもつは、薬味ちゃんを残し、全員で話し合う
「悪玉キング、まさかあそこまで強大だったとは……」
「薬味ちゃんと醍醐味くんは救出したんだし、このまま一旦帰還するっていうのは……?」
「確かに、それもアリだと思うが、善玉キングさまは、もう『善玉千里心眼』は使えないと言っていた……
このまま帰還した後、悪玉キングが城を移動させたら、もう見つけることができないかもしれない」
「そんな……」
みんな、不安な表情を隠せないでいる
「みんな、やれるだけやってみよう。
悪玉キング側の幹部は全員倒したし、戦力が半減しているのは確かだ。
勝てないまでも、何か攻略できるヒントだけでも得ることができれば……」
「そうだね、ヤバくなったら、すぐに逃げ出せばいい」
「よし、決まりだ」
みんな、薬味ちゃんの方を見る
「薬味ちゃんは置いていこう、今はそっとしておくのが一番だ」
「いいえ、連れて行ってください」
薬味ちゃんが、涙を拭きながら、こちらに歩いてくる
「薬味ちゃん、でも……」
「毒味ねえさんが生きていれば、きっとこう言います。 『悲しんでいる暇などない、私の意志を継ぎ、前へ進め』、と……」
「毒味クイーンの、意志……」
「毒味ねえさんの願いは、ワタシと平和に暮らすこと……必ず、ワタシがこの身体を健康にします」
「わかった、一緒に行こう」
(過去の俺の不摂生で強大化した悪玉キング……毒味クイーンの死、絶対に無駄にはしない)
メンバー全員一丸となり、毒味クイーンを残したまま、肺臓を後にする。
その数秒後――
ザンッ!
突然空間に、刃物で切ったような跡ができ、その中から、一人の人影が……『雑味ブラック』だ
ブラックはゆっくりと、横になっている毒味クイーンに近づき、見つめる
「毒味、お前が死んじまったら、元も子もねぇだろうが……」
そう言って、毒味クイーンにキスをして、『ポイズンウィップ』を手に取る
「お前の『武器』と『心』、借りていくぜ……」
ブラックは、そのまままた、空間の切れ目に消えていく……
◇今回の健康カルテ
体重: 64キロ
BMI: 21・9
血圧: 128/82
中性脂肪: 198
LDL: 160
HDL: 29
尿酸値: 7・1
γ-GTP: 175
血糖値: 120
ストレスレベル: 普通→やや高め




