第1話【歌弥】
『歌弥へ
歌弥が家を出てから、もう1週間経ちました。時が流れるのは速いですね。
歌弥が家を出てからは子供達は少し寂しそうにも見えます。だけどお母さんは歌弥が目指していることは、悪いことではない、寧ろ良いことだと思います。
歌弥の夢が叶うことを、お母さんはずっとずっと願っています。
お母さんより』
歌弥は母から届いた手紙をSimilar cat(猫)の村の宿の一室で読んでいた。
歌弥はSimilar dog(犬)の中でも柴犬と人間の間に生まれた混合種だ。
歌弥は今、旅をしている。旅といっても○○巡りだとかそんなゆったりしたのではない。目指すはこのSEEの裏側、人間の土地だ。
歌弥は小さい頃から人間と混合種の違いを理解出来なかった。同じ人間から生まれているのに。同じ言葉を話すのに。
幸い歌弥は人間と同じ寿命、約80歳辺りまでは生きると申告された。
寿命の心配はないからと言い訳し、親の反対を乗り越え、何とか旅の許可を貰ったのだ。
Similar dogの村は島のど真ん中。裏側へ行くには色々な混合種の村を通って行かなければいけないのだ。そこで最初に着いた村がここ、Similar catの村というわけだ。
歌弥はペンを取り、早速母へ手紙を書き始めた。
『お母さんへ
やっと猫の村へたどり着きました。猫の村は、あたし達の村とは違って夜がお昼の様にとても明るかったです。
なんであんなに光が集まっていたんでしょう?不思議でたまりません。
あたしは相変わらず能力には目覚めていません。15歳までには能力を使えるように頑張ります。
人間とあたし達の共存。必ず成功させます。楽しみにしていて下さい。
歌弥より』
歌弥は宿の人に手紙を渡した。住所が書いてあれば伝言ゲームの様に色々な人へ渡り、最終的にはちゃんと宛先へ届くようになっている。
歌弥は一泊分の料金をカウンターの人に渡し、大きなリュックを背負った。
「ありがとうございました。」
歌弥はカウンターの人に頭を下げ宿を後にした。
猫の村は活気があり人が多く、至るお店に人だかりが出来ていた。そのお店も犬の村より建物が2~3倍高く、歌弥は何故か感動し、上を見ながら歩いていた。すると何かに思いきりぶつかった。
「いってえな!」
ぶつかった相手は歌弥の頭2つ分程背が高く、色黒の青年だった。色黒の大男の周りには4~5人、髪が銀色だったり、ピアスを沢山開けていたり、見た目が怖い人が円の形に集まっていた。そんな大男達は共通して虎柄の尻尾を生やしていた。
その中心には灰色のパーカーのフードを目深に被った、歌弥よりも若干小さな男の子が頭を抱えうずくまっていた。
「ご、ごめんなさい!上を見てて前を見てなくて…。」
歌弥は頭を下げた。ふと見えた周りの人だかりは歌弥達から5m程離れていた。
「うわぁ、可哀想…。」
「よりによってあいつらにぶつかるなんて…。」
「どうするんだろ、あの子。」
そんな声が歌弥の耳にまで届いた。
「おい、いてえじゃねぇか!ぶつかって来やがって!お詫びに有り金全部置いて行きやがれ!」
相手の大男は歌弥の胸ぐらを掴んだ。
「あの!そんなケガをさせた訳でもありませんしお金は払えません。」
歌弥は胸ぐらを捕まれたまま苦笑いをして、キッパリと断った。
「ヘラヘラしてんじゃねーよ!」
大男は歌弥を軽々と上げ、地面へ思いきり叩きつけた…が、歌弥は普通に立っていた。
痛がっている様子もなく、叩きつけられた跡もなく、ただジーッと中心の男の子を見つめていた。
「えっ、あれ?」
大男は自分の手と歌弥を交互に見て、ただただ驚いた顔をしていた。
「あの男の子ケガしてませんか?」
歌弥のいきなりの問いかけに大男は我に返った。
「お前には関係ねえんだよ。」
今度は歌弥の頭を大男は鷲掴みにした。そして歌弥の頭を鷲掴みにしたまま、歌弥を振り回し、上へと放り投げた。しかし歌弥は動じることなく、そして大きな荷物をもろともせず、空中で何回かクルクルと回転し、フードの男の子の目の前に着地した。
「やっぱりケガしてるじゃないですか!なんでこんなにケガしてるんですか?」
二度目の歌弥の問いかけには大男は反応出来ず、さっきから呆然としている他の大男の様に驚きの表情を浮かべるしか出来なかった。
「君ケガしてるし手当てしないと。ね?」
歌弥は腕や足に痣をつくって、唇を切ったのか口から血を出している男の子の手を握り、そっと微笑んだ。
「お、おい!待てよ!」
男の子と一緒に人だかりから抜けようとする歌弥のリュックを大男はギリギリのところで掴んだ。
「お前何者だ?ここらじゃ見かけねえが…。」
歌弥は大男の方に振り向き満面の笑みを浮かべた。
「古琴 歌弥14歳、Similar dogの混合種で人間とあたし達の共存の為、旅をしている美少女です!」
歌弥は腰には届かない茶色の長い髪をはらい、大声で自己紹介した。
「もう良いですか?流石に美少女は言い過ぎましたけど…この子の手当てがあるんです!」
歌弥は自称美少女が恥ずかしかったのか、フードの男の子を連れて走り去っていった。




