08 クリエーターの皆さんの、先駈けとなって欲しい!
「実はですね、……。これから、日本政府は、世界に向けて異世界に関する機密解除を行います。そのために、積極的に異世界ファンタジーブームを起こして、人々に耐性を付けて貰います。だから、私がピックアップした創作者の皆さんに、実際の異世界、ここではヤムント国にご案内し、見て貰おうと思っているんです!」
私(茂吉)の言葉に、英子さんは一瞬だけ怯んだような表情を浮かべた。
それはそうだろう、……。
親戚でもないオジさんから、いきなり強烈なカウンターを浴びせられるのだから、……な。
まぁ、こんなことはいつものこと。
私は淡々と、いつもの営業活動を始めることにした。
「では、……。先ずこちらから、ご覧になって頂きますかね?」
そう言って、私は黒革の鞄から、テプラでナンバーの打ってあるプラスチックのファイルケースを数点取り出してきた。
「これらは? 拝見しても?」
怪訝そうな表情で、英子さんが訊ねてくる。
まぁ、……いつもの対応だな。
「えぇ、どうぞ。英子さんもこちらの写真をご覧になったら、我々の計画をよく理解されると思いますよ」
スッと、テーブルの上に複数の写真を並べる。
その中には、私のウエブ日記に掲載した画像も数点含まれていた。
英子さんは、そのひとつを手に取ってじっと見る。
「ホンとだ。これってCG画像じゃない。でも、まさか本物の世界をカメラで写したなんて、あり得ないよ」
小声だけど、思っていることが口から出ていますよ、英子さん。
「他にも、こんな写真があります」
別のナンバーのファイルケースから、私は更に多くの写真を取り出した。
「斎木さん、……。これらは、地球のどこの国なんですか?」
「ヤムント国です。地球ではない、『異世界』に実在する王国です」
「またまたぁ、……」
英子さんは次々とそれらの写真を手に取って、食い入るように見続けた。
おそらく彼女は、こう思っているに違いない。
このオジさんは、私のことを揶揄っているんだよ。
どうせ東欧の田舎町かなんかで、カメラで撮影してきたに決まっているじゃん、……とね。
このオジさんは、ヤムント国が「異世界」とさも当然のように言うんだけどさ。
でも、「異世界」なんて、そんなのファンタジーの中の話だよね。
トールキンだよね。ルイスだよね。ル・グインだよね、……。
そんなの、現実であるワケないじゃん! とね。
ほらほら、英子さんはなおも訝しそうに眉間に皺を寄せている。
「そうですな、……。写真を見ておワカりのように、このヤムント国は中世ヨーロッパ風の文明レベルだということ。高校の世界史の便覧にでも載っていそうな写真ばかりですしね」
「……」
「これらは、王都の市井の風景を撮影した写真ですな」
そう言って、私はそのウチの何点かを指差すと、……。
その街中の風景には、どれもごく自然体な被写体の人々が写っていてね。
「まるで、本物、……」
そうですよ。これらは騙しでも虚偽でもなく、……。
本当の話を、私は大真面目に話しているんですから。
「こちらは、我々がヤムントガールズ・コレクションと呼んでいる、少女達のミディアムショットの写真ですな」
「えっ!?」
英子さんが戸惑っているご様子なので、……。
私はここで更に畳みかけるようにして、別の写真のコレクションを出してみた。
「もの凄い、美少女達、……」
英子さんの口から、思わず言葉が漏れたようだ。
私がお見せしているのは、ヤムントガールズ・コレクションと呼ばれる、一群の少女達。
それは海外の様々な映画で見たような、……。
とても目鼻立ちのいい、でもスレていない感じの、まるで奇跡のような存在の彼女達だ。
「斎木さん、……。この服装は、民族衣装とかなのですか?」
「えぇ。そうですな。ヤムント国で何かお祝い事のあった際、親御さん達が子や孫に着せる服ですね」
「なるほど、……。おめかししているワケですね?」
「はい。そのとおりですな」
「……」
英子さんは、それら生写真の被写体の少女だけでなく、その背景の建物にも目を注いでいた。
「ホンと、……まさに中世ヨーロッパ風の異世界という感じかも、……」
そんな呟きの声がする。
これで、本物だとご理解頂けただろうか?
少なくとも、王都の市井の写真、ガールズコレクションも自然に写っているから、もうCG画像には思えないだろうな、……。
「その被写体の彼女達の国、ヤムント国こそ、我々が現在最重要で取引を行っている国というワケです」
「……」
英子さんは、私の表情をじっと見る。
ふむ、……。英子さんは、聡い方だとお見受けする。もうこれで、私の言うことを疑ったりはしないのではないかな。
「これで、納得頂けましたかな?」
「えぇ、……。もう先ほどから驚かされることばかりです!」
私は笑顔を作って、ひとつだけ頷いた。
「実はですね、英子さん……。これから日本政府は、全世界に向けて異世界に関する機密解除を行います!」
「えっ!?」
「そのために、先ずは国内で積極的に異世界ファンタジーブームを起こして、人々に耐性を付けて貰おうと思っています!」
「機密解除の『魁』ということですか?」
「有体に言えば、そうなります」
「なるほど」
「その計画をスムーズに実現するため、これまで私は様々なツテを通じて、創作者の皆さんをピックアップしてきました。先ずは創作者の皆さんに、本物の異世界、ヤムント国にご案内し、創作物を通して異世界を紹介していきたいと思っているんですよ!」
私はそう言って英子さんの方に手を伸ばすと、彼女の手を強く握った。
びくりと肩を震わせる。
でも、その手を振り払うワケでもない。
英子さんは、ヤムントガールズの写真に目を落とした。異世界ファンタジーな晴れ着を身にまとった少女達の写真の数々。
「ここまで話を聞かされてしまったら、私にはもう逃げ場がないんだ、……」
そう呟く彼女の手を、私は更に強く握る。
「英子さん、あなたには、ヤムント国にこれから向かうクリエーターの皆さんの、先駈けとなって欲しいんです! お願いできますか?」
「魁!暗躍オジさん!!」をお読み頂き、ありがとうございます!
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