04 かなりの別嬪さんでしたな
「彼女の印象は、どうでしたか?」
日本に帰国してから、数日後、……。
私(茂吉)は、協力店である霞が関のとあるコンビニにて、そこの店長に今度の調査対象である大藪英子について、率直に訊ねていた。
すると、相手の態度は頗る上々だった。
「えぇ、実に魅力的で、……。かなりの別嬪さんでしたな。大変明るくて雰囲気のある、感じのいい子でしたので、……。もし店にきてくれるのなら、こちらとしては、大歓迎です!」
「ほぅ、それはそれは、……」
これは、なかなかの掘り出し物らしい、……。
この店長が一見さんの客を見て、ここまで評価するのは滅多にないことだったからだ。
「あの子が、次に店に入ってくれるのでしょうか?」
「それは、彼女本人次第ですから、……」
そうなのだ。これは、我々から大藪英子への強制ではない。
あくまで任意で、こちらの店のアルバイトに入って貰うことが肝要だ。
私は、ここ数年で急速に広がりを見せているインターネット、……。
その媒体を利用して、有意な若手創作者を一本釣りできる仕組みを構築していた。
現在、我々には、政府直轄の下で極秘裏に進めている計画がある。
『異世界ヤムント国開示計画』
それは、……。現在、日本国が異世界のヤムント国と国交があることを、段階的に開示していく計画だ。
いきなり、ある日に全面的に開示してしまったら、世の中が腰を抜かしてしまう。
だから、段階的に、……。
例えば、「異世界」がさほど珍しくないんだよと思わせるために、様々な媒体を通じて事前に目を慣れさせる必要があった。
具体的には、小説や漫画やアニメ、テレビドラマ、……。
それらが評判になってさらに予算が付けば、映画化も試みる。
そうやって世間(公衆)に「異世界」の風を浴びせ続けることで、いつしか人々は「異世界」を少し離れた外国ぐらいの印象に至るよう操作する。
そのために、我々はこちらの意図を汲んで目に優しい「異世界」を演出してくれる、……。
そんな有意な若手創作者を探し続けていた。
我々は、いくつかのルートを通じて、様々に網を張っていた。
そのひとつが、都市伝説。
斎木茂吉という謎の国家公務員が、異世界ファンタジーに造詣の深い若手創作者の後援者になるというもの。
もちろん、何ら虚偽を挟んでいない。
異世界ゆきが、マグロの遠洋漁業の仕事のように、しばらく本国から離れることもちゃんと伝えている。
だが、世間の常識しか知らない者にとっては、異世界なんてホンとにあるなんて考えないし、どこかフィクションの世界のように思っているのだろう。
多くの若者達は、昨今のこの辛いご時世で、いっときでも忘れさせてくれるフィクションに飛び付く。
我々は、ただその心情を、ほんの少しの「善意」で利用させて頂くだけだ。
実際、多くのメディアを運営する社長ら経営陣は、我々の計画に大いに賛同してくれている。
だから、世紀末を越え、ミレニアムを迎えた際には、少しずつだけど「異世界」ファンタジーが姿を現してくるだろう。
ふむ、……。
事前に社外協力員の緑子さんを通じて渡された、私のウエブ日記をプリントアウトした数枚の資料。
それに、今回の対象である大藪英子は、大いに反応してくれたようだ。
日記のアドレスを辿って、私の近況報告を確認するや、こうしてこの店までやってきたのだからな。
緑子さんの事前報告では、今回の対象は慢性的に金欠状態だった。
風呂に毎日入ることもできず、バイトの合間を縫って、碌に寝ないで創作に励む日々。
まさに、打ってつけの人物のように、私には思えた。
現在、彼女は「エース展」という大規模コンテストの応募のため、画材代や高額な参加費、搬送費をねん出するため、食事を減らし始めているそうなのだが、……。
さて、……と。
私は店を出ると、梅雨明け間もない空を見上げながら、緑子さんに連絡を入れた。
すると、着信音数回で、即座に相手は出る。
『はい!』
「私です、斎木です、……。緑子さん、もう一度大藪さんに会って貰えませんか?」
『私は、何をすればいいのでしょうか?』
「英子さんに、コンテスト作品の進捗具合を、二、三、……。探りを入れてくれるだけでいいです」
『はい』
「それと、今回私の出入りする店を特定できたことを、褒めてやって貰えますか?」
『了解です!』
そう言って、向こうから通話を切った。
「……」
それからしばらくの間、……。
回線切断の電子音が、私の耳元にじっと響いていた。
「さて、……。これで、次の段階に入りましたな!」
私はそう呟くと、再び役所(会社)の方に戻っていった。
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