18 深夜の抗戦 前
現地時間、午前四時。
辺りはまだ暗い。夜明け前の最後の一時間だ。
私(茂吉)はクロノグラフをひととおり確認し終えると、暗視双眼鏡で再びこの戦場をじっと眺め尽くした。
ふむ、……。
刻一刻と、バルディ男爵家の屋敷がゴブリンの本隊に包囲され、ジワリジワリと迫ってきている感じだな。
「……」
現在の気持ちは、ただただ寂静だ。
この感覚は、おそらく誰かに伝えようとしても、とても言葉にできるものではない。
傍らにいる伝令の青年は、何とか怯えを隠そうと、精一杯姿勢を正して気丈に振舞っている。
とても偉いことだ。
ひりつく気持ちを奥歯で噛み締めていれば、それで事が足りるのだからな。
「……」
ふむ、……。気になるのは英子さんだな。
元々非戦闘員の彼女だ。
今回の相手がゴブリン達で人間ではないとはいえ、敵を殺害するという行為に、彼女は一体どこまで対応できるのか?
様子を見にいくか?
いや、持ち場を離れた隙に、敵に攻め込まれでもしたら大変厄介だ。
さて、どうするか、……。
「サイキ殿、守備は如何か?」
すると、そのタイミングでバルディ男爵が物見やぐらに上がってきた。
私は、無言で暗視双眼鏡を手渡した。
男爵はそれを受け取ると、敵の全容をじっと確認する。
「ふむ、……。想定以上の敵の数ですな。サイキ殿はどう判断されますか?」
「計画どおり、私はここからライフルで各個狙撃していきます。弾薬は十分ありますので、取りこぼしを男性陣でどうにか撃ち倒して頂きたい!」
「了解しました。他に何か連絡事項、懸案事項はありますかな?」
ここで私と男爵は、中庭の方にいったん目を落とす。
「今回、私が連れてきたのは、あくまで非戦闘員でしてな。慌てずに事態に対応できるのか、それが心配でして、……」
「エイコ殿なら、心配には及びますまい。先ほど女性陣のところを視察したら、何ら問題なく行動されておりましたぞ!」
「そうでしたか、……」
現在奥方を中心とした女性陣は、中庭の中央で男性達の防壁を突破された事態を想定しながら、陣形を保っている。
鉄製の農機具の鎌とか鋤を持って、素振りをする者。敵のいる防壁の先を震えながら睨み続ける者。
「……」
ふむ。これだけ落ち着いているのなら、英子さんも特段慌てることもないだろう。
「ここは、ちょっとした砦のような造りのバルディ男爵邸です。そんじょそこらの攻撃では、簡単には落とせないでしょうな!」
先ほど、英子さんには気休め程度だがそう伝えている。だが、実際どうなるかは、始まってみないとワカらないものだ。
防壁の上に立つ男性陣は、本職の弓兵が数名と槍兵が数名。ロングソードの騎士もいれば、男爵のご子息達がショートソードを持って構えている。
「さて、……。そろそろ、始めますかな?」
男爵の言葉に、私はひと言「はい」といって、小さく頷く。
それを合図に、男爵が弓兵にハンドサインで指示を出す。
物見やぐらから、弓兵が天空に向けて矢を番えると、……。
ひゅうっという音が、まだ暗い夜空を疾った。
すると、放たれた矢の先端に括り付けられた光魔石が、上空で炸裂して、次々と魔物の群れを照らし出す。
ここで、バルディ男爵邸内全てに対し、若い伝令役の青年が絶叫を開始する。
「ゴブリンライダー20数騎っ!! 雑兵のゴブリン、おそらく200以上っ!!」
その叫びに、邸内に激震が疾る。
「……、一際大きいゴブリンッ、おそらく、これが本隊の総大将と確認っ!!」
中庭の女性陣にざわめきが起きると、奥方の叫び声が続いた。
「はいっ、皆切り替え切り替えっ! 敵の主力がワカったのだから、後は個別撃破よっ!!」
「「「「「「「「「「おぅっ!!」」」」」」」」」」
女性陣全員でそう応じて立ち上がると、右足で2回、地面をズンズンと踏み鳴らしていた。
なかなか以て、大変頼もしい銃後の彼女達である。
今回の私の役割は狙撃手だ。
長年の相棒でもあるライフルを構え、暗視スコープから最前列のゴブリンライダーを3つ確認する。
おそらく、ゴブリン達の中でも突撃隊長の役割の魔物達なのだろう。
私の傍らには、バルディ男爵が暗視双眼鏡でその方面をじっと監視している。
ふむ、……。
では、始めるとするか。
「前方、ゴブリンライダー3体、右からやる。距離300、単射……」
「照準よし、風向よし」
「発射!」
甲高いパァンという発射音と共に、第一個体を撃破。
すかさず、次だ。
「中央、同距離……。照準よし、発射!」
次弾の発射音の後、耳を指で塞ぎながら男爵が、……。
「2体目、撃破ですな!」
そう言うと、傍の弓兵と伝令の青年が「おぉっ!」と色めき立つ。
「最後、左の1体、同距離……。照準よし、発射!」
発射音の後、やぐらの上では撃破を視認した男達が「おぉ~~っ!!」と大騒ぎだ。
それを口火に、ついに戦闘が開始された。
「ヒィキィィィィィィ―――ッッ!!」
四囲を武骨な防壁が取り囲み、叫びながらよじ登ってくる雑兵のゴブリン達。
そこを即席の弓兵達が、防壁上から弓に矢を番えながら、次々と狙い落していく。
更に搔い潜ったゴブリンを、今度は槍兵が突き落とす。
それでもなお突破して敷地内に入ってきたゴブリンを、今度は女性陣が取り囲んで袋叩きにしたり、鋤や鎌を使って止めを刺す。
「はいっ、皆切り替え切り替えっ! 敵の主力は男性陣に任せて、私達は個別撃破よっ!!」
奥方の鼓舞する叫び声が、ここまで届いてくる。
「「「「「「「「「「おぅっ!!」」」」」」」」」」
女性陣全員でそう応じて、右足で2回、地面をズンズンと踏み鳴らしている。
なかなか統率が取れていて、頼もしい限りだ。
どうやら、先ほども奥方がやったこのルーティンは、女性陣を勇気付けるのに上手く活用しているようだな。
私は女性陣の頑張りに奮起させられたようだ。
弾はまだまだたくさんある。
再び構えると、前方の隊長首のゴブリンを中心に、遠距離狙撃を開始する。
男性陣の弓兵達の働きは、なかなかのものだ。槍兵達も奮戦し、共に士気が高い。
「「「「「「「「「「いぃぃ~~やぁぁぁ―――――っすっっ!!!」」」」」」」」」」
銃後の女性陣も徐々に戦果を上げてくると、次第にお構いなくなって、とても慣れた様子で叫び声がここまで響いてくる。
たまに男性陣の仕掛けた網を搔い潜ってきた、ごく少数の魔物を個別撃破すると、……。
その度に近場の者同士でハイタッチを交わしながら、大きく歓声を上げているようだ。
現在も英子さんは必死になって、フライパンでゴブリンの尻を引っ叩くぐらいのことは、しているのではないだろうか?
「魁!暗躍オジさん!!」をお読み頂き、ありがとうございます!
斎木茂吉の活躍や、仲間たちとの冒険を楽しんで頂けたら嬉しいです!
この物語を気に入って下さったら、☆評価やブックマークで応援して頂けると、作者の励みになります!
茂吉と一緒に次の展開を盛り上げるため、ぜひ力を貸してください!✨




