13 そろそろ、最初の中継地に到着します
「ヒィエェェッ!? 一体何々ですかっ! あれっ!?」
英子さんは、魔物達との突然の遭遇に、なおも気が動転している様子だ。
私(茂吉)は前任者の件もあるから、ここで軽く警告しておくのがいいだろうと思った。
「ゴブリンライダーの群れに遭遇しましたっ! 奴らは獰猛だ。捕まったら、全身の皮を剝がされてしまいますよ!」
「ヒィエェェ……」
そうしたら、英子さんの表情がどんよりと黒く、……。
ふむ。どうやら精神的に曇らせてしまったようだ。
「まぁ、……。これも慣れですな。直に英子さんも、何も痛痒を感じなくなります!」
「マジですか!?」
「まぁ、……。前任者は、……そうでしたな?」
痛痒どころか、胴と頭が真っ二つになって、生き別れになってしまったんだけどな、……。
その間も、我々2人の乗った車両を、ゴブリンライダーの群れが時おり追い抜いたりしながら、次々と矢を放ってくる。
でも、この車両は各所に補強の特殊加工が施されている。
石の矢じり程度では、軽くはじき返してしまうのだがな。
ここで、英子さんは「ふぅ~っ」と息を吐いた。
「……」
先ほどまでは興奮していた様子だったが、……。
現在は、漸く落ち着いてきたか。
車両は、先ほどまでいたオムラ渓谷を抜けて、ボルツ原野に差しかかる。
この最新鋭の大型のSUVは土煙を上げながら、全速力でゴブリンライダー達の群れを引き離していく。
次第に、車両まで矢は届かなくなっていった。
「……」
ふぅ、やれやれだな。
猛スピードでボルツ原野の中を疾らせていると、……。
ふと、ひと心地ついたところで、ちらりと助手席のエイコさんの横顔を見た。
ふむ、……。
その美しい横顔は、唇を黙ってギュッと噛んていた。
我々の乗る車両はボルツ原野をひたすら進んで、かれこれ2時間ほどが経過した。
助手席の英子さんは、時おり自身のクロノグラフを確認しては、周囲の風景を眺めている。
しばらく黙っていた彼女だったが、……。頃合いを見図ったように、私に話しかけてきた。
「斎木さん、この辺りはボルツ原野とのことでしたが、ず~っとバルディ男爵の領地ということですね?」
「そうですな。まだまだ、もうしばらく原野を進むことになりますな!」
「男爵領とのことでしたから、もう少し狭いエリアを治めているイメージでしたが、……。結構な広さですね?」
地方領主のことにまで興味を示すのは、こちらとしては大変ありがたい。
少しだけこの国の事情を話しておくのも、いいのかもしれないな。
「えぇ。元々このヤムント国では、王権神授説に基づいて運営がなされていて、貴族達もそれほど多くはありません。むしろ、先の大戦で功績を上げ、新たに貴族となった平民もいます」
「なるほど」
「こちらの男爵も、元々は平民の出です。我々日本の過去に存在した庄屋に当たる家柄の者が、功績を上げて、そのまま男爵を務めて貰っています」
「そうでしたか、……」
「……」
まぁ、一度に話を詰め込むこともないだろう。
こちらから話題を途切れさせたら、英子さんは再び車窓を眺め始めた。
途中野牛の群れを見たり、野鳥の集まる湖畔もあった。
ふむ。英子さんは絵描きだから、この世界の様々なものに興味を示している。
意外と、東欧の田舎と似てなくもない、このヤムントの風景。
だが、これだけ長い車での移動中、一度たりとも空を飛ぶ飛行機を見ることもないし、電線も自動車も見ることはない。
まぁ、空を飛んでいるものといえば、鳥の他には、……。
「えっ!?」
英子さんが、ご自身の目を疑ったような表情を浮かべる。
あぁ、あれか。
遠くの空に、翼竜が単独で飛んでいたのだ。
「斎木さん、あれっ!?」
「えぇ。翼竜ですな!」
「!?」
こちらの言葉に、英子さんは目を丸くする。
「あの翼竜は、いわゆる赤龍ですな。現地でもなかなか目撃例がなくて、大変珍しいんですよ!」
「はぁ」
「これは、幸先いいですな!」
私はそう言って、ニコリと笑った。
英子さんは、なおも赤龍が飛行するのを見つめ続けていた。
夕方頃、だんだんと暗くなってきた辺りで、私はパジェロの前照灯を点けた。
「そろそろ、最初の中継地に到着します。先ほどもお伝えしたとおり、バルディ男爵邸で、本日は休ませて貰うとしましょう!」
私はそう言って、男爵邸の広い屋敷の庭に、車を進入させていった。
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