11 以上より、任地に移動開始です!
英子さんがこの千代田区の極秘施設にやってきて、……。
かれこれ2か月が経過していた。
今、彼女は施設内の大講堂で、私(茂吉)や多くの専門官達の見守る中、演台で訓示を受けている。
「大藪英子殿、……。これを以て全課程の研修が修了となります。大変厳しいメニューでしたが、よくぞ耐えられなさった!」
「はいっ」
「もう、これからいつでも現地で活動が可能ですよ! お疲れ様でしたっ!」
「ご指導、ありがとうございましたっ!」
盛大な拍手の中、英子さんは専門官相手に声を張り上げると、研修の修了証書を恭しく頂いた。
ふむ、……。我々公務員の世界では、こういう儀式が一般的だからな。
これで彼女も漸く特殊公務員の仲間入りだと、私はしみじみと思った。
式の後、英子さんが別室に移動して身の回りの品の整理をしているところに、さっそく私は顔を出した。
「お疲れ様でした、英子さん!」
「はいっ。ありがとうございましたっ!」
英子さんはそう返事をして、お互いにふふふっと笑った。
「何だか、学生に戻ったような気分でしたよ」
「えぇ。私も兵学校の頃を、思い出しましたな」
お互いに、この2か月の間で、かなり信頼関係を築けたのではないかと思う。
実際、これから始まる作戦は、私と英子さんとのツーマンセルスタイルで、現地で実行される。
だから、お互いの意志に、いささかの齟齬があってもいけないのだ。
私は備え付けのテーブルの席に英子さんと対面で座ると、表情を引き締めた。
「さて、大藪英子さん……。明日の深夜2時30分に、次元振動が発生します。我々は予定どおり、その時刻を以て、作戦を開始します。よろしいですね?」
「はい。構いませんっ!」
その声は、いささか勢い込んでいる様子で、……。
私は愛弟子の意気込みをありがたく思い、彼女の両肩をポンポンと軽く叩いた。
明日深夜の次元振動のタイミングで、ついに任務スタートだ。
英子さんに私物を再び整理させると、……。
彼女には食事を摂って貰い、風呂に入って身を清めてから早めに就寝させた。
翌日の正午過ぎ、英子さんは共同棟のプロジェクトルームに入室した。
そこで、女性職員によって支給された官服、自衛隊の深緑色の作業服に袖を通して貰い、そのまま待機させている。
一方で、私は関係各所に連絡を続け、事前書類から備品のチェックまで全て完了させる。
後は現地入りした際、直ぐに瀬田少佐殿に連絡を入れ、今回の創作者である大藪英子についての最新情報を送る予定だ。
少佐殿とは、前回から2ヶ月以上連絡が取れていないため、現地の情報が定かでないこともある。
急な変化にだけは、細心の注意を払わないといけないな。
20時30分過ぎに、私は官服の作業服に着替えると、遅めの食事を摂って待合場所に移動する。
すると、既に英子さんは待機していて、待ちくたびれた表情で私にひとつ頷いた。
「では、英子さん。そろそろ移動しますよ!」
施設の裏庭近くにある車止めには、自衛隊仕様の深緑色のパジェロが、エンジンが点いたまま停車していた。
私が運転席側のドアを開けると、英子さんも助手席側から乗車する。
緊張した面持ちでシートベルトをしている彼女に、私は声をかける。
「英子さん、フタフタサンマル、以上より、任地に移動開始です!」
「はいっ!」
英子さん、いい返事だ。
さて、……と。私は転移門を目指して深夜の霞が関を移動していく。
チラリと横に座る英子さんの表情を見ると、若いながらに気高い、緊張感のあるいい表情を浮かべていた。
彼女なら、おそらく瀬田少佐殿も大いに気に入るのではないかと思われる。
「英子さん、もう直ぐそこですよ!」
私はそう告げると、英子さんのいた公務員宿舎の真裏にある、近所の神社の敷地に入っていく。
「それにしても、……。まさか、ここの神社だったんですね!?」
深夜の霞が関。その某所にある神社の境内に、エンジンをかけたまま、大型のSUVを停車させている。
私はハンドルを握ったまま、助手席の英子さんに率直に訊ねた。
「驚かれたでしょう?」
私はいささか興奮気味の英子さんに、悪戯っぽく笑顔を向ける。
「えぇ。だって、たまに買い物で神社の前を通っていたんですよ。さすがに驚きましたよぉ!」
「ふふふっ。とりあえず、次の次元振動のタイミングまで、このまま待機をお願いしますね!」
「了解!」
英子さんが茶目っけたっぷりに敬礼をして応じてくるため、私もくすぐられたように笑顔で頷いた。
深夜の境内に、私と英子さんの2人きり。時おり自衛隊仕様のパジェロのアイドリング音がうるさくなるが、後は至って静かだ。
「……」
私は現地入りした際に瀬田少佐殿に渡す資料を精読していたのだが、英子さんは寝たり起きたりを繰り返していた。
境内は照明が少ないために暗く、室内灯のオレンジ色の光のみが、ぼんやりと灯っていた。
「何だか、境内は真っ暗で怖いですね?」
目を覚ました彼女が、思い出したようにそう言った。
「大丈夫ですよ。我々はこれから異世界にいくんです。これぐらい、どぉ~ってことありませんよ!」
「ふふっ、確かに!」
ここで、お互いに笑い合う。
「次の次元振動は、翌日の2時30分です。時間まで、寝ていて構いませんよ!」
「そうですね。では、お言葉に甘えて、しばらく休ませて頂きますね」
そう言って、英子さんは静かに目を閉じた。
「……、英子さん、英子さんっ!」
肩を少し強く揺すったら、漸く彼女は目を覚ました。
「斎木さん、そろそろ時間ですか?」
「はい。これから、異世界のヤムント国に向かいますよ!」
「……、はい」
ふむ。いい面構えだ。
「それではいきますよ! 英子さんっ、……。覚悟を決めましたか?」
「はいっ!」
英子さんは私のその言葉に、……。
生唾を飲みながら、ひとつだけ返事をして頷いた。
ふむ。OKのようだな。
私は車両の前照灯をハイビームにして、ゆっくりと、その深くぽっかりと空いた社の中に車両を進めていく。
しばらくの間、漆黒の闇の中を進んでいくと、……。
遠くの方に白い点のような光が見え、更に進んでいくと眩い光となって、我々の目を襲ってくる。
すると、先ほどまで現代日本のコンクリートジャングルの最中にいたのだが、……。
そこは遥か遠くの方まで見渡せる、眺めのいい渓谷に続いていた。
「魁!暗躍オジさん!!」をお読み頂き、ありがとうございます!
斎木茂吉の活躍や、仲間たちとの冒険を楽しんで頂けたら嬉しいです!
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