第4話「目覚め」
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老人のガラス玉じみた目が、喜びに濡れていた。
このクソ野郎は、ただ楽しんでいるだけじゃない。
教えているんだ。
ゲイルは解体台の周りをゆっくりと一周した。手には、小ぶりの狩猟ナイフ。清潔で、几帳面な刃だった。まるで、それで切ってきたのが人間ではなく、茶請けの林檎だったとでもいうように。
やがて、俺の脚のところで足を止めた。
手が脛をなで、足へと下りていく。親指に触れた。
「授業の続きだ、坊主……」
痛みは、すぐには来なかった。
はじめ、親指が俺のものでなくなった。脚に釘で打ちつけられた別の小さな生き物になり、その生き物が、できるだけ派手に死んでやると急に決め込んだ。
そこへ、串が打ち込まれた。
膿んだ傷口に細く焼けた鉄串をねじ入れ、そのまま奥へ——脛、腿、腹、肋骨のすぐ下まで——押し進めていく。
叫んだ。
叫び声が壁に跳ね返って、こちらへ戻ってきた。この部屋も、聞かされるのは不愉快だったらしい。
「……ヴルダラクを、異界のものと考えるのは正しくない」ゲイルは落ち着いた声で続けた。「奴らはかつて、人間だった」
引きつるように顔を上げ、自分の親指を見つめた。
黒ずんでいた。
いや、ただ黒ずんでいるんじゃない。暗い紫が皮膚の上を這い、その内側から、雨に濡れた灰のような黒が押し出してくる。
息をしようとした。
呼吸を数えようとした。
三つまでは数えられた。四つ目で、俺はもうクソ野郎の数を数えていた。
クソ野郎は、一人だった。
だが、やたらと熱心だった。
ゲイルが親指から手を離した。
痛みは、残った。
串はもう動かされない。どこか内側で引っかかったまま、俺と一緒に脈を打っている。足の親指が、猛烈に、憎々しげに、体のほかの部分から切り離されて暴れていた。一打ちごとに、こめかみへ響く。
「……だが、聖教会の変成秘術は、この程度では済まん」そう言って、彼はナイフを気だるげに振った。
何かが光った。
何が起きたのか、すぐにはわからなかった。
痛みが変わって、ようやくわかった。
短く。鋭く。嘘がなかった。
くそ。
野郎、俺の指を切り落としやがった。
切断面から血が噴き出した。温かく、濃く、本物だった。ここまでは、まだ悪夢だと思い込むこともできた。たちの悪い夢。うわごと。なんとでも。
血のほうが、よほど説得力があった。
最初に浮かんだのは、間の抜けた考えだった——これから、どうやって長靴を履く?
二つ目は、少しましだった——このまま続けられたら、履くも何もない。
「……拷問、干からび、蘇生……」ゲイルは黒ずんだ指の欠片を顔の高さまで持ち上げ、指先でくるくると回した。授業で出来損ないの標本を生徒に示すときの手つきで。「これらすべてが、奴らを——お前たちが恐れ慣れた、あの存在へと変えていく」
彼は次の指に触れた。
さっきと同じ串を待った。
無駄だった。
今度の痛みは、冷たかった。
刺すのではなく、吸い上げる痛み。指から、足から、骨から、誰かが水分と、熱と、命を引き抜いていく。皮膚が一気に突っ張り、いまにも裂けて乾いた殻となって剥がれ落ちる——そんな気がした。
口の中が、埃っぽくなった。
叫んだが、声はかすれた息にしかならない。喉まで一緒に干からびていくのかもしれない。
「わかるか、坊主」ゲイルは、ほとんど優しい声で言った。「体というのは、強情なものでな。しばらくは、人間のものであるふりを続ける。だが、正しく頼んでやれば……」
彼は微笑んだ。
「……本当は誰のものだったか、思い出す」
革紐の中でもがいた。
無駄だ。
革の紐が、手首と足首に食い込んでいた。体の下の台は濡れていた。何でかはわからない。知りたくもない。だが裏切り者の脳みそは、勝手に見当をつけてしまっていた。
「ただし、一つだけ厄介なことがある」ゲイルは続けた。「死んだものを、元のかたちのまま生き返らせることはできない。死は、何ひとつ丸ごとは返さん。必ず、釣り銭を取っておく」
この一言が、なぜか、必要以上に深く刺さった。
たぶん、その中に、俺のことが混じっていたからだ。
俺の、他人のものとしか思えない両手のこと。
映しても、そこにいない俺の顔のこと。
まともな理由もないくせに、動き続けている心臓のこと。
ゲイルが顔を近づけてきた。老いと、鉄と、それから何か甘ったるいもの——自分が肉であることを忘れた肉の臭いがした。
「さて、アスゴルド」彼は同じ微笑みのまま言った。「そろそろ、手のほうに移ろうか」
恐怖は、消えなかった。
ただ、縮んだ。
小さく、硬く、熱くなった。舌の下でくすぶる、炭火の粒。
このクソ野郎。
身をよじり、革紐から手を引き抜こうとした。台が軋んだ。手首の皮が火を噴いた。肩のどこかで、何かが鳴った——気のせいかもしれない。
「暴れるな、坊主」ゲイルは穏やかに言った。「その紐は、お前より年上だ。そして残念ながら、お前よりまだ賢い」
彼は薄く笑い、俺の手首へ歩み寄った。
「授業は、生徒が叫んだところで終わらん。たいていは、そこでようやく、聞く気になるものだ」
脚の痛みは、一秒たりとも引かなかった。
だが、彼が手の指に触れたとき、悟った——痛みには、階がある。
そして俺は今、一つ上へ上がった。
もう串でも、冷たさでもない。何か間違ったもの、それでいて、ほとんど几帳面なもの。誰かが俺の手を内側からつかみ、一気に折るのではなく、どちらへなら曲がる気になるかを確かめながら、一つずつ骨をばらしていく。
腱が張りつめた。
爪が、指の内へ引っ込もうとした。
骨がはっきりと軋み、自分の叫び声の向こうから、その音が聞こえた。
叫んだ。
だが今度は、痛みのためだけの叫びじゃなかった。
笑み崩れた老いぼれの醜い面を見ながら、たった一つのことだけを考えていた。
くたばれ、クズが。
その瞬間、痛みがどこか下へ落ちた。
消えたわけじゃない。
違う。
ただ、遠くなった。分厚い壁の向こうの物音になった。
部屋の中が、しんと静まり返った。誰かが世界から余計なもの——血の臭い、革紐の軋み、ゲイルの息づかい、俺自身の叫びまで——を、残らず取り除いてしまった。
残ったのは、心臓だけだった。
それが、一度だけ打った。
外へではなく——内へ。
閉じた扉を、内側から拳で叩く。
かちり。
老人の顔から、微笑みが滑り落ちた。
ゲイルは、ゆっくりと自分の手のほうへ首を回した。
かちり。
ごきり。
彼の指が、あり得ない方向へ折れ曲がった。続いて手首が、内側へ畳み込まれた。それから肘が、ぐるりと、柔らかく、いやらしく回った——中に骨などなく、古い蝶番だけが仕込まれているのだと言わんばかりに。
彼は叫ぼうと口を開けた。
間に合わなかった。
「あ——アスゴ……や、やめ……よ……」
ゲイルの腕が畳まれていく。暗がりの中、説明書もなしに誰かが無理やり畳んだ、折りたたみ式の道具だった。肩が内側へめり込む。背中が角へと折れ曲がる。膝が、前でも後ろでもなく、どこか横へ崩れ落ちた。
軋みが、一つ、また一つと続いた。
乾いた音だった。
事務的だった。
ほとんど、礼儀正しかった。
ゲイルは、もう立っていなかった。その体は、自分自身の内側へ畳み込まれ、縮み、すぼまり、皮と布と骨でできた角ばった塊になっていく。
そして、床に崩れ落ちた。
一瞬、静かになった。
笑おうとした。だが喉から出たのは、濡れたかすれ声だけだった。視線が、自分の足に落ちた。親指のあった場所で、血まみれの空洞が脈を打っていた。
つまり、奇跡なんて起きない。
あるのは、別のやり方で醜くなること。それだけだ。
闇が下から立ち上り、台を、壁を、ナイフを、折り畳まれた老人の体を覆っていった。
そして、俺を。
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臭いが、鼻を突いた。
薄目を開けた。
体じゅうに、脱力と悪寒が広がっていく。震えが止まらなかった。骨が中で他人のものになり、いまごろ肉になじもうとあがいている——そんな震え方だった。
あたりは、完全な闇だった。
頭を持ち上げようとした。
できなかった。
足元のあたりで、空洞が鈍く、しつこく、犬が鳴くみたいに、みじめにうずいていた。指はもうないのに、まだ痛む。
体らしい、たちの悪い冗談だ。
自分の一部を失ってなお、こいつは律儀に、俺を苦しめる機会を逃さなかった。
罵ろうとした。
出てこなかった。
意識が、また落ちた。
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「生きてる」
声は、ざらついていた。他人の声だった。
その言葉が自分のことだと、すぐには気づかなかった。
金属が鳴った。
目を開けた。
まず、光が見えた。どこか上から落ちてきた、細く汚れた光の筋。
それから、人影。鎧をまとった大柄な男たちが、解体台を囲んで立っていた。
天使では、なかった。
天使は、たぶん、こんなに重い長靴は履かない。
一人が、抜き身の剣を提げていた。刃には、はっきりと文字が刻まれていた。
「見せかけるより、在れ」
なぜか、その言葉が、嫌味に思えた。
いまの俺には、在ることも、見せかけることもできなかった。
「ダングリトン卿、こいつは繋がれています」男の一人が言った。「外してよろしいか」
剣を持った男は、すぐには答えなかった。
その視線が、自分の上を通っていくのを感じた。革紐を。血を。足の欠けた場所を。隅に折り畳まれ、まだこの世から捨てきれずに残されたゲイルの体を。そして——俺の首の傷を。
「急ぐな」ダングリトン卿が言った。
その声は、落ち着いていた。
そのせいで、よけいに嫌な感じがした。
「まず、台を見ろ。それから、こいつを——とりわけ、その首を見ろ。それから、もう一度、壁際に転がっているものを見るんだ」
「こいつがやったと?」
「俺はな、こういう台の上で生きている奴が、無実だったためしはめったにないと思っている」ダングリトン卿は言った。「そして、まぐれで生き残る奴は、それよりもっと少ない」
自分は悪くないと、言いたかった。
老いぼれが、勝手にやったんだと。
そもそも正直なところ、いまの自分が何者なのかも、よくわかっていないんだと。
口から出たのは、かすれた音だけだった。
ダングリトン卿が、さらに顔を近づけた。剣の刃が、俺の顔のすぐそばに来た。
「聞こえるか、小僧」
瞬きした。
たぶん、それが「はい」だった。
「よし」彼は言った。「なら、馬鹿な真似はするな」
彼は身を起こした。
「外せ。ただし、刃は喉に当てておけ。動いたら——斬れ」
剣が宙に舞い、肉切り包丁のごとく振り下ろされた。
革紐が弾け飛んだ。
両手はたちまち手であることをやめ、肩に縫いつけられた、二つの重たい役立たずの物体に成り果てた。台から滑り落ちかけたが、誰かが襟首をつかんで引き止めた。
奴らは、俺を助けているんじゃない。
檻を、開けているんだ。
そして——そこから誰を出すのか、まだ決めていなかった。




