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神に祝福された街  作者: 風谷 華


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第九話 脱皮の夜

その夜、エリーナが熱を出した。


ただの熱とは違った。


体が灼けるように熱く、肌が全体的に赤みを帯び、首の後ろの白い線が、昨日より明らかに広がっていた。


「お母さん……」


「ここにいるよ」


「なんか、変な感じ」


「どんな感じ?」


「こう……内側から、何かが押してくるみたいな」


ルシアは冷たい布をエリーナの額に当てながら、呼吸を整えようとした。


「怖い?」


「……ちょっと」


エリーナの目が、ルシアを見上げた。


薄緑の、宝石のような目。


その瞳の奥に、今夜は何か違うものが見えた。


虹彩の中の虹彩。


複眼の始まり。


「でもお母さんがいるから、大丈夫」


エリーナが言った。


ルシアは、その手を握った。


娘の手は、いつもより少し……うろこ状の感触があった。


「大丈夫よ」


ルシアは言った。


「お母さんがいるから」


それは本当のことだった。


たとえ何が起きても、ここにいる。


逃げることも、変えることも、止めることもできなくても。


ここにいる。


エリーナはやがて眠った。


眠る娘の首の後ろで、白い線が、ゆっくりと広がっていくのを、ルシアは見続けた。


夜が深まった。


どこかで、新生児の泣き声がした。


この街では今夜も、「健康で美しい赤ちゃん」が生まれているのだ。


また一つ、苗が植えられた。


また一つ、種が蒔かれた。


この街は続く。


この循環は続く。


神が、あるいは神と呼ばれる何かが、この街に仕掛けた繁殖の場は、誰かが気づいても気づかなくても、何も変わらずに続く。


ルシアはエリーナの手を握ったまま、夜明けを待った。




夜明けは来なかった。


正確には、夜明けは来た。


でも、ルシアは夜明けを見られなかった。


明け方の薄光が部屋に差し込む少し前、ルシアは自分の手に視線を落とした。


エリーナの手を握っている、その手。


指の第一関節から先が、少し、色が変わっていた。


薄い甲殻に似た、透明がかった、硬い何かに覆われている。


ルシアは手を開いた。


閉じた。


感触は、普通だった。


でも見た目は、もう普通ではなかった。


「……そうか」


呟いた。


そういうことか。


変化は、外側から来るのではない。


内側から、ゆっくりと来る。


いつの間にか。


自分でも気づかないうちに。


これがヴェルナだ。


これがヴェルナの「祝福」だ。


ルシアは眠るエリーナを見た。


娘の背中が、静かに上下している。


その背中の皮膚の下に、うっすらと、節のような構造が透けて見えた。


「おやすみ、エリーナ」


ルシアは囁いた。


「明日も、笑っていてね」




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