表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に祝福された街  作者: 風谷 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/12

第二話 泥の仮面

街の外れに、一人のドワーフが住んでいた。


名前はゴット。


背丈は一般的なドワーフと同じく低く、しかし他のドワーフと違って、山の工房ではなく街の端の掘っ立て小屋に一人で暮らしていた。

酒樽のような体と、鉄の繊維のようなごわごわした赤茶の髭。

いつも泥のついた大きな手を持て余すように、街の子供たちの前にしゃがみ込んで、土で何かを作っていた。


「また泥でも遊んでるのかしら」


市場の女たちは眉をひそめた。


「あの爺さん、いつ見ても薄気味悪いのよね」


「子供に仮面を配ってるって聞いたわよ。

なんのために?」


「本人は『贈り物だ』って言うらしいけど……」


ゴットは子供たちに、泥で焼いた小さな仮面を配っていた。


ちょうど顔の下半分を覆うような形の、ごく薄い素焼きの仮面。

色は淡い白で、細かい模様が彫られている。

それは確かに、職人の技としては美しかった。


「なんで仮面なの、おじさん」


子供に聞かれると、ゴットは決まってこう答えた。


「お守りさ。

首の後ろや、腕や、顔に、白い線が出てきたら、これをつけて、隠しておくんだ。この仮面をつけたら、白い線は消えるからね。線が消えたら、仮面を取っても大丈夫だよ。

白い線を、大人には見せちゃいかんよ」


「どうして見せちゃダメなの?」


「大人は怖がるからだよ」


子供たちはきょとんとして、それでも仮面を受け取った。


そしてルシアの娘エリーナも、ある日帰宅するなり「ゴットのおじさんにもらった」と言って、白い仮面を見せた。


ルシアは反射的に、それを取り上げた。


「こんなもの、あの変なドワーフにもらっちゃだめ」


「でも、きれいだよ?」


「きれいとか関係ないの。

ゴットのおじさんは、良くない人なのよ」


「どうして?」


「どうしてって……だって、何を考えてるかわからないじゃない」


ルシアは仮面を棚の奥にしまい込んで、エリーナに言い聞かせた。


ゴットのところには行ってはいけない。

あのドワーフは変だから。


それで済むはずだった。




神隠しが起きたのは、その翌週のことだ。


ベルタの息子カルが、学校から帰る途中に消えた。


九歳の男の子が、白昼堂々、消えた。


街中が騒然となった。


捜索隊が組まれ、男たちが横一列になって野原を歩き、森の中を呼びながら進んだ。

しかし、カルはどこにもいなかった。


「神隠しよ」


年配の女が言った。


「また神隠しだわ。

七ヵ月前にも、ルシウスの子が消えたでしょう」


「でも、なんで神様が、お守りくださってる街で神隠しが起きるの?」


「それは……誰かが、邪悪なことをしているからよ」


女たちの視線が、自然と一方向を向いた。


街外れの小屋の方向を。


「あのドワーフよ」


誰かが囁いた。


「ゴットよ。

あいつが子供を取っているのよ」


「そうだわ。

仮面を配ってたじゃないの。

あれで呼び寄せて、さらってるんだわ」


「許せない!」


「許せない!」


怒りは感染する。


一人が確信すれば、周囲も確信する。


根拠は要らない。

疑念と恐怖があれば、人は何にでも理由を見出せる。


その夜、ゴットの小屋は火に包まれた。




ルシアは、ゴットの火刑の場には行かなかった。


マルタとベルタが「行こう」と誘ったが、断った。


ゴットが本当に誘拐犯かどうか、自分には判断できない。

エリーナにも仮面を配っていたが、危害を加えてきたわけではない。


それに、カルはゴットの小屋の近くで消えたわけでもなかった。


だがその夜、ベルタから短い言伝が届いた。


「あいつは最後まで笑っていたわよ。

何が楽しいんだか」


翌朝、ルシアが市場に行くと、女たちがその話をしていた。


「あのドワーフ、何か言ったらしいわよ」


「ええ? 何て言ってたの?」


「聞こえなかったけど、何か笑いながら言って、それで……」


女は声を潜めた。


「炎の中で、笑ったまま死んだって」


ルシアは、それを聞いてなぜか、足の先から冷えていく感覚を覚えた。


どうして笑っていたのか。


何が、そんなに可笑しかったのか。




しかし日々は続く。


エリーナはまた学校に行き、友達と笑い、川辺で遊んだ。


カルのことを尋ねると、エリーナは少しだけ黙ってから、「カルはお空に行ったんでしょ」と言った。


「どうしてそう思うの?」


「わからない。

でも、なんかそんな気がして」


子供なりの、死の解釈だろうか。


ルシアは頷いて、それ以上は聞かなかった。


棚の奥に押し込んだ泥の仮面が、ときどき頭に浮かんだが、ルシアはそれを取り出さなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ