表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に祝福された街  作者: 風谷 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/12

番外編:ゴットが知っていたこと

ゴットが泥の仮面を作り始めたのは、三十年前のことだった。


ヴェルナに流れ着いたのは偶然だった。


山の工房を追われた後、各地を転々として、食いつなぎながら旅をしていた。

どの街でも「ドワーフが一人でうろついている」と白い目で見られ、長くは留まれなかった。


ヴェルナはきれいな街だった。


入った瞬間から、妙に居心地が良かった。


空気が柔らかく、人々が穏やかで、食べ物がおいしかった。


ゴットは街外れに小屋を建て、定住することにした。




変化に最初に気づいたのは、子供たちの遊び場だった。


ゴットは子供が好きだった。


自分の子供はいなかったが、子供の声がすると、なんとなく嬉しくなった。


街の子供たちは、最初は「変なドワーフ」と言って近寄ってこなかったが、ゴットが泥で動物の形を作って見せると、少しずつ慣れてきた。


そうして仲良くなった子供の一人が、ある日首の後ろを痒そうにしているのを見た。


「どうした」


「なんかかゆくて」


「見せてごらん」


のぞき込んで、ゴットは息を止めた。


細い線。

白く浮いた皮膚。

まるで、何かの殻が内側から浮き上がってきているような。


ゴットは三十年間の旅の中で、色々なものを見てきた。


山の奥に住む岩の精。

海底から来た魚人族。

樹の中に溶け込んだ木の民。


だが、これは何だ。


人間の子供に見えて、内側から「別のもの」が育ちつつある。


しかも子供は、自分でも気づいていない。


いや、子供だけではない。

よく見れば、大人も、皮膚のどこかに微細な変異が始まっていた。


しかし彼らは、それを見えていなかった。


見ないように、できていた。




ゴットは調べた。


街の歴史を、古い記録を、老人の話を、一つ一つ集めた。


分かったのは、ヴェルナがこの場所に建てられてから少なくとも二百年、同じことが続いているということだった。


数ヵ月に一度、子供が消える。

それ以外の日々は、何も変わらない。

美しい子供が生まれ、健康に育ち、大人になり、また子供を産む。


消えた子供は「神隠し」と呼ばれ、人々は嘆き、しかしやがて忘れ、また新しい命を喜ぶ。


神隠しに遭うのは、変異が一定の段階まで進んだ子供だけだった。


つまり。


この池の底で繭になるのが、この「子供たち」の目的地なのだ。


しかしそれが何者の意図で、何のために行われているのか、ゴットには分からなかった。


神殿の奥に何かがいるのかもしれない。

あるいは、この土地そのものが、そういう性質を持っているのかもしれない。


ゴットはただ、一つのことだけを決めた。


自分には止められない。

逃げることすら、できないかもしれない。


でも、せめて。


子供たちが「変化」していることを、大人に見つけられる前に、少しでも長く隠すことはできる。


それが、仮面の始まりだった。




仮面は、完全な解決にはならなかった。


子供は結局、消えた。


ゴットが仮面を作り続けた三十年間、ずっと子供は消え続けた。


それでも、ゴットは作り続けた。


「なんで仮面を作るの」と子供に聞かれると、決まってこう答えた。


「お守りさ」


それは嘘だった。


お守りにはならない。


でも、他に言いようがなかった。


怖がらせることはできない。

知らせることはできない。

助けることもできない。


ただ、一緒にいることしかできなかった。


そうしてゴットは三十年間、この街の外れで、子供たちと泥を触り、仮面を焼き、笑った。



ゴットは最期の瞬間まで、後悔しなかった。


炎の中で笑ったのは、やけくそではなかった。


本当に、後悔がなかったからだ。


三十年間、できることをしたから。



泥の仮面は今も、ルシアの棚の奥に眠っている。


次の子供に渡されることなく。


でもゴットが彫った模様の意味を、一人でも誰かが気づくことを、ゴットはもう知ることができない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ