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第四話:その男、不可触につき。

 爆心地――。 

 しかし、そこには普段と変わりない光景が広がっている。 

 大地が陥没しているわけではない。 

 草木も倒壊していない。

 そよ風に心地よさそうに揺れている。 

 ただ一人、ハイドだけを除いては……。


「……え?」   

 ハイドが自分を見下ろすと、そこには漆黒の魔導衣も、アダマンタイト製の杖もなかった。   

 あるのは、己が肉体のみ。


「我の……我の魔法が通用しないだと……?」   

 ハイドは、その場に崩れ落ちた。  


 今回の待ち伏せは、彼にとっては完璧なシナリオのはずだった。   

 まず魔導鎖で勇者の動きを封じ、同時に『魔力吸収(ドレイン)』を発動。 

 弱ったところで、聖女だけを特殊な転移魔法で隔離し、勇者を孤立無援にする。


「クハハ、私の計算に狂いはない! 物理的接触を避けつつ、概念的に貴様を摩耗させてくれるわ!」     

 ……そう豪語していたのが、わずか数分前のことだ。


 ――が。 

 ダイの肌に触れたハイドの魔法の鎖が、ダイの拒絶反応(全裸パワー)を強制起動。 

 そこに馬車内での「ユイに避けられたストレス」がブースターとなり、通常より高出力の全裸波が発生した。


「……ありえない。私の、私の完璧な計画が……全裸パワーで打ち消されるなど……」  


 物理的な服や装備だけでなく、ハイドを支えていたプライドまでをも全裸波は削り取っていた。


「ハイド……だったかな?」


「……な、なんだ。殺すなら殺せ」


「いや、殺しはしない。……ただ、魔王軍の四天王っていうから、もっとこう、規格外なモノを想像してたんだが」 

 ダイは微笑みながら、憐れむような視線をハイドの一点に向けた。

「……意外に、控えめなんだな。アンタの魔棒は」


 パリン。 

 ハイドの中で、何かが壊れた。


「……完敗だ。戦闘においても、肉体においても……」 

 四天王の一人が、完全に精神的再起不能となった瞬間だった。

「勇者よ、見事だ!」


 一方、馬車の方では。


「……生きてる、私、服着てる!」   

 ユイは自分の聖女服が無事であることを確認し、安堵の息を漏らした。 

 スキル【神の加護】が、かろうじて彼女の乙女の尊厳を守り抜いたのだ。


 だが、その横では。


「……旦那、いい加護持ってますねぇ。目的地までは、あと三キロほどですが……このまま向かってもいいですかい?」   

 御者が、一糸纏わぬ姿で、凛々しく手綱を握っていた。


「よろしくお願いします」   

 ダイは、これまた全裸で深く頷いた。


「ダイさん、早く予備のコートを着てください! もう、何なんですかその威力! 御者さんまで可哀想に!」


「俺のせいじゃない! ハイドとかいう奴が鎖なんて巻き付けてくるから、ストレスと混ざって臨界突破したんだ!」


 御者は、バリケード代わりに使っていた壺を抱くようにして体を隠すと、王都に向かって馬車を走らせた。


(これぞプロフェッショナル……いるんだな、この世界にもブラックな職場環境でありながらも頑張っている男が)


 ダイの胸に、熱いものが込み上げてくる。


(よし! この人たちのために、俺は魔王軍と闘おう! )


 ダイの決意によって、異世界の戦場は、かつてないほどにシュールな地獄へと変貌していくのだった。

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