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5話 ニート、遭遇す


 ゴブリンとハイゴブリンとの戦闘後、俺たちは未だに前へと進めていなかった。

 ハイゴブリンに吹き飛ばされたり転がったりと散々な目にあったが、俺自体に目立った外傷がないのは探索者だからだろう。

 以前なら間違いなく死んでいた。

 こんな目にあうのも探索者になったせいだが、そこは今の体に感謝しないといけないだろう。


 先程の戦闘により俺の長剣レベルが8から11になった。

 他にも戦闘中にスキルを獲得したが、気になるのがひとつ。

 ⬛️⬛️というスキル。

 もちろん読めない。

 何らかの効果があるのかも不明なスキルだが、あまりいい予感がしないのは考えすぎだろうか。


「帰るのも手だと思う」


 武器の手入れをしていた彼女が言ってきた。

 俺もそれは考えている。

 ハイゴブリンは俺の想像を超えた強敵であり、本来の予定であった一人ならばもっと苦戦した事だろう。

 外に出なかったニートが探索者になったからと無敵にでもなったつもりでいたのだろうか。

 反省しよう。

 後今更だが、彼女は北見という名前らしい。


 北見さんの意見を尊重し、幾つか意見を交わすことにした結果、中層への入口だけ確認しようとなった。

 途中ハイゴブリンがいれば撤退。

 ゴブリンだけなら要相談だ。


 俺のスキル気配察知は、それほど遠い距離までは索敵出来ないことも判明しており、ハイゴブリンとゴブリンの集団を早い段階で見つけれたのは幸運だっただろう。

 あるいは、ハイゴブリンが最初から参戦していれば結果は変わっていたかもしれない。


「私が前に出るので、その気配察知とやらはお任せします」


 北見さんの言葉に頷く。

 【スキル:気配察知】は発動すれば断続的に周囲の情報を入手出来るスキルらしく、地形などは把握出来ないがこちらが先に気付ける利点がある。

 ただし、使う度に俺の中の何かが失われる感覚があり、北見さんに聞けばこれは()()というもので【スキル:韋駄天】を発動させた時に足が光るのは魔力の光でもあるらしい。

 微々たるものなのでそれほど気にする必要も無いのだが、いざという時に魔力が足りなく戦えないでは困るので、北見さんが先導し、適時気配察知を発動させる事となった。


 目に優しくないカラフルな木々を抜けて進む事数分。

 早速気配察知が反応する。

 数は7と先程よりも多い事を伝える。


「ハイゴブリンが複数いた場合かなり危険ですね」


 俺の気配察知は敵の数が分かっても、何がいるかまでは分からない。

 感覚として何も写っていない地図に敵の赤点があるみたいな感じだ。

 北見さんの懸念の通り、ハイゴブリンが複数の場合勝ち目はかなり薄い。

 と、そこでさらに別の場所で気配察知に反応があった。

 俺たちは、動いていないので、向こうから俺の気配察知の範囲に入ったようだ。

 その数は一体。


「上層に現れる魔物は覚えていますか?」


 北見さんの質問に是と答える。

 この二等級異界化迷宮上層に現れるのはゴブリンとハイゴブリン、そしてそオーガという魔物だ。

 事前の情報でもオーガだけは絶対に交戦するなと言われていた。

 ただしオーガは上層の奥、中層への入口から離れた場所にいるので大丈夫とも言われていた。


「ゴブリンもハイゴブリンも群れで行動しますが、オーガは単独行動……、群れからはぐれた魔物である可能性もあります。どうしますか?」 


 どうするか。

 俺の答えは決まってる。

 ここでリスクをとってオーガかもしれない相手と戦うメリットは皆無だ。

 幸いにもこちらは気づかれていないのだから、やり過ごそう。


「――分かりました」


 オーガは現在、俺の索敵範囲の最大にいる。

 索敵距離は推測だが1キロ以内だ。

 遠いが、安全と呼べる距離でも無い。

 俺たちは今いる場所から離れるようにする。

 直ぐにオーガは索敵範囲から消えた。


「もう大丈夫そうですか?」


 小声の北見さんの質問に後ろにいた北見さんに振り向いて大丈夫だと伝え――ようとして固まった。

 そこにいるはずのない、異形の人型がいた。

 隣にいる北見さんは気づいていない。

 索敵していたはずの俺も気づかなかった。


 身長がそれほど低くない北見さんよりも、尚小さい体躯。

 肌は赤みを帯びており、小さいながらもその体に圧縮された筋肉が凄まじい威圧感を放っている。

 頭部に生えた二本の角が黒く光、恐ろしく鋭利な牙が生え揃った口。


「どうしたんですか?」


 それだけの威圧感がありながら――隣にいながら北見さんに気づかれない隠密性の高さ。

 ――ダメだ、戦ってはいけない。

 そうは思っても、この距離では逃げる事も出来ない。


 俺の様子を疑問に思った北見さんが、俺の視線が北見さんではなくその隣にあることに気づく。

 そっと、北見さんが横を向いた。


 『キヒッ』


「――――っ!」


 オーガと北見さんの目が会った瞬間、オーガが北見さんを蹴り飛ばす。

 轟音と衝撃と共に北見さんの身体は木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んで行った。


 『キヒヒ』


 俺は剣を引き抜く。

 だが身体はそれ以上動かなかった。

 手足がガタガタと震える。

 オーガはハイゴブリンと同じ二等級。


 冗談じゃない!

 これのどこがハイゴブリンと同格だ!


 声を荒らげて叫びたくなった。

 今すぐにでも――北見さんを見捨ててでも、逃げ出したい。

 なのに身体は動かなかった。


 『キヒッ』


 そんな無様な俺の姿を見て、オーガは嗤った。

 そして――次に俺が感じたのは、内蔵をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたかのような衝撃だった。

 もはや痛みなどなく、体の制御を完全に失いただ勢いのまま木々を薙ぎ倒す。

 加速する視界の中、自分が北見さんと同じように蹴り飛ばされたのだと気づいた。


 5分かそれ以上、あるいは数秒にも満たないかもしれない。

 俺の身体は勢いを失い地面に倒れ込んでいた。

 身体は動かない。

 いや、そもそも俺は生きているのか?


 目は開かず、呼吸も上手く出来ないが――生きてはいるらしい。

 何とか立ち上がろうとするが、どうにもならない。


 これは――無理だな。

 痛みがないのが幸いだ。

 痛いのは嫌だからな。


 【スキル:痛覚耐性を獲得しました】


 ……こんな時でもスキルって手に入るんだ。


 ザッ、と土を踏む音が聞こえた。

 オーガが近づいて来ている。

 

 北見さんは、駄目だろうな……。

 これがハイゴブリンと同格だとは到底信じれない。

 こいつは一体、()()()()


 【スキル:鑑定を獲得しました】


 次に足音が聞こえた瞬間、目も見えない俺の()()に文字が浮かび上がってきた。


 種族:古代鬼(エンシェントオーガ)

 個体名:⬛️⬛️⬛️

 迷宮の⬛️⬛️に生息する⬛️⬛️。

 遙か古代に自我を獲得し、⬛️⬛️を渡る事が出来る。

 ⬛️⬛️よ。

 近づくことなかれ。

 戦うことなかれ。

 この者は古代の⬛️⬛️の生き残りである。


 ――なんだこれ。


 そんな疑問も、頭部に受けた強い衝撃を最後に何も感じなくなった――。







 【スキル:⬛️⬛️が発動しました】




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