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4話 ニート、死にかける

5


 ハイゴブリン。

 一等級の魔物であるゴブリンの上位種であり、等級は一つ上の二等級。

 ゴブリンに似た見た目ながら2メートル以上の体躯を持ち、単純な力でいえばゴブリンを圧倒する。

 その見た目通りに長い手足と膂力を持ち合わせている。

 単純に厄介な相手だ。

 ゴブリン相手では実戦の雰囲気を味わえなかったので、今度こそ本番だ。


「来る!」

『ギギャァァアアア!』


 咆哮を上げ、ハイゴブリンが駆け出す。

 巨体ゆえに俺たちとの距離は瞬く間に縮まり、ハイゴブリンは拳を振り上げ叩き込む。


 俺と彼女は互いに左右に避ける。

 衝撃音と地面の揺れの後、ハイゴブリンの拳が地面を深々と抉っていた。


 ――当たれば即死だな。


「はぁっ!」


 観察に徹した俺と違い、彼女はハイゴブリンへ接近して短剣を振るおうとする。

 ハイゴブリンはその攻撃が届くよりも前に動き、片腕を振るって近づいてきた彼女を引き離す。

 長い手足はそのままリーチになるので、短剣の彼女では接近は困難だろう。

 俺が隙を作らないとな。


 入れ替わるように俺がハイゴブリンへ接近し、長剣を振るう。

 ハイゴブリンはその一撃を片腕で受け止める。


「――――っ?!」


 流石にこれには驚いた。

 俺の剣はハイゴブリンの腕を両断出来ず、皮膚に少し食いこんだ所で止まった。

 細腕なのになんて硬さだ。

 まるで金属を相手にしているかのようだ。

 ゴブリンとは比べ物にならない。


 『ギギャ!』


 俺の剣が食いこんだまま、腕を持ち上げ、左右に振るう。

 剣を手放さなかった俺の体はその動きのとおりに宙へ持ち上がり、吹き飛ばされる。

 全身で感じる空気抵抗間もなく、俺の体にとんでもない衝撃が走り肺の中の空気が強制的に吐き出される。


「――――!」


 木に叩きつけられたと気づいたのは、全身の痺れと呼吸をしようとして出来ない苦しさに悶えている時だった。


「起き上がって!」


 彼女の声に、咄嗟に意識を戻し転がるように移動する。

 先程まで俺がいた場所へハイゴブリンの拳が叩き込まれた。


「――ゴホッゴホッ」


 何とか立ち上がるが、叩きつけられた衝撃は簡単には治らない。

 生きているのも探索者になれたおかげだろう。

 これで二等級とはつくづくふざけてる。


『ギギャァ』


 満身創痍な俺の様子に、ハイゴブリンが笑った気がした。


 【スキル:恐怖耐性を獲得しました】

 【スキル:不屈を獲得しました】


 新しいスキルを獲得し、それらが即座に発動する。

 痛みは消えないが、動けるようになった。


 ――俺の剣は、あった。

 少し離れた場所に落ちている。

 俺は痛む体を動かして剣を拾いに行く。

 ハイゴブリンは俺を嘲笑っているのか、追撃してこなかった。


 【スキル:⬛️⬛️を獲得しました】


「――上等だ」


 剣を拾い、構える。

 持ち手をやや右下に下げて、刀身を斜めに。


 ――【スキル:韋駄天】。


 俺の両足が光を帯びる。

 【スキル:韋駄天】は移動速度を大幅に向上させるスキル。

 ただし使い慣れていないので制御が効かなくなる事も多い。

 練習の時には大抵失敗した。

 だが今なら、上手くいくはずだ。


 体を低く落とした俺の体が、踏み込んだ地面を抉って弾かれたようにハイゴブリンとの距離を詰める。

 その勢いを落とすことなくすれ違いざまにハイゴブリンの右足を斬りつける。


 『――――!』


 勢いが強く止まろうとして地面を削るが、完全に止まるよりも先にもう一度【スキル:韋駄天】を発動。

 ハイゴブリンが認識するよりも早く今度はハイゴブリンの左足を斬りつける。


 両足を失ったハイゴブリンは土下座でもするように地面に倒れ込む。


「――やれ」


 二度目のスキル発動で地面を盛大に転がり、逆さになった無様な格好のまま俺は見ていた。

 倒れ込んだハイゴブリンの上に乗り、双剣を構えた彼女を。


「――【双剣スキル:双牙】!」


 その音を何と例えるべきだろう。

 骨を無理やりに砕いた音と言うべきか、おおよそ斬ったという音ではない衝撃音を立てて彼女の双剣がハイゴブリンの首を砕き、切断する。


 ハイゴブリンの首から大量の鮮血が吹き上がるが、彼女はそんな事を気にした様子もなくハイゴブリンの上から降り、俺の元へやってきた。


「お疲れ様」


 差し出された手を、姿勢を直して受け取り立ち上がる。


「――お疲れ」


 と、ひと仕事終えた気分になるがまだ異界化迷宮の入口に入ったばかりだという事実に気づき、嫌になる。

 二等級の魔物を相手にしただけで死にかけたぞ。

 剣が面白いように扱えるようになって調子に乗っていたようだ。


 先はまだ長い。

 これからはより一層気を付けないといけないだろう。


 

 

  


 

 

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