3話 ニート、異界化迷宮へ行く
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俺が探索者となってひと月。
長剣のスキルが練習では上がらなくなった。
締め切りまでひと月あるが、仕方ない。
異界化迷宮に向かうとしよう。
という話をすると、ちょうど暇そうな同期がいるのでと彼女を紹介された。
これまで何度かあった事のある、同じ境遇の彼女である。
なにやら行くのに渋っていたが、受付の人に説得された結果二人で入る事となった。
異界化迷宮は、文字通りに迷宮のように複雑な通路と過酷な環境となっている。
俺たちが行くのはその中でも小規模な異界化迷宮だ。
ただし内部は地下に通じており、小規模とはいえ見た目以上の広さなのは間違いない。
その場所は人の出入りがほとんどない場所らしく、実入りも少ない為に放っておかれていたのだという。
異界化迷宮は3つの階層に分類され、地上に面した上層、内部空間の中層、そして最深部に至る下層に分かれている。
迷宮核の破壊が出来れば上々だが、ダメでも魔物の素材や資源は買い取ってくれるのだという。
ただしここあるのは評判通りに身入りのない魔物や資源らしいのだが。
異界化迷宮に入るにあたり、装備の支給があった。
俺は簡単な防具と本当に切れる長剣。
彼女は短剣二本と身軽な防具だった。
俺たちが入る異界化迷宮は山の中にあった。
以前見た異界化迷宮は街の中に突然森があるような光景だったが、こちらは山の中に明らかに別種の木が生えている。
ある場所を境に、紫や青、赤の葉を揺らす木々で埋め尽くされている。
「それではご武運を。お帰りの際はご連絡を下さればお向かいに上がります」
俺たちの間に緊張が走る。
以前は中に踏み入れただけだが、この先に入れば魔物を相手にしなければいけない。
魔物。
異界化迷宮に生息する、既存の生物とは全く異なる生体を持つ生き物。
その見た目や生体は神話や伝承に語られる怪物に近い為、魔物と呼ばれている。
魔物は異界化迷宮の境界から基本的に外に出る事はないが、その死骸は外に運び出すことが出来る。
生きたまま外に出すには、なにか特別な条件があるらしい。
探索者は迷宮核の破壊の他に、魔物の死骸――素材の回収と、異界化迷宮内の未知の資源の回収も目的としている。
回収された資源や素材をもとに現代科学を超えたアーティファクトなるものが創られるらしいのだが、詳しくは知らない。
俺は彼女の方を見る。
連れてこられた事が不満だったらしいが――今も不満らしい。
そんな顔をしている。
「……はぁ、さっさと行って帰りましょう」
短く息を吐き、彼女が先導して前に進む。
俺は黙ってついて行った。
――第二等級異界化迷宮。
五段階で分類された異界化迷宮の難易度を表す等級があり、その規模や出現する魔物によって変化する。
これは無闇に危険な異界化迷宮に探索者を送らない為の仕組みで、同様に探索者、魔物にも同じ分類が存在する。
基本的に同等の等級が推奨され、一つ上までが推奨されないまでも比較的安全の類。
二つ以上で危険が跳ね上がるのだという。
俺たちはひと月前に探索者になったばかりで、探索者としての等級は一等級となっている。
足を踏み入れた瞬間、空気が変わったのが分かった。
真夏から真冬になったかのように劇的に、しかし温度が下がった訳ではない。
雰囲気、とでも言うべきものが変わったのだ。
【スキル:気配察知を獲得しました】
どうやら新しいスキルを手に入れたらしい。
使い方は不思議と理解できる。
早速使うと、少し先に何かの生物の気配があるのが分かった。
しかもそいつは、こちらへ向かってきている。
俺が長剣を構えると、彼女も異変に気づき短剣を構える。
数秒して、こちらに何かが飛来してきた。
「はぁっ!」
飛来してきたそれを、彼女が短剣で払うと地面に落ちる。
それは矢であった。
「来るわよ」
彼女の言葉に頷く。
再度飛来した矢を今度は俺が斬り落とす。
飛んできた矢を斬る事が出来るのも、探索者になったおかげだ。
断続的に二度、三度と続いた攻撃も俺たちには当たらず、痺れを切らしたのかそいつらは姿を現した。
深い緑色の体表に、細い体躯。
体に対して頭部が大きく、酷い獣臭が離れた距離からも漂ってくる。
ゴブリン。
その見た目から名付けられたこいつらは、それに近いし生態を持つ魔物だ。
悪食で狡猾。
簡単な武具を取り扱う知恵のある魔物。
俺たちの前に現れたのは弓を持ったゴブリンが二体、錆びたナイフを持つのが一体、棍棒を持つのが一体。
そしてその背後から、ゴブリンよりも倍近い体躯の、ゴブリンと似た見た目のハイゴブリンが一体。
「私が弓をやるわ」
初めての実戦に怯えること無く、彼女は言った。
男前かよ。
となるとゴブリン二体とハイゴブリンは俺の受け持ちか。
なんかこっちの方が負担が大きくないか?
俺は大きく息を吐き、乱れそうになる呼吸を整える。
『ギギャギャギャ!』
ゴブリンが不快な金切り声を上げると、一斉に動き出す。
――ハイゴブリンは動いていない?
様子見でもするつもりか?
弓を持つゴブリンに向かって彼女が走り出す。
弓ゴブリンはすかさず彼女へ矢を放つが、それをあっさりと弾くと距離を詰めて短剣を一閃。
弓ゴブリンの一体は頭に対して貧弱な首を両断され絶命。
残りの一体に対してはもう片手にある短剣を投擲しその頭部に命中させ絶命させる。
素晴らしい手際だ。
俺の方は錆びたナイフのゴブリンが俺に向かってくる。
それに対し、俺は長剣を構える。
『ギギッ!』
俺との距離を詰めたゴブリンが錆びたナイフを振るう。
傷を負えば破傷風間違いなしな極悪な凶器だが、今の俺の長剣スキルはlv8。
ナイフの一撃を弾き返し、そのままゴブリンを両断するのは容易いことだった。
『ギギ……』
弓ゴブリン二体、ナイフゴブリンが死んだことにより、動いていなかった棍棒ゴブリンが後退る。
俺たちを相手に棍棒では勝ち目ないだろう。
逃走を図ろうとする。
その判断は間違っていないと思うが、棍棒ゴブリンの後方で控えていたハイゴブリンはそれを許さなかった。
逃げようとしたゴブリンを頭上から叩き潰す。
「わっ」
いつの間にか戻っていた彼女が驚く。
どうやら魔物の世界も世知辛いらしい。
『ギギャァァアアア!!』
ハイゴブリンが咆哮を上げる。
ゴブリンの金切り声とは違う、腹の底に響くような声だ。
俺たちは再度剣を構え直した。




