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閑話

3


 異界化孤児。

 私に付けられた新しい名前はそれだった。

 迷宮核による異界化によって目の前で両親を喪った私は施設に預けられ、そこで育った。

 しかし私はそこでも馴染めず、18歳になった時に外に出る選択を選ばなかった事で、両親を喪った異界化迷宮に送り込まれる事になった。


 生存率20%以下。

 異界化した場所に入り込んだ人間が生き残れる確率だそうだ。

 これは異界化迷宮で生き残れる確率ではない。

 踏み入れた者が生き残れるかどうかの確率だそうだ。


 私は全てを諦めた。

 目の前で両親が異界化に飲み込まれたとき、両親は必死に私を生かしたが、私は生き残りたくなんか無かった。

 一緒にいたかった。


 異界化迷宮覚醒ツアー。

 そんなおかしな雰囲気で集められた人達の中に私はいた。

 この中の大半はこの後に死ぬ。

 以外にも他の人の雰囲気は暗くなかった。


 その中にその人はいた。

 正直、記憶には残ってない。

 後で再会するまで忘れていた。


 残念ながら、私は死ななかった。

 30人近く居たはずなのに、生き残ったのは数人だけだった。

 何故か私もその中にいた。


 私は探索者になった。

 説明会の後に探索者カードというものを貰った。

 私たちは2ヶ月以内にもう一度異界に入らなければ、人材費削減の為に消されてしまうらしい。

 その扱いに笑ってしまった。

 ホームレスの人でももう少しまともな扱いを受けれるだろう。


 2ヶ月なにもしなければ私の望みは叶う。

 それなのに、何故か私は訓練場にいた。


 目の前に広がる、様々な武器。

 思わず腰が引けてしまう。

 これを手に、私は異界に入らないといけない。

 異界にいる生物――()()を殺さなければいけない。

 迷宮核を破壊しないといけない。


 無理だと思った。

 諦めようと振り返ると、そこに人がいた。

 私よりも背の高い、表情のない能面のような顔の男の人。

 その目に私が映っているのに、まるで私などいないかのようだった。


 会話もなく、その人は武器の棚に行ってしまう。

 そこでこの人があの場――異界化迷宮覚醒ツアーにいた事を思い出した。

 という事は、この人は私と同じ状況なのだと気づいた。


 男の人は武器を一通り眺めた後、剣を持って奥へ消えていった。

 これ以上の関わりもなかったが、同じ環境の人後が頑張っている姿に、何か思うところがあったのかもしれない。

 私は短剣を手にしていた。


 初めて手にした武器は軽かった。

 包丁を持ったこともあるが、それとは異なっていた。

 近くに誰もいないことを確認し、短剣を振ってみる。


 ヒュンと軽く空気を切った。


 【短剣スキルを獲得しました】 

【短剣スキル:lv1】

 【双剣スキルを獲得しました】

 【双剣スキル:lv1】

 【双剣スキル・乱打を獲得しました】

 【双剣スキル:双牙(ソウガ)を獲得しました】


 私の視界に幾つもの文字が浮かび上がってきた。

 聞いていたが不思議な感覚だ。

 まるで私の体が今までとは違う何かに変わってしまった――いや、異界に入ると肉体が再構成されるんだったか。


 その日は軽く短剣を2本持って双剣を試したけれどそれ以上なにもせず帰った。

 住んでいた施設ではなく、国に割り振られた私の部屋にだ。


 翌日。

 私は双剣を試した。

 スキルの発動に関してだが、不思議なことに体が理解していた。

 【双剣スキル:乱打】。

 短剣の扱いなんて知らない私が、スキルを発動させた瞬間に練習用の人形を滅多切りにしていた。

 勝手に体が動くのは不快な感覚だ。

 【双剣スキル:双牙】。

 短剣を二本、獣が獲物に食らいつくように右斜め上と左斜め下から挟み込む。

 スキルが発動し命中すると、人形が大きく破損して砕けた。

 これは人に向けちゃダメなやつだ。


「凄いね君」


 かけられた声に、思わずびくりと体を震わす。

 振り向けば、二人の男性が立っていた。

 見覚えがないので、正規の探索者なのだろう。


「君、新しい探索者だよね。双剣なんて初めてみたよ」


 気安く声をかけられるが、私は声を出せないでいる。

 周囲に助けを求めようとしたが、誰もこちらを見ていない。


 ――いや、あの男の人がこちらを見た。


 助けを求める私。

 彼はゆっくりと手を挙げ、親指を立ててどこかへ行った……。


「――なんで?!」

「わっ」


 思わず声に出してしまった私に声を掛けた人が驚く。


「ご、ごめんね」


 謝りながら行ってしまった。

 結果オーライとはいえ、少し罪悪感がある。

 というかあの人はなんなのだ。

 何故サムズアップ?!


 そんな疑問が晴れることはなく、ひと月後。


 私はその彼と異界化迷宮に来ていた。

 

 

 

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