24話
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島の中央――大穴の地点で北見さんとも合流。
北見さんにも俺たちは漂流した設定を伝える。
戸惑いこそあったが、アリシアさんの見た目に夢中になっていたので問題ないだろう。
今回は前回ほど険悪な雰囲気もなく、アリシアさんが封印を見て回る間に考えを纏める事にする。
まず、あの黒い何か。
自らを天使と名乗ったあの男は、真なる神に仕えているといっていた。
ここに封印されているのはその真なる神の眷属だと。
問題はその真なる神の眷属が、俺の知る迷宮核と同じだった事だ。
いや、少なくとも異界化迷宮を作り出した迷宮核は前回俺が死んだ原因であろう光と熱を発する事はない。
迷宮核はあくまで異界化迷宮を作りだすための核でしかなかった。
見た目が同じなだけ?
可能性がないわけではないが、この世界にある神の眷属が俺たちの世界にやってきているのかもしれない。
だがこの世界に来た理由が異界化迷宮――迷宮核にあるのなら、ここに来たのには理由がそこにあるのかもしれない。
時間の猶予はない。
今夜、アリシアさんを一人にすればあの男に襲われて死んでしまう。
俺が一人でも結果は変わらない。
3人で対処しなければならない相手だ。
「やっぱり封印が綻んでいるみたい。確認だけど貴方たちは関わってないのよね」
もちろんだと伝える。
「貴方たちじゃないとしたら一体誰が……」
俺は知っているが説明は出来ない。
ふと、いっその事話してみてはどうかと思う。
別に隠していることではないのだ。
だがそう考える度にこう思うのだ。
死んだら説明し直しなの面倒臭いな、と。
「まぁいいわ。明日儀式の準備をして再封印を施すから。それと貴方たちも今夜はここの近くで休むといいわ。ここは封印の力で魔物が近寄らないはずだから」
アリシアさんの許可も貰えたので、俺と北見さんもここでテントを張る事にする。
何だか前回とは大きく違うが、よほど二回目の時は怪しかったんだな。
上手く行きそうで良かった。
――――
満天の星空と月明かり、そして焚き火の明かりだけが照らす闇の中。
北見とアリシアが炎を囲って夜を明かしていた。
もう一人の男は早々にテントの中で休んでしまい、本来ならひとりで見張りをするつもりだった北見にとって、アリシアと2人きりの状況は願ったり叶ったりというものだった。
惜しむらくは何故か工藤が持っている言語理解のスキルを、北見が手に入れる事が出来なかった事だ。
「fhujvx」
焚き火の中に木の枝を放り込みながら、アリシアが話しかけてくる。
北見は何か返答がしたかったが、異世界の言語が分からず項垂れて断念する。
せめて通訳がいれば、と先に寝てしまった工藤を恨む。
アリシアの方も、何度か話しかけてくれたが言葉が通じないばかりに、諦めたように首を左右に振ってしまう。
(あぁ……どうして私には言語理解のスキルがでないの!)
これほど切望しているのに、スキルは答えてくれなかった。
こんな――こんな一生に一度あるかないかのチャンスを前に、会話をする事も出来ない自分が心底嫌になってしまう。
そう、北見は生粋のエルフ好きであった。
迷宮核による異界化迷宮という目に見える日常の脅威によって、世界人口は激減の一途を辿っている。
日本も他国と比べれば少ない被害とはいえ、国土の三割近くを失いその被害は拡大し続けている。
その影響でインフラは一部地域を除いて戦前レベルまで落ち込み、サブカルチャーの類は衰退した。
幸いというべきか北見のいた施設では数十年前のサブカルチャー文化の名残りとして幾つかの書物があり、その中にエルフが登場したのだ。
その書物の中のエルフは気高く、なにより誇り高く美しかった。
両親を失い失意の底にいた北見にとって、そのエルフの存在は生きる糧の一部となっていた事は間違いない。
その強さに憧れを抱き、彼女のように強くなりたいとさえ思った。
だが現実はそう上手くいかない。
この時代、誰もが世界の為に何かをしていた。
そうしなければ世界が終わると分かっていたからだ。
そんな中、働きもしようとしなかった北見に居場所などあるはずもなかった。
だが幸か不幸か、いるはずのなかった、存在しないはずのエルフが今目の前にいる。
月明かりに照らされるアリシアの美しい緑色の髪。
キメ細やかで艶々とした肌。
かつて見た書物の中のエルフのようで、一層美しい見た目をしたアリシア。
有り体に言って最高だった。
憧れの偶像を前に、しかし北見は冷静を装う。
あまりしつこくして嫌われては元も子もないならだ。
少なくとも北見本人はそう出来ていると思い込んでいた。
「jtgi%tfs」
焚き火に照らされるアリシアの顔を眺めていると、突然アリシアが立ち上がった。
そしてしきりに周囲を見渡し始める。
北見はすぐに気づいた。
――敵だ。
「fgubx/gjj」
アリシアが工藤の眠るテントを指差す。
(起こせって事ね!)
「工藤さん! 敵襲です!」
声を掛けた瞬間、テントから男が飛び出してきた。
簡易ながら急所を守った防具を身に着け、抜剣した状態の男――工藤。
北見はその姿に首を傾げる。
(なんでこの人防具着て寝てるの……?)
「fgujvfe」
北見の疑問は口からは出ないまま、アリシアが工藤に声を掛ける。
憎たらしい事に工藤はアリシアの言葉が分かるので、アリシアの言葉に工藤が頷いた。
三人で背を向け合うように周囲の警戒をする。
アリシアと工藤は最大限の警戒を、だが北見は少し肩透かし気味だった。
なぜなら物音一つしなかったからだ。
静寂の中に3人の呼吸音と、焚き火の鳴る音だけ。
「――来た」
工藤が短く言葉を発する。
アリシアと北見の視線が工藤の方へ向く。
工藤の視線は――下を向いていた。
その視線の先で――影がこちらへ向かって動いていた。




