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23話


『グァアアア!!』


 男が悲痛な声を上げて身を捩る。

 北見さんの一撃は確実に男に致命傷を与えてはずだ。


 ――だが出血がない。


 俺たちは一度男から距離を取った。

 北見さんが両手に持つ短剣を確認する。

 刃がボロボロになっている。


「――あれは生身ではありません」


 斬った感触が妙に堅いとは思ったが、やっぱりそうか。

 男をみれば、胴体部分が抉れているのが分かる。

 だが出血はなく、その傷は次第に黒い何かに覆われて消えた。


『は、ハハハハ! いやはや、油断していたつもりはなかったが、やはりニンゲンは恐ろしいな』


 こいつの姿がどうであれ、本質はあの黒い何かという事か。

 物理攻撃は効果がなさそうだ。

 削り切れば行けるか?

 だが流石に今の状況をもう一度というわけにはいかないだろう。


 何か方法がないかと考えていると、男が口を開いた。


『あのエルフの小娘よりよほどやるではないか』

「……貴方は一体何者ですか?」


 北見さんが使えなくなった短剣を捨てる。

 どうするのかと思えば、予備の短剣を取り出していた。

 服に隠していたらしい。


 北見さんの質問に、男は少し考える仕草をする。


『良かろう。私をここまで追い詰めたのだ。褒美に少し話してやろう。私は⬛️⬛️⬛️⬛️。あぁ、そういえばお前たちはこの言語を理解できないのであったな。ニンゲンの言葉ではなんといったか、そう天使だ。お前たちは私をそう呼んでいる』


 自らを天使、と男は名乗った。


「天使って、あの天使ですか?」


 北見さんも同様の疑問を持ったらしい。

 天使というより、悪魔と名乗った方が信憑性がある。


『何と比べているかは知らぬが、お前たちニンゲンが信仰する紛い物の神ではなく、真なる神に私は仕えているのだ。そして愚かしくも神の眷属を封印したこの地に私は訪れ、そして封印を解いたのだよ』

「その封印を解けば、どうなるんですか?」

『真なる神の眷属は既に目覚めている。この地を始め、やがて世界の全てを呑みこむだろう』


 さっきの地震は、封印が解かれたからか。

 その時、また地震が起きた。

 今度は立っていられない程の大きさだ。


 俺たちは膝をついてバランスを保とうとする。

 男はその揺れの中でも平然としていた。


『――残念だが時間切れのようだ。さぁ、この世界に終わりを齎す真なる神の眷属を拝みながら死ぬがいい』


 地震は続いている。

 男は両手と翼を広げ、飛び上がっていく。


 大穴から何かが浮かび上がってきた。

 それは大穴にすっぽりと嵌まる大きさの、巨大な()()状の何か。

 暗闇の中で光を発しているそれは、見覚えがあった。


「あれは()()()……?」


 北見さんの呟く。

 そう、あれは間違いなく迷宮核だ。


 これが、真なる神とやらの眷属だっていうのか?

 なら俺たちの世界に現れる迷宮核は――。


 その思考の続きは、神の眷属が発した光と熱に包まれ消えていった。



  【スキル:⬛️⬛️が発動しました】


 ――――――


 「――避けなさい!!」


 突然聞こえてきた声に、俺の意識が再び戻る。

 唐突だが、これも3回目。

 俺は言葉に従い避けると、俺を追いかけてきたドレッド・ドライヘッドへ向けてアリシアさんが光を発する。

 強烈な光に晒されたはドレッド・ドライヘッドは驚き、逃げ出す。


「ふぅ、効いてよかったわ。……それで、貴方は何者なのかしら?」


 ――俺は再びアリシアさんと出会った。


 俺は今回も漂流者だと名乗った。

 船が大破し、流れ着いたのだと。

 船にはもう一人おり、その人も流れ着いているかもしれない。


「……やはり結界に何か起きているようね。人間の国から二人もこの島に来てしまうなんて」


 理路整然とした、落ち着いた説明にアリシアさんが納得する。

 この島を囲う結界は、ドレッド・ドライヘッドがいる時点で機能していない事が分かっている。

 そこを突いたのだ。


「だったらそのもう一人を見つけてさっさとこの島を出るべきよ。人間はこの島に立ち入ってはいけないのだから」


 そうしたいのも山々だが、そうはいかない。

 船がないと帰れないと伝えると、アリシアさんは困ったような顔をする。

 前回、他のエルフがいるところまでかなり遠いという話を聞いているからな。

 

 だが困らせるだけではだめだ。

 数日あれば、簡単な船を造れると伝える。

 その為の伐採の許可と、数日の滞在の許可を取る。

 これぐらいなら許してくれるだろう。


「……仕方ないわね。その代わり、自分の身は自分で守って頂戴。またあの魔物に襲われても知らないんだからね」


 ふむ。

 前よりも好印象な感じがする。

 やはり人間素直が一番だ。


 全部嘘だけど。


 アリシアさんに自己紹介をする。

 そういえば、これまでに一度も名乗った覚えがなかったな。

 

「クドォ、変な響きね。私はアリシアよ」


 変な伝わり方をした気がする。

 まぁいい。

 アリシアさんに、仲間を探さないといけない事を伝えると、島の中央に行く用事があるからとそこまでなら一緒に行ってくれることになった。

 

 

 

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