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22話



 

 アリシアさんの遺体を埋めた後、俺は周囲を見渡す。

 今回、俺たちに不信感を持ったアリシアさんはこの周囲に夜の間、結界を張ると言っていた。

 結界は外からの干渉を阻むもので、俺たちはもちろん魔物も中に入って来れないとの話だった。

 だから俺は今回も俺が狙われると思っていた。

 だが実際には、結界の中にいたアリシアさんが襲われた。

 結界自体に効果がなかった可能性もあるが、そこまでは考えても無駄だろう。


 俺は大穴に近づく。

 以前と変わらず、大穴の周囲には幾つかの柱と、それを囲うように紐が張られている。

 紐は劣化が進んでいるが、そう簡単に切れる様子もない。

 柱自体も同様に劣化はみられるが壊れる様子は無い。

 俺は大穴の中を覗き込んでみる。

 うーん。

 真っ暗で何も見えないな。


 ……良く考えればここに飛び込むなんてどうかしてるな。

 最初にここを飛び降りた探索者はイカれてるな。


「やっぱりあの魔物の仕業でしょうか」


 北見さんが話しかけてくる。

 あの魔物とは、ドレッド・ドライヘッドの事だろう。

 北見さんにあの黒いやつの事をどう説明するべきか。

 ……とりあえずはドレッド・ドライヘッドのせいにしとくか。


「あの子はこの封印? ってのをどうにかしようとしてたんですよね。このままで大丈夫なのでしょうか?」


 うーん。

 ダメかもしれないけど、俺ではどうにもならないからな。

 この際ここは放置で、俺たちは出来るだけ情報を集めよう。


 俺たちはドレッド・ドライヘッドに気をつけながら森の中の調査を進めた。

 やはりあの魔物はかなり暴れ回っているらしく、道中魔物に襲われることもなかったが、特に進展もなかった。


 その日の夜。

 昨日から起き続けの俺が最初に休み、少し多めに休んで4時間後に交代する事にした。

 場所は砂浜の近くなのは変わらない。

 あそこが魔物に襲われないという保証がなくなったからな。

 

 4時間の睡眠とはいえ、寝るのと寝ないのでは大きく違う。

 すっきりと目覚めた俺と入れ替わりに北見さんが休んだ。

 その日の夜も、特に何も起きなかった。



 ――――


 翌日。

 俺たちは再び大穴に来ていた。

 島の中央にあるこの場所は、調査を開始するのに便利だからだ。


「あれを見てください!」


 大穴に来てすぐ、北見さんが声を上げる。

 指を指す方向を見れば、大穴の周囲の柱が数本折れていたのだ。

 柱の数は全部で13本。

 そのうち2本が折れている。

 もちろん、劣化があったとはいえ1日で折れる強度ではなかった事は昨日確認した。


 つまりこれは誰かに折られたのだ。

 その誰かとは、多分あの黒いやつだろう。

 やつの目的はこの柱の破壊、もとい封印を解く事だろう。


 その時、俺は足元に振動を感じた。

 地面が揺れ動く振動は断続的に、どんどん強くなっていく。


 俺は慌てて北見さんを引き寄せ、森の中に入っていった。


「――っ」


 驚く北見さんだが、少し離れた場所から大穴を確認して、息を呑む。

 地面の揺れが強くなるにつれ姿を見せたのは、あの3つ首の恐竜――ドレッド・ドライヘッドだった。

 それが大穴の付近に現れ、3つの首をそれぞれ動かして周囲を見渡している。


「あれが……ドレッド・ドライヘッド」


 足跡だけで姿を見た事なかった北見さんが驚いているのが分かる。

 あの巨体は圧巻だからな。

 とてもどうにかなるとは思えない大きさだ。


 これであそこが魔物を引き寄せないという話がなくなったな。

 あるいは、柱が壊されたからか?


 ドレッド・ドライヘッドは、ひとしきり周囲を見渡した後にまた森の中に消えていった。


 俺たちは安堵の息を吐く。


「アレにあの子が襲われたんですね……。私たちが無理にでもあの場に残っていれば……」


 北見さんはそういうが、エルフと人間の確執は深そうだった。

 俺たちがこの世界の人間ではないとはいえ、どうにかなる問題じゃないからな。

 仕方ないと割り切るしかない。


 この日はこれ以上の調査も出来ず、砂浜の近くで過ごすことになった。


 異変が起きたのは、その日の夜だった。


 ――――


 夜。

 俺が最初に見張りをし、北見さんが休んでいた時にソレは起きた。

 大地を揺るがす振動。

 地震と言えるほどの揺れで北見さんも目を覚まし飛び出してきた。


「地震でしょうか?!」


 そうだと思いたいが、恐らく違う。

 俺は北見さんを連れて大穴まで走った。

 地面の揺れは大穴に近づくほどに強くなる。

 探索者の肉体じゃなければ立っていられなさそうな振動だ。

 それでも何とか大穴にまで辿り着く。


 暗くて良く見えないが、大穴の前に何かいるのが分かった。

 周囲の暗闇より、より黒い何かがそこにいるので浮いて見えるのだ。

 その時、スっと振動が収まる。

 さっきまで揺れてたせいでまだ揺れてる感覚がする。


 【スキル:平衡感覚強化を手に入れました】


 都合よくスキルが手に入り、普段の状態に戻る。

 俺は大穴へ近づく。


「――」


 黒い何かが振り向いたのが分かった。

 目も口もないが、何となくそう思ったのだ。


『⬛️⬛️⬛️⬛️』


 それは言葉ではなく音だった。

 俺に理解できない音の羅列だが、響きは聞き覚えがある。

 アリシアさんの魔術言語だ。


 『――――あぁ。ニンゲンはこれを理解出来ないのだったな』


 っ!

 今度は確かに聞き取った。

 ノイズのような響きが混じっているが、通じる言葉だ。

 こいつ、会話出来るのか。


 『なぜニンゲンがこの場にいるか知らぬが、疾く去るがいい。エルフの巫女亡き今、貴様らに出来ることは無い』


 エルフの巫女――アリシアさんか?

 しかし、去れと言われてはいそうですかとは行かない。

 俺は剣を抜刀する。


「――すいませんお待たせしました!」


 このタイミングで北見さんが合流する。

 北見さんも、あの黒い何かを見て驚く。

 だが俺が剣を抜いている状況から、敵だと判断し短剣を抜く。


「あれは何ですか?!」


 さぁ、俺が知りたい。


 『愚かなニンゲンよ。世界の終わりより先に死を選ぶか』


 黒い何かが、ぐにゃりと形を変える。

 周囲の闇より濃い黒は徐々に形を整える。

 人に近い手足を、顔を形作り、そして完全に人型になった。


 白髪の険しい顔つきな男。

 だがそれが人とは違うのは、その背には黒い一対の翼があり、頭部には二本の角があった。


 『貴様らの世界が終わる前の余興だ。依り代ではなく我が真の姿で相手してやろう』


 その瞬間、俺は古代鬼と戦った時を思い出した。


 ――【スキル:不撓不屈】【スキル:筋力増加】【スキル:鷹の目】【スキル:思考加速】【スキル:多重思考】【スキル:幻身(ファントム)】。


 複数のスキルの同時発動。

 瞬間的に俺の視界から黒すら消え去り薄い灰色に染まり、全てがゆっくりと流れ始める。

 同時に、絶句した。


 ――俺の目の前に、突き手の形で胸を貫こうとする男の姿があった。

 とんでもなく早いな。


 だが回避はしない。

 既に手遅れではあるが、【スキル:幻身】により1度だけ物理的な攻撃を無効にできる。

 そしてこの距離なら、あれが使える。


 ――【剣術スキル:零距離逆殺(ブレイクカウンター)】。


 男の手の先が俺の胸に触れた瞬間――俺のスキルが発動する。

 スキルによって最適化された、いわば必然の一撃。

 かつて、古代鬼相手にも通用した一撃だ。


『――っ』


 しかし、必然のはずの一撃は宙を斬るに留まる。

 ――まじか。


 目の前にいたはずの男が、後方へ跳んでいるのが見える。

 だがまだ俺の発動させたスキルは切れていない。


 ――【スキル:韋駄天】。


 脚力を一時的に強化させるスキルで俺は男との距離を詰める。

 同時に、【剣術スキル:連撃斬】を発動。

 右斜め上からの斬り下ろし――金属音を叩きつけるような音が響かせながら、男の腕に弾かれる。

【剣術スキル:連撃斬】は始動を止められるとスキルの発動が止まってしまう。

 

 ――構うものか。

【スキル:筋力強化】で強化された膂力を以って、無理矢理に姿勢を戻しスキルを変更する。

 全身の骨が軋むような音が耳の奥に響く。

 それでも、俺は止まらない。


 ――【剣術スキル:金剛斬】。


 打ちあがった剣を、渾身の力で振り下ろす。

 男はこれも避けようとするが、既に間に合わない。


「ぉぉおおおお!!!」


【剣術スキル:金剛斬】は単純な振り下ろし技だが、威力は絶大だ。

 名前の通りに金剛(ダイヤモンド)を斬れるかはさておき、出来るのではないかと思わせるだけの威力がある。

 それに加え【スキル:筋力増加】によって威力を底上げしている。


 これに対し、男は片腕で防ごうとして――寸前で両腕で受け止める。


 おおよそ人の形をしているものを斬りつけたとは思えない衝撃音を周囲に轟く。

 受け止めた男の足が地面に陥没し、さっきまで余裕の表情を崩さなかった男の顔に苦悶の表情が浮かんでいるのが見えた。


 ――だが斬れていない。


 渾身の力を込めた一撃も、男を両断するには足りなかった。

 俺の剣は男の交差した腕に止められる。

 だが無傷とはいかないようで、男の腕に細かい罅のようなものが入っているのが見えた。


 スッと、波が引くように視界に色が戻る。

 俺は思わず笑ってしまった。


『――何を』


 その後ろに短剣を構えている、北見さんの姿があったのだから。

 北見さんが短剣を二本、交差させるように、獣が牙を突き立てるようにスキルを発動させた。


「――【短剣スキル:双狼王牙】!」

 

 男が振り向く暇すらないほどの一閃が、その背を斬り裂いた。

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