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20話


 早速封印の儀式、というわけにはいかないらしい。

 手順があるそうだ。

 そのために、必要な物を森の中から集める必要があった。

 幸いな事に、儀式に使うものは全部森の中にあるらしい。


「あの魔物に襲われなければすぐに集まるわ。でも今日は少し休みましょう」


 気づけば、日が傾きかけていた。


 ……何だか不思議な気分だ。

 異界化迷宮の中では、昼夜の概念がない。

 だがここでは日が落ち、昇る。

 ここが異界化迷宮の中ではない事を改めて理解する。

 北見さんも俺と同様の意見のようで、なんとも言えない顔をしていた。


 野営の準備をする。

 場所は封印のおかげで魔物が近寄らないという大穴の近くだ。

 俺は持ってきた荷物からテントを取り出した。

 ちなみに、やり方は知らないので北見さんに任せた。


「へぇ、人間の野営ってそうするのね」


 その様子をアリシアさんが興味深そうに見ていた。

 エルフはどうするのか聞けば、突然床に手を当てだした。


「⬛️⬛️⬛️⬛️」


 理解出来ない言葉を発した後、アリシアさんの目の前の土が隆起して四角い形を取る。

 ――これは、小屋だ。

 人ひとりが入っても十分に余裕のある大きさだ。


「凄い……、これもスキルなのかしら?」


 その様子を見ていた北見さんも土で出来た小屋に興味津々だ。

 俺も気になるので確認する。


「スキルじゃないわ。魔術よ。正確には精霊魔術ね」


 魔術。

 俺のスキルの中に、【魔法スキル】というものがある。

 魔術と魔法は違うのだろうか?


「あぁ、そういえば人間は魔術言語を認識できないから使えないのよね。聞いた事があるわ」


 若干憐れみを含んだ目を向けられる。

 多分こっちの世界の人間の事だろうが、そうなると魔術は人間以外にしか使えないのか。

 では人間が使えるのが魔法という事か?


「少し違うわ。人間が使えるのは【魔法スキル】よ。魔法は本来、神の力。それをスキルとして与えられているだけだわ。その点魔術は研究と研鑽の積み重ねよ。与えられているスキルに甘えている人間とは違うのよ」


 スキルは神が与えたモノか。

 俺たちの世界では、探索者になればスキルは勝手に生えてくるものみたいな扱いだ。

 その違いは信仰の違いか?

 あるいは本当に神なんてものがいるのだろうか。


 話が複雑になりそうなので切り上げる。

 あっ、そうだ。

 こんな立派な小屋があるなら、北見さんも入れてあげてくれないだろうか。

 聞いてみよう。


「人間と一緒に寝るなんて嫌よ」


 断られた。

 この世界では人間とエルフはよほど仲が悪いらしいな。

 仕方ないか。


 北見さんに、これは魔術だと伝えた。

 凄く気になっていたようだが、会話が出来ないので残念そうだ。


 そして夜。

 簡単な食事を済ませた後、アリシアさんは魔術で作った小屋で休み、俺と北見さんは交代で焚火をしながら見張りをすることにした。

 3時間交代だ。

 

 虫の声すら聞こえない静寂の中、焚火の音だけが聞こえてくる。

 俺は空を見上げる。

 星の並びに興味はないが、絶景といえる光景だった。

 星々が煌めき、夜だというのに少し明るい。

 文字通り、地球では見られない景色だ。


 見張りの退屈な時間を外を眺めて過ごしていると、急に何かの気配を感じ俺は周囲の警戒を行う。

 【スキル:索敵】を使いたいが、このスキルは敵対的な存在を全て表示する。

 この敵対的、というのはこちらを襲うつもりではなく、友好ではないという判定らしく、虫にも反応してしまう。

 こんな森の中で使えば頭がパンクしてしまう。

 以外と使いどころがないのだ。

 何なら、前の方が便利だったまである。


 視界の利かない暗闇を注視する。

 北見さんたちを起こすべきか?

 いやまだ確信がない。

 気配がする程度で起こしていてはキリがないだろう。


 沈黙の中、周囲を見渡す。

 異変は見当たらない。

 だが、何かがいる。

 何かが動いている気配がするのだ。

 だがウッドモンキーやマッドモンキーの姿が見えないとは違う。

 もっと知性的に、俺の意識外へ移動している。


 一瞬、雲に遮られ月が隠れる。

 焚火の明かりだけが照らす中、俺は見た。


 高速で俺の視界外へ移動する、地面の黒いシミのようなもの。

 それは影から影へと移動し、俺に近づいてくる。


 ――――っ!


 俺は慌てて焚火を消そうとする。

 陰から影へと移動するのなら、焚火の明かりに照らされた俺の影にも――。


 振り向いた時、俺は胸に鋭い痛みを覚えた。

 頭がそれを確かめようと下を向く。

 その胸に刺さっていたのは、黒い鋭利な棘のようなものだった。


 ――くそっ。


 視界が急速に暗くなっていく。

 北見さん達に教えないといけないのに、もう声も出せない。


 致命傷だ。

 せめて、と俺は俺を殺そうとしたやつの顔をみようとする。


 その顔は黒く、焚火の明かりの近くにあって何も映っていなかった。

 黒い塊そのものだ。


【スキル:鑑定】。


 その黒い何かに使った瞬間、バチッと弾かれた感覚があった。

 ――俺の胸に刺さっていた棘状の物体が引き抜かれる。


 そして――。




 【スキル:⬛️⬛️が発動しました】




 ――――


「――避けなさい!!」


 突然聞こえてきた声に、俺の意識が戻る。

 途端、俺の体はバランスを崩し、地面を転がった。


「ちょ、ちょっといきなり何よ! あぁもう! ⬛️⬛️⬛️⬛️」


 転がる途中、俺は緑髪の美しい少女があのドレッド・ドライヘッドに向かって光を放ったのを見た。


 ――これは、まさか。


 ドレッド・ドライヘッドが光に怯え、去っていった。

 緑髪の美しい少女が転んだ状態で立ち上がらない俺に近づいてくる。


「どうしていきなり転んだりするのよ! というか、どうして人間がここにいるの! 貴方は一体何者なの」


 放心する俺に、捲し立てる()()()()()()


 ――間違いない。


 俺はまた、戻っている。

 


 

 

 

 

 


 

 


 

 

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