19話
北見さんへの説明は困難を極めたと言っておこう。
俺の口下手というか、説明下手が主な理由だが、北見さんは頭がいいようで、何となくでなんとか理解してくれた。
その要因に少女――アリシアさんの存在があった。
中層へ入った後の現象と、上層であったはずのこの場の環境の変化。
現地人類の存在。
俺たちは今、異界化迷宮の中ではなく異世界にいるのだと思う。
「こんな事が起こるなんて聞いたことがありますか?」
北見さんの質問に首を振る。
三等級異界化迷宮には、何度か調査の手が入っている。
その過程でこのような現象が起きれば問題にならないはずがないのだ。
今は情報が少ないので原因の究明や、元の世界への戻り方は後回しにする。
それよりも、と俺は北見さんの状況を聞くことにした。
「中層へ入った瞬間、強い目眩がして気づいたら森の中に放り出されていました。多分、魔物の巣か何かだと思います。でも何かが暴れた痕跡があって、そこに魔物はいませんでした。それで森を彷徨って私たちが一度通った道を見つけたので、それを辿って中層の入り口まで来れました」
なるほど。
俺とは違いウッドモンキーの巣の近くとは運が悪かったが無事で良かった。
魔物がいなかった理由は、ドレッド・ドライヘッドのせいだろう。
あれのせいでこの島の中の魔物が食いつくされかけているらしいからな。
「ここが異世界、だとしてどうやって戻ればいいんでしょうか?」
俺にも分からない。
中層への入り口は魔物の封印とやらに変わってしまっている。
望みを賭けて飛び降りてみるのも手かもしれないが、今は止めておこう。
北見さんと意見を交わしていると、アリシアさんが話しかけてきた。
「――封印が緩んでいるわ」
俺たちは会話を止める。
それはつまり、不味い状況なのか?
「今すぐどうこうというほど、簡単な封印ではないわ。でもこれは、人為的なものよ」
アリシアさんの目に、敵意が宿ったのが分かった。
封印の緩みに俺たちが関係していると疑っている。
もちろん知らない事だが、それを証明する手段がない。
……人為的な封印の緩み?
これが迷宮核によるものでないのならば、それが人為的であるというのならばこの場に俺と北見さん、アリシアさん以外の存在が示唆された事になる。
俺たちの世界にあった異界化迷宮で起きた異変、異世界にある魔物の封印、本来この島にいるはずのなかったドレッド・ドライヘッドの存在。
まさかいるのか……?
迷宮核にすら干渉出来る存在が。
「弁明もするつもりもないのかしら?」
黙って思考していたせいで、アリシアさんの疑念を含めてしまった。
慌てて弁明する。
北見さんは【スキル:多言語理解】を手に入れていないので会話に入れないのが辛いところだ。
他人に説明するというのが苦手なのだ。
特に、俺たち以外の第三者の存在を強調して説明しておく。
「……分かった。今は何も証拠がないわ」
良かった。
どうやら俺の必死な弁明が通じてくれたらしい。
置いていかれていた北見さんに、アリシアさんがこちらを疑っている事、今起きている事を伝える。
「封印、ですか。正直、私の理解を超えている状況です」
それは全く同感だ。
俺はアリシアさんに、封印がいつまでもつのか、これからどうするのかを聞いた。
「封印は数日程度ならどうにもならないわ。でも封印が貴方たち以外の手によるものだとすればそれほど猶予もないかもしれないわ。即刻に封印の綻びを直す儀式をする必要があるわ」
なら俺たちも協力しよう。
北見さんにも確認を取ると、了承してくれた。
「……分かったわ。儀式の間、私は無防備になる。本来この場所は封印のおかげで魔物が近寄らないのだけれど、今はどうなるか分からないわ。特にあの魔物はね。その間、私を守ってちょうだい」
ドレッド・ドライヘッドが襲ってくる可能性があるのか。
正直、あれはどうにか出来そうにない。
特に体格差が問題だ。
俺とドレッド・ドライヘッドでは大きさが違いすぎる。
古代鬼ともまともな戦いになった訳ではないが、それよりも厄介かもしれない。
しかし今更無理とも言えず、了承した。




