第92話:代々続く家系のトラウマ
戻ってきた璻を藤宮は見つけると声をかけた。
「あっ、璻さん次こっち手伝ってもらえますか?」
藤宮は手招きをしながら、璻に呼びかけた。
藤宮を見るとかき集めた落ち葉を大きな熊手で動かしている途中に見えた。落ち葉の量は先程見た量から半分は無くなっていた。近くには小さな落ち葉を溜める場所が見えていた。そこに落ち葉を動かしているように思える。
璻は藤宮に問いかけた。
「何しているんですか?」
藤宮はふぅ〜と一息出すと璻の問いかけに応えた。
「ああ、この落ち葉は米ぬかを巻いて土を被せると微生物が働いて肥料になるんですよ。今じゃ滅多に肥料は高額で手に入りませんからね。これは発酵させてそしじぃの畑で使うんですよ」
そういうと藤宮は肌色の粉が入った袋を璻に渡した。
「なんですか?これ」
藤宮は残った落ち葉を移動させながら璻に指示を出した。
「これ移動させたら、その袋に入っている米ぬかを落ち葉に撒いてください」
そういうと藤宮は落ち葉を全て移動させ、熊手で平らに整えると地面に落ちている木の枝を広い落ち葉の上に起き始めた。藤宮は璻に声をかける
「はい、終わったので今持っている米ぬかを全部撒いてください。終わったら土かけるので」
そういうと璻は藤宮の言う通り米ぬかを土にかけた。璻は手でさぁーと米ぬかを全てかけ終わると藤宮は土を落ち葉の上にかけ始めた。
璻はその様子をじっと見つめ藤宮に話しかけた。
「なんか無駄がないですね。都会にいたら捨てるものしかないのにここにいると全部循環しているから」
藤宮は璻の問いかけに答える
「これが本来のあり方ですよ。捨てる物が1ミリもない全ては循環をしていますからね。今までがおかしかったんです」
藤宮の発言はごもっともに感じる。捨てる物を活用して自然に返す資本主義社会が崩壊してからその考え方が定着していた。璻はそれをこの田舎に来てありありと感じていた。
璻は藤宮を見ながらある事を思い出し唐突に質問をする。
「そういえば……藤宮さん、穂積さんのお兄さんとは面識ありましたか?」
唐突な璻の質問に藤宮は作業の手が止まるとぎこちなく璻の顔を見て応える。
「鏡夜さんの事ですか?」
藤宮は少し止まると続けて璻に質問をする
「それ以外に何があるんです」
藤宮は手を動かしながら渋々質問に応えていた。
「あー正直いうとですね。鏡夜さんはどちらかというと俺苦手でしたね。あと鏡夜さんとあまり接点がありませんでしたし、俺より皇の方が昔から仲が良かったです。鏡夜さんは正論を叩きつける直球タイプなので、俺はたまに詰められていましたね…」
藤宮は顔を引き攣らせながら応えていた。思った以上に穂積鏡夜が苦手なんだと感じる。しかし藤宮の回答は璻にとっては以外に聞こえた。
……水流士は全員顔見知りで仲がいいと思ってたけど、そうじゃないのか……
「てっきり藤宮さんは誰とでも仲がいいと思っていました」
藤宮は少し笑うと璻の質問を返した。
「全員仲良いわけじゃないですよ」
藤宮は苦笑いをしながら応えていた。人間には向き不向きがあるから当たり前だろうけど璻からして見てみれば藤宮の回答は意外に聞こえた。
璻は藤宮に質問をする。
「ふーん。あともう一つお聞きしたいのですが……」
藤宮は不思議そうな顔をして応える
「はい。なんです?」
璻は続けて質問をする
「その堆肥は土をかけたらおわりですか?」
藤宮は璻の質問に応える
「あーこれ上からシートかけて発酵させるんですよ。璻さんの横にあるシートかけてもらえますか?」
璻はパッと左右を見ると黒いシートが見えた
……いつのまに……
璻はシートを広げ始めると藤宮は璻の元に駆け寄りシートの端を持つと広げた落ち葉の上にかけ始めた。
藤宮がシートの端にそれぞれ大きな石を置くと璻に声をかけた
「終わりましたね。熊手と竹箒を一緒に小屋に持って行くので手伝ってください」
藤宮が地面に落ちている熊手と竹箒を拾うと璻に熊手を渡し歩き始める。璻は藤宮から熊手を受け取ると藤宮に話しかけた。
「そういえば、これ終わって片づけたらログハウス片付けてその後の事は聞いてますか?」
藤宮は璻の質問に応える。
「とりあえず、ログハウスの掃除を終わらせてから明日の環境業務の会議後、夜ご飯で今日の業務終了ですね」
少し歩くと小屋につき藤宮は小屋のドアを開けると竹箒を入れ、璻も自分で持っていた熊手を小屋にいれ小屋のドアを閉めた。藤宮と璻はログハウスに向かう。藤宮がログハウスのドアを開けると新埜が書類を持ってこちらに向かって歩いてくるのが見える。
新埜は藤宮に話しかける。
「藤宮くん、掃除ある程度終わりましたよ。一様部屋を確認して問題なければこちらで鍵を預かります」
藤宮は新埜の問いかけに応える
「ありがとうございます。一旦確認するので2人ともここで少々お待ちを」
璻は「はい」と返事をすると藤宮は部屋を回り始めた。璻は少し気まずそうにすると新埜に話しかける。
「あのっ……新埜さん穂積さんは??」
新埜は璻の質問に応える
「穂積さんはゴミ出しに行ってます。もうすぐ帰ってこられるかと」
璻は少し俯くと「そうですか」と応えた。沈黙が続き気まずい雰囲気が流れる。璻は新埜と何を話せばいいかわからなかった。
璻は新埜をじっと見つめ質問をする
「新埜さんって穂積さんのお兄さんと仲がよかったんですか?」
璻のまさかの質問に新埜はえっ…と少し固まると気まずそうに応えた。
「普通でしたね。龍後さんは穂積さんから色々聞いています?穂積さんの家庭の話とか……」
璻は新埜の質問に応える
「いえ、全然……お兄さんがいるって話は皆さんのやりとりを見て初めて知りました」
新埜はううんと悩むと璻に応える
「そうですか。ちょこっと説明すると穂積さんの家庭は複雑で、穂積さんの母親には元々別の男性と出来た息子がいてバツイチだったんですよ。穂積さんの父親はそれを了承して結婚したんですが穂積さんが産まれて以降、穂積さんの父親がだんだんと息子を毛嫌いするようになってしまったという感じでしょうか?」
璻は穂積の生い立ちを知りなんとなく納得してしまった。自分の思い通りの息子じゃなかった穂積の父親は息子をいなかった事にし、父親が理想の娘になるように教育し期待をした。そんなところだろうか。
璻は新埜の話を冷静に質問する。
「その息子さんが今の鏡夜さんだと?」
新埜は頷きながら応える
「そうです。穂積さんの家は代々続く八咫烏の家系ですからね…日本の歴史から考えると咫烏の一族は因縁が深いですよ」
新埜はまるで穂積家にも因縁があるように聞こえる。古い歴史的な家柄だから余計に深いトラウマがあるようにも思えた。そう思うと家庭の事情は複雑に感じる。
「なんか……めっ……めんどくさい」
璻はボソッと呟くと璻の発言が思いもしなかったのか新埜は吹き出すように笑った。
「ははははぁっ……確かに!めんどくさいですね。いや〜龍後さん面白いですよ」
爆笑する新埜に対し璻は呆れた表情をした。
……今の発言で何が面白いんだろうか?いやだって明らかにめんどくさいじゃん……
新埜は璻の顔を見ながら応える
「だからこそ、そういう家系の忌まわしい歴史を終わらせるために我々は生きてたりするんですよ」
新埜の言い回しは少し不自然に聞こえる。璻は思わず新埜に問いかけた。
「それはどういう意味ですか……」
新埜は璻の質問に応え始める。
「大概の人は家系のトラウマを解消するために今世、生きている人がほとんどです。それぞれ継いできたトラウマに終止符を打ち終了して次へ繋いでいくという感じでしょうか」
璻は新埜の言葉を聞き少し考えるとまた質問をした。
「そういう人はトラウマ?が終わったらどうなるんですか?」
新埜は璻の質問に淡々と応える。
「トラウマという課題が終わるだけになりますね。あとは今世、自由になりますね」
璻は新埜の言葉を深く考えた事がなかった。藤宮とは違う考え方の視点に驚きつつ、課題と言われるとなんとなく気が重く感じていた。
「学校みたいな感じですね……」
璻の様子を見ながら新埜はニコッと笑い言葉をかけた。
「課題が終わらないとまた人生やり直ししなきゃいけないですし、人生はあっという間に終わりますから。その人が出来る課題しか任されないそんな所ですよ。試練が多く内的感覚が鋭い人の人生ほど色んな経験が出来るのでそれが生きている醍醐味でもありますね。それを鏡夜くんにもわかってほしかったのですが…鏡夜くん自身なかなか理解することが難しかったのかもしれませんね……」
新埜は寂しそうに語っていた。
……そっか、新埜さんはずっと鏡夜さんの事を過去のトラウマに負けず乗り越えられるって信じて見守っていたのか……
新埜の寂しさがなんとなく璻にも伝わっていた。
そんな話をしていると璻の背後からドアがガチャっと開く音がした。
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・複雑な穂積家
穂積家の家系は思った以上に複雑でした。それは穂積兎鏡が一番理解していています。穂積兎鏡は根底に誰に言っても理解されないという考えが常にあることからあまり他人に家族の話をしないようにしています。
・自分の思い通りの息子じゃなかった穂積の父親は息子をいなかった事にし、理想の娘になるように教育し期待をした。
結局、血の繋がっていない息子を受け入れられなかった穂積の父親はその分娘の穂積兎鏡に愛情を注ぐことになりますが、兎鏡はそれに耐えられず深いトラウマになっています。
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