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水流士-因子を解く-  作者: 小野里
- 新人研修編 -

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第90話:他人に感情を投影する

 


 新埜(しんの)は三人を見ながら自身が記載した報告書を確認し、静かに頷くと指示を出した。


「さて……これで依頼者の聞き取りは終わります。報告書はこちらで記載いたしますのでログハウスの掃除が終わり次第、宿舎に戻りましょうか?それから穂積さん2つほど質問よろしいですか」


 藤宮は席を立つと新埜(しんの)に声をかける


「吟さん、ログハウスを璻さんと2人で掃除してもよろしいでしょうか?その方が早く終わりますし」


 新埜(しんの)は藤宮と璻に声をかけた。


「はい。よろしくお願いします」


 藤宮は璻に声をかける


「では、璻さん行きましょうか?」



 璻は頷き「はい」と返事をすると席を離れた。


 穂積は新埜(しんの)の呼びかけに辿々しく応えた


「あっ……あのしっ質問とはなんでしょうか」


 新埜(しんの)はじっと穂積を見つめ質問を始めた。


「鏡夜くんがいなくなった時に穂積さんの実家に連絡はありましたか?」


 新埜(しんの)の口からまさか鏡夜の話題が出るとは思っても見なかった。心臓がギュッと締め付けられる感覚を感じる。穂積はゆっくりと口を開き新埜(しんの)の質問に応えた。


「いい……いえ、鏡兄は滅多に帰らない人でした。一族とも仲が悪かったし、私が知る限り連絡はなかったとお…思います」


 新埜(しんの)は穂積に質問をする


「そうですか。では失踪したあとあなたは鏡夜くんが石屋側にいるという情報をご存知でしたか?」


 穂積は新埜(しんの)の言葉を聞き、少し焦りながら応えた。


「ううう、噂は家族から聞いていました。そそそれに私の所に見覚えのないアドレスから連絡が来て『穂積鏡夜は脳ストック研究所にいる』とそのメッセだけ送られてきたことがあって……そっそれが1年前の話だったと思います」


 新埜(しんの)は少し驚きながら穂積に質問をした


「その1年前のアドレスとデータ残っていますか?」


 穂積は深く頷きながら新埜(しんの)の質問に応えた。


「えええーと、さささ探せば……あると思います」


 新埜(しんの)は少し考え込んだ表情をすると穂積に対し言葉をかけた。


「では、探してデータがまだあれば提出をお願いします。データがなければ、獅子子さんに伝えて頂いて構いません」


 穂積は頷きながら応えた。


「はっ……はい。承知しました」


 返事をした穂積に対し新埜(しんの)は穂積に優しく声をかけた。


「ともかく穂積さん、鏡夜くんが生きててよかったですね」


 新埜(しんの)の優しい声がけに穂積は驚くような顔をした。穂積はずっと鏡夜が失踪してからもしかしたら亡くなってしまったかもと思っていた。家族内では鏡夜はいないも同然だったのが突然失踪し大騒ぎ、一族は鏡夜に関しては相手に責められる前に謝れと一点張りだった。


 穂積はどうして新埜(しんの)がそういう質問をしたのか理解が出来なかった。普通に考えれば急に職場からいなくなった人間の親族が職場に就職したら嫌味の一つや二つ言われるというのが当たり前だと思っていた。


 穂積は新埜(しんの)に疑問を問いかけた。


「とっ……突然いなくなった兄を、親族を責めないんですか」


 穂積の質問に新埜(しんの)は不思議そうにしながら応えた。


「責める?なぜ自分があなたを責めなくてはならないんでしょうか?」


 新埜(しんの)の言葉に穂積は顔を上げ、新埜(しんの)をじっと見ていた。新埜(しんの)は続けて穂積に言葉をかけた。


「穂積さんが悪いと思った事は一度もありません。なぜご自身を責めるんでしょうか?それとも……ご自身を責める理由が欲しいのでしょうか」


 穂積は新埜(しんの)の言葉にドキッとする。新埜(しんの)の言葉が胸にグサッと刺さると同時になぜか不思議と怒りが込み上げてくる。


 ……私だって謝りたくて謝っているわけじゃないのに……


 新埜(しんの)は穂積に続けて言葉をかけた。


「彼と我々とは考え方の方針が違っただけです。自分の利益を追い求めるため鏡夜くんは旅立ってしまった。我々は長期的に見て調和する方へ考えていますから、その違いだけです。その選択がいい悪いではありませんよ」


 新埜(しんの)の言葉を聞きなぜか穂積は鏡夜の考え方を変えれなかったことに対し、自分自身を責めているような感覚に陥っていた。穂積は新埜(しんの)に頭を深く下げ誤った。



「ああ……兄がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 新埜(しんの)はなぜ穂積が謝っているのか理解出来ず穂積に疑問を問いかける。


「なぜあなたが謝るのでしょうか?自分はあなたに謝って欲しいと言った覚えはありませんし、あなたは何も悪くありませんが?」


 穂積は新埜(しんの)の問いに自信がなさそうにしながらとぼとぼと言葉を溢した。


「一様、私、血縁者なので……」


 穂積の言葉に耳を疑ってしまうと新埜(しんの)は呆れた表情をした。


 まるで鏡夜が犯罪者のごとく、一族から迷惑者を出したので謝らなければというわからない罪悪感が穂積の発する言葉から垣間見える気がした。穂積は顔を下げいかにも申し訳ない態度でいる事に新埜(しんの)は呆れながら穂積に問いかけた。


「いつまで戦後の思想を受け継いでいらっしゃっているんですか?一族の中で迷惑をかけた人が出たら、なぜ一族総出で謝るんでしょうか?戦後の日本の文化の中で一番根絶やしにしたいお家芸ですよ。謝る必要があるのは鏡夜くん本人だけのはず、それよりもあなたが今やるべき事は"なぜ今謝る選択をしたのか?"を考える事です。自分の心の癖を知り自分の能力を活かし続ける事が最重要事項になります」


 新埜(しんの)の言葉を穂積は深く考えていた。


 ……誤っていけなかった?なんで家族が迷惑をかけたら謝るのが普通じゃないの?……


 穂積は新埜(しんの)の問いかけに応える。


「いっ……一族から鏡兄の話が出たら、とりあえずあっ…誤りなさいと言われていたんです」


 新埜(しんの)は穂積に諭すように話す。


「家族が謝れと言って穂積さんは謝るんですか?家族の問題や感情を自分の問題のように投影している、それはあなた自身の問題ではないことに気づいていますか?」


 新埜(しんの)の言葉を聞き、穂積はハッとする。


 ……家族の問題は自分の事のように捉えていたけど、それは私の感情ではない?えっ……じゃあ今までなんで悩んでいたの?……


 新埜(しんの)は続けて穂積に言葉をかける。


「穂積さんの最初の謝罪はまるで『一番近くにいたのに鏡兄を救えなくてごめんなさい』に聞こえます。それだと謝る先が鏡夜くん本人になりますけど、意図はそうじゃありませんよね?」


 穂積は目を丸くしながら新埜(しんの)の話を聞いていた。


 ……確かに兄を変えれなかったのは私のせいだって思っていた……


 穂積は動揺しながら新埜(しんの)の質問に応える。


「ななななんで……なぜわかるんですか?」


 新埜(しんの)は少しニコッと笑うと穂積に言葉を返した。


「そりゃ…わかりますよ。穂積さんよりカウンセリングは自分の方が長いですし、それに昔、鏡夜くんと働いていた際、妹さんのことを嬉しそうによく話していましたよ」


 穂積は新埜(しんの)の言葉を聞き動揺すると思わず声が漏れ出た。


「えっ……」


 新埜(しんの)は淡々と続きを話した。


「だからこそ、余計に謝罪すべきではないのですよ。今の鏡夜くんの決断や尊厳をあなたが自分で踏み躙ってしまう事になります。どんなにのけ者にされてもあの一族の中で、唯一の理解者だったのは妹さんの穂積兎鏡さんあなただけだった。そう昔鏡夜くんは仰っていたからきっと鏡夜くんも大事に思っていたんですよ」



 穂積は新埜(しんの)の言葉を聞き胸がいっぱいになっていた。


 ……父も母も兄を毛嫌いし祖父母も無視をし続けていた。けど私は兄を嫌いではなかった。一族が嫌いだった兄はきっと私がもっと説得したり話せば一族と仲良くできると思っていた。それ自体が違っていたんだね……


 穂積は新埜(しんの)に言葉を返した。


「わっ……私はずっと兄が一族と仲良くして欲しいと思っていました。話せばきっと変わるかもと思っていました。それ自体が鏡兄に私の意見を押し付けてしまった。それが違っていたんですね」


 新埜(しんの)は真剣に応える。


「そうですね。鏡夜くんは不器用ですから言葉がいつも足りない事が多くありました。そこが親御さんたちはわかっていなかったんでしょうね。言葉は足りなくても今もきっと穂積さんを大切に思っている事は変わらないはずです」



 新埜(しんの)の言葉に穂積は問いかける


「しっ……新埜(しんの)さんも鏡兄の事大事に思っているんですね……」


 新埜(しんの)は少し照れながら、穂積の質問に応える。


「そうですね。自分は鏡夜くんのようなタイプは苦手ではないです。むしろ考えてすぎて言葉が出てこないタイプだったから余計に喜三郎さんも獅子子さんもそしじぃも鏡夜くんのようなタイプは必要だと思っていましたよ」



 穂積は新埜(しんの)の言葉を聞き、なぜか胸にポカポカと温かくなる感覚を感じる。


 鏡夜の顔を思い浮かべながら穂積は心の中でつぶやいた。


 ……鏡兄は一族から嫌われていたけど、職場の人たちには嫌われていなかった。あんまり仕事の話してくれないからわからなかったけど、必要とされていて、大切にされていたんだ……


 そう思うと穂積は目にいっぱいの涙を溜めながら新埜(しんの)の言葉に対して深く頷いた。


「きょ……鏡兄を大事に思ってくれてありがとうございます。いつもいつも独りぼっちだったから、ずっと寂しかったんじゃないかなってっ……」


 穂積が笑顔で涙を流しながら新埜(しんの)に対してお礼をいった。


 新埜(しんの)は軽く頷くと穂積にハンカチを差し出しながら言葉をかけた。


「独りぼっちじゃなかったですよ。我々はどんな辞め方をしても同僚自身の事や同僚の未来を大切に思う。このことは水流士にとって当たり前のことですから。これで涙を拭いて下さい」


 穂積は新埜(しんの)からハンカチを受け取ると涙を拭いていた。


 その頃、藤宮と璻はログハウスの外に出ていた。


 璻は藤宮に声をかける。


「あの藤宮さん、これ掃除するんですか」


 そう璻が問いかけ指を指した先を見ると以前の依頼者山田陽翔と焼き芋を焼いた落ち葉がなぜか片隅に置いやられているのが見える。


 道具も端に置いたまま放置されていた。


 

。:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。


・一族の中で迷惑をかけた人が出たら、一族総出で謝るんでしょうか?戦後の日本の文化の中で一番根絶やしにしたいお家芸ですよ

新埜(しんの)のこの言葉ですが日本人は集団意識(集団主義)が強いため、自分が悪いことをすれば一族総出で誤り気に食わない人が出てくれば集団でいじめるのが一般的になります。それがなぜできるのでしょうか?自分の意識や決断、感情を他人に強く委ねてしまうと穂積のような行動ができます。


・家族が謝れと言って穂積さんは謝るんですか?家族の問題や感情を自分の問題のように投影している、それはあなた自身の問題ではないことに気づいていますか。


これも新埜(しんの)の言葉になります。感受性が強い人は他人の問題を自分のことのように考えます。それは無意識の中で自分の問題と他人の問題を照らしあわせ自分の問題にしがちになります。穂積は特に感受性が強く働くので自分の問題のように考えていますが、実際は家族とはいえ、他人になります。この場合は自分と家族は全く違う人格で違う考え方なんだということを一番最初に受け入れることが大切になります。


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