第89話:内的感覚
璻は皇が出ていくのを遠目から見ていた
……なんだったんだろ。本当騒がしい人だ……
しかし、皇が仙人のような能力があったのは璻自身驚きの連続だった。
璻は新埜に問いかける。
「あの……素粒子化って、水流士の施術内容の方針と少し似ている気がするんですが……」
新埜は璻の疑問に応える
「はい。水流士の施術は素粒子化を簡単に一般向けに改良した物です。長らく一般の方は社会的な影響を強く受け今まで内的感覚に意識が向きずらい現状が続きました。だからこそ"自分の中に内在する目的意識"が戻るように構成しています。水流士ごとに施術は異なりますが大まかな目的意識は一緒ですね」
璻は頷きながら 新埜に話を返した。
「やっぱりそうだったんですね。私達のエゴが全て統合されれば人間は全員素粒子化できる可能性があるってことです?」
新埜はうううんと悩みながら璻の質問に応えた
「そうです。しかし……そこまで到達するまでに肉体が朽ち人生が先に終わる人もいますし、何もそこまでいけばいいという話ではありません。それぞれ人によって役割は違います。どんな出来事が起こっても自分を曲げず生まれた目的意識を明確に持ち果敢に挑戦し続ける事、それは我々も一般の方も同じです。さて……雑談はこのくらいにして。あいなのカウンセリング内容を聞かせていただきますかね?」
新埜はそう話を切り出すとなぜか藤宮はゆっくりとゆっくりと気づかれないようにその場を離れようとした。藤宮の不自然な行動を新埜は見逃さなかった。鋭い目つきで藤宮の姿を追いながら背を向けたどこかに行こうとする藤宮に声をかけた。
「藤宮くぅ〜ん?どこ行くんです?」
藤宮はおどおどしながら、新埜の質問に応える
「あのテーブルの片付けとハーブティーを入れ直そうかなぁ?と……吟さんも一杯どうですか?」
新埜はニコッと笑いながら藤宮の気遣いに応える
「お気遣いありがとうございます。ではハトムギ茶いただけますかね?いや〜藤宮くん逃げるのかと勘違いしてしまいましたよ。昔はよく都合が悪くなると逃げる"逃げの藤宮"って言われてましたし」
藤宮はバツが悪い顔をすると新埜に対して文句を言った
「お茶承知しました。吟さん、あのサラッと俺の悪口言わないで下さいよ……」
藤宮のいい方が気に食わなかったのか新埜は追撃するように言葉を返した。
「一応言いますけど藤宮くんが責任者なんですから、責任は取りましょうか?自分で責任は取ると諏訪くんから聞いていますよ。他責は通用しませんから」
藤宮はしゅんとした顔で深く頷き返事をした。
「はい……すいませんでした。とりあえず早くテーブル片付けます」
新埜は頷きながら藤宮に返事を返した
「はい。お願いします」
新埜は璻と穂積を見ると話を始める
「さて……カウンセリングの内容を聞かせてもらえますか?」
璻と穂積は深く頷いた。新埜は璻と穂積からカウンセリングでどういう話をしたかを細分化しつつ詳しい話を聞いた。どういう経緯で与瀬村が部屋を出て行ったのか、前後に何があったのかも全て話した。かれこれ、30分間は聞き取りが行われた。
テーブルを片付け終わったハトムギ茶を入れ藤宮もすぐ話に参加した。ハトムギ茶を全員に配り終えると藤宮が逃げないように新埜は椅子に座るように指示をした。それからさらに30分以上が経つ。
詳しい内容を話しすぎて璻は内心疲れ切っていた。隣に座っていた穂積も新埜の質問に淡々と答えているが疲れているのか「はい」「いいえ」「そうです」と簡単な会話しか出てこなくなっている。頭が疲れ切っているのは璻と同様に見えた。
少しぼぉーとしながら璻は考えていた。
……正直藤宮さんと一緒に報告書を作成している時が一番マシに思えてくる。そういえば、なぜ今回、新埜さんが報告書を書くんだろうか?大概、水流士の報告書は施術した本人たちが書くはず……
ふとした疑問を放っておけず璻は新埜に質問をした。
「新埜さん、なぜ今回水流士の報告書を書く羽目になったのでしょうか?大概、施術を担当した水流士が書くはずでは?」
新埜は深く頷きながら璻の質問に応える
「一般的な話はそうですが、今回は特例です。依頼したのも自分ですしそれに石屋を連れ込んだ原因を作ったのも元々自分にあります。皇さんにも報告する話なので」
璻は少し考えながら新埜に言葉を返した。
「という事は……私たちはさらに報告書書かなくていいって事になりますか?」
新埜は頷きながら答えた。
「そうですね、特例ですが……今回はあいなのような人がきた場合の改善提案講義に参加してもらいます。明日以降の日程に組み込みますね」
璻はその話を聞き少しがっかりする。
……えええ。これで終わりじゃないのか……
藤宮は新埜の話を聞きながらある事を聞いた
「新埜さん……明日は環境業務で俺も出払う予定ですが……」
新埜は藤宮の質問に応える
「はい。そうですね、藤宮くん明日の環境業務のスケジュール資料見ましたか?」
新埜の質問に動揺しながら藤宮は応える
「目は通しましたけど……何か?」
新埜ははぁっ……とため息を吐き藤宮に説明をする
「明日の環境業務は大人数が必要なため補佐として、新人研修の龍後璻、穂積兎鏡、九鬼朔、矢崎鼓、八釼凪音、北島成政、この6名は明日の環境業務に参加し、補助を行うと…そしじぃの要請が出ています」
璻と穂積はそれを聞き固まる。
璻は環境業務に関して業務内容を思い出していた。
……確か水流士の環境業務は環境の管理や水分子の深い知識と担当の水流士から許可が出ないと参加できない話だったはずだけど、なぜ私たちが環境業務に?……
璻は戸惑い新埜に質問をする
「あの……その話私たち1ミリも聞いてないんですけど」
新埜は笑いながら応える
「今聞きましたよね?配置場所はこのあと諏訪くんから伝達があるはずです。もちろん、龍後さんは水分子の記憶の補佐を穂積さんには実際に超視覚の補佐をしていただきます。簡単な業務をお願いする予定ですし、今後の業務の参考にもなります。環境業務では感覚が頼りになります。感覚をいかに研ぎ澄まし、判断していく、今回はなぜか皇さんも参加する予定ですので、結構な大所帯になりますよ」
璻は新埜に質問をする
「??皇さんも参加するんですか?」
新埜は璻の質問に応える
「今回の環境業務は龍脈に直接かかわる場所の作業ですので皇さんがまとめて監督されます。今後100年単位で考えた時に必要らしく、直接その場に行かないとわからないとかで。」
璻は新埜の質問に応える
「仰っている意味が伝わらないのですけど、皇さんは未来も見た上でそこの場所をなんとかする必要があるって事ですか?」
新埜は璻の質問に応える
「はい。簡単に説明するとそうなります。皇さんは未来視も出来る人ですから」
新埜の言葉を聞いて璻は呆れてしまう。
……もはやなんでもありなところはマジで笑えない。チートキャラか?転生したら最強になりましたパターンかなんかか?前世があるならすんごい得したかどっちだか……
璻は言葉をボソッと呟く
「皇さんの出来ない事はないんじゃないかと思ってしまうんですが……」
落ち込む璻に藤宮は言葉をかけた
「皇の出来ない事なんていっぱいありますよ?」
藤宮の質問に璻は驚きながら言葉を返した。
「なんですか?」
璻の質問に藤宮は真剣に応える
「裁縫全般、人と共感する能力、肉魚は食べれないこと、大食いができないこと、まだ空を飛べないことですかね……」
藤宮の回答はなんとなく具体性が見えない回答ばかりで理解するのに少々骨が折れる。
璻は頭の中で考えていた。
……裁縫はまだわかる。細かいのとか人に押し付けそうだし、人と何か共感するとかは皇さんは出来なさそう、大食いができないことって私もできない。でも最後の一文、空を飛ぶってどういう事だろうか……
「あの…藤宮さんの質問で平気で空を飛ぶとか言ってましたけど、空を飛べる人がいるって前提で話してますよね?未だかつて私の周りに空を飛ぶ人を見たことがありませんが…」
新埜は璻を見ながら応える
「一般的な科学的理論で考えると不可能な話ですけど、人間のエネルギー構造上で考えると可能な話になります昔、空を飛べる教授がいらっしゃって量子物理学で証明したのは有名な話です。ですが……皇さんはなぜか構造的に魅力を感じないと言ってそれから考えるのをやめたとか……そこが皇さんの今後の課題ですかね」
新埜は置き時計を見るともう1時間半は経っていた。
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・長らく一般の方は社会的な影響を強く受け今まで内的感覚に意識が向きずらい現状が続きました。だからこそ"自分の中に内在する目的意識"が戻るように構成しています。水流士ごとに施術は異なりますが大まかな目的意識は一緒
新埜の言葉はこれから自分の内的な感覚が現実に表面化する社会に転換されていることを指しています。
今まで社会的な目的意識を持って人生を終わらせることが多かった時代が長く続きました。それは結婚して、家や高級車を買わなければならない、家族を大事にしなければならない、さまざまあります。水流士のカウンセリングは社会による作られた理想の外的意識から自分が本当にしたい内的意識に戻す作業をするのが施術目的になります。
・逃げの藤宮
藤宮は昔逃げてばかりいました。情に厚く困っている人を放っておけない藤宮は優しい性格ですが、自分が怒られそうになると逃げていなくなるのが多々ありました。ついたあだ名が『逃げの藤宮』でした。
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