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水流士-因子を解く-  作者: 小野里
- 新人研修編 -

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第88話:素粒子化

 

 藤宮は皇に駆け寄りその場で全員を見ると言葉をかけた


「とりあえず、今から雨降りそうなので全員ログハウスの中に入りましょうか?話はログハウスでしましょう。皇も…それでいいな」


 皇は静かに頷き「ああ……」と返事をする。

 新埜(しんの)、皇、藤宮らが続々とログハウスに入る中、穂積はぼーっと一人佇んでいた。


 その姿からひどく落ち込んでいるように見える。璻は穂積に言葉をかけた。


「雨降ってきちゃうから行こうか?」


 璻は手を優しく差し伸べると穂積はゆっくりと璻の手を取り「うん」と返事をする。穂積の手に触れた璻はあまりの冷たい手に少しびっくりすると何も言わずログハウスに向かい歩き出した。ドアを開け部屋の中に入った。全員入るのを確認した藤宮は声をかける


「とりあえず、向こうのソファや椅子に座って話をしましょう。それと吟さんは大丈夫ですか?お仕事……」


 新埜(しんの)は藤宮に応える


「大丈夫ですよ。とりあえず、今回は私が喜三郎さんに報告をしなくてはいけないのであいなのカウンセリングの内容の聞き取りをします」


 テーブルの周りに集まる。新埜(しんの)と藤宮は立ち、璻と穂積は椅子に座りなぜか堂々とソファに座る皇。

 

 新埜(しんの)は皇に質問をする


「話の前に…一つだけいいですか。皇さん?なんであんな所で素粒子化したのか教えてもらえますかね?あれほど、石屋に見せるなと言われてたじゃないですか」


 璻は新埜(しんの)の発言に聞いたことのない言葉を耳にする


 ……素粒子化?……


 皇は新埜(しんの)の問いかけに申し訳なさそうに応える


「いや、あの〜緊急事態でしたから」


 璻は新埜(しんの)を見ると問いかけた


「あの……話の腰を折ってしまい申し訳ないのですが素粒子化ってなんですか?皇さんがあの場で消えたことと関係ありますか?」


 新埜(しんの)は呆れると皇を見た


「事前に説明してなかったんですか?」


 新埜(しんの)の圧力に対し、皇は扇子を半開きにし目を泳がせながら口元を隠した。明らかに動揺しているように見える。皇は新埜(しんの)の疑問に応える。


「えぇぇぇっと……はい。言わなくてもそのうちわかっちゃうかなって」


 新埜(しんの)は呆れながら皇を見ると深くため息を吐いた。


「はぁ……全く。あなたは隠者のトップなんですからね!いい加減自覚してください」


 そういうと新埜(しんの)は璻に視線を合わせ説明を始めた。


「今から説明しますね。さっき姿が消えたように見えたのは素粒子化という能力です。簡単に言えば瞬間移動ができる状態を指します」


 璻は新埜(しんの)の言葉を聞き返す


「素粒子化???全く理解できないのですが?どういう事ですか?」


 新埜(しんの)は璻の疑問に応える。


「素粒子化はそこにない物をあると思っていると物質が突然現れる現象です。原理的には簡単な話で、そこに物質があって欲しいと本人が強く想像すると瞬時に現れること。魔法のような能力です。普通に暮らしている一般人には理解できない能力ですよ」


 璻は新埜(しんの)に質問をする


「その素粒子化?の能力が皇さんにあるって話ですか?でもなぜ皇さんだけ出来るんですか?」


 新埜(しんの)は璻の疑問に応える


「はい。そうですね。なんというか一般の方は何かを欲する時に一瞬ですがエゴや自分の固定概念やトラウマが頭によぎり現実化を妨げ素粒子化できなくさせている。そんな理由ですかね」


 璻は頭に???が浮かぶ余計に理解できない。


 ……ダメだ全然わかんない。どういうことだろうか?……


 璻は新埜(しんの)に質問をする


「想像がつかないのですが…わかりやすい説明をお願いしたいです」


 藤宮が話を聞きながら横から補足をする


「璻さん例えばですね。道路を歩いている人間が急に空中に飛び始めたとしましょうか?璻さんはそれを見て同じように自分も飛べると思いますか?」


 璻は顔を右左に顔を振る


「かなり飛躍した話ですね。自分だったら怖い!無理だなって思っちゃいますね。あと人間はそのまま飛べる構造じゃないから重量比率とか考えます」


 藤宮は璻の疑問に答える


「はい。それです。その考え方が自分の中で制限を作り出していることに気づいてください」


 璻は顔を傾け藤宮に問いかける


「うん?どういう事です?」


 藤宮は璻に解説を始めた


「璻さんの先ほどの発言で『怖い!無理だな』で1つ目の制限、『人間はそのまま飛べる構造じゃないから重量比率を考える』この発言は固定概念、理論上の説明にあたるので2つ目の制限、これが頭の中にあることで前提条件を作り出し"璻さんは飛べない"という現実を体験することが出来ます」


 璻は藤宮に言葉を返す


「ということは、過去に体験し凝り固まった固定概念があるとそれに引きずられ現実化はおろか、出来ないという視点で物事を見てしまうそういう事ですか?」


 藤宮は頷き言葉を返す


「そうです」


 新埜(しんの)は少し笑うと嬉しそうに答えた


「藤宮くん、フォローありがとうございます。非常にわかりやすい説明です。藤宮くんの言うとおり、素粒子化はいわば、この地球で今まで生きて経験した事の固定概念を全て外した状態で出来るスキルになります。皇さんは幼い頃から素粒子化が出来た特例の人間なので隠者のトップにいるわけです。この素粒子化を会得するには段階がありまして、まず助手として仕事をこなしながら、自分の内面を見続け自分の思考のパターンやトラウマ、また執着しているものを炙り出し認識する。次に実際の行動でトラウマや執着を手放し、苦手意識や好きと嫌いの感情を統合させそれが自然になるようトレーニングを続ける。これが今出来ているのは藤宮くんや諏訪くんの状態ですかね?それが習慣化出来ると皇さんみたいに素粒子化できます。また皇さんは特殊で半霊半物質という特殊な能力も持っており何もない空間から自分の意思一つで自由に物質が現れたり消したりすることができます。この場合はもっと訓練しないと出来ませんがね」


 璻は頭の中で新埜(しんの)が発言したことを整理した。


 ▶︎素粒子化するためにできること

 ①自分の内面を見続け自分の思考のパターンやトラウマ、また執着しているものを炙り出し認識する

 ②実際の行動でトラウマや執着を解消させ感情手放し苦手意識や好き、嫌いの感情を統合させる

 ③②が自然になるように習慣化し続ける


 ……わかりやすく考えるとこういうことかな?ということは自分が一番自然な状態で習慣化をし続けないと”素粒子化”は身につかないのか……


 璻は腕を組みながらううんと考える。

 唐突に新埜(しんの)に質問をした


新埜(しんの)さんその素粒子化?って事は幽霊みたいな感じですか?会得したら亡くなるなんてことはないですよね?」


 璻の本気の質問に対しふっと笑うと璻の疑問に応える


「会得して亡くなったら皇さんは今現在そこのソファに座ってませんよ。説明が難しいですが、どっちかというと幽霊よりも強い意思を持っているそんな感じです。幽霊は身体がない状態ですが、素粒子化は物理的に触れたり、実態もないのに違う場所にいけたりするのが素粒子化という感じですかね。仙人に近い能力ですよ」


 璻は恐る恐る新埜(しんの)に質問する


「あの……もしかして、素粒子化?半霊半物質?ってヒマラヤ山脈にいる仙人が空に飛んだり、ババジみたいに急に現れたりする人のことですか?」


 新埜(しんの)は頷きながら璻の話に応える


「よく知っていますね。はいそうです。まさかババジの名前が出るとは……思いませんでした。日本にも素粒子化出来る方はいっぱいいますよ。メディアや表に一切出てこないだけでね」


 璻はその言葉を聞き大事なことに気がついた。


 ……うん?待って待って。という事は皇さんってすごい人なのではないか?……


 璻は皇を見ると質問をする


「あの、皇さん…素粒子化って今すぐ使えるんですか?」


 皇は璻の質問に頷きながら応えた


「使えるよ?まぁ……業務中はね?特に素粒子化に関しては他者が危ない時とか使うんだ。今回は危なかったかというか…つい俺がはしゃいじゃって」


 新埜(しんの)は呆れながら皇の言葉に応える


「鏡夜くんに頭掴まれたから本気で殴るつもりだったんだろうけど、鏡夜くんに具体的な素粒子化の話はしなくて正解でしたね」


 璻は新埜(しんの)に疑問を問いかけた


「なぜ業務外に素粒子化はしてはいけないんですか?」


 新埜(しんの)は璻の問いに淡々と応える


「水分子を業務外に見ることと同じですよ。よかれと思い人助けすると裏切られたりはたまた利益が出ると勘違いされお金の道具にされてしまうんです。昔、そしじぃが大陸の諜報機関に研究材料として連れていかれそうになった事がありましてね……あの時は大変でしたよ」


 璻は新埜(しんの)の言葉を聞きそしじぃを非常に不憫に感じた。毎回誰かに拉致られ、命を狙われたりするのが当たり前なら能力があることが必ずしもいいことだとは限らない。だから現代では能力を隠しておくのが得策と考えたんだろう。


 ……うん?という事はまさか……


璻は新埜(しんの)に質問をする


「そしじぃも素粒子化出来るんでしょうか?」


 新埜(しんの)は頷きながら応えた


「出来ますよ。ただ滅多にやりませんがね……」


 璻は新埜(しんの)の話を聞き、やっぱりそしじぃはすごい人なんだと思った。


 藤宮は急に璻に対して話し始めた


「元々人間の感覚からかなりかけ離れている能力を持つのが"隠者"と言われている理由でもあります。皇の真骨頂は素粒子化してもなお物理的に触れたり、素粒子化した状態でも空間から物質を引き寄せられることですね。現代の仙人をだいぶ越えていますよ」


 藤宮の話を聞き皇は少し偉そうにしながら話始めた。


「そうだろ〜もっと敬いたまえ!」


 藤宮は皇の姿を見ると呆れ声をかける


「いや、褒めてないわ。話の意図通じているか?”素粒子化”を極力見せるなって話をしてるんだが」


 皇は説教する藤宮にめんどくさそうに応える


「わかってるって〜ごめんてば〜」


 璻は皇をまじまじ見る。


 ……なんというか適当でどうでもいい感じ、どう頑張ってもこの人が仙人?には見えないんだけど……


 璻は唐突に皇に質問をする。


「皇さんはどうやって素粒子化を会得したんです?山にこもって、絶食したり滝行とかしたんですか?」


 皇は璻の言葉を聞き急に吹き出すと大きく声を出して笑い始めた。


「ふっ!あははははっ!うん考え方が古いよ〜何千年前の話???」


 ……古い?一般的な修行ってそういう認識だよね?……


 皇は涙が出るほど笑うと璻の質問に応える


「あぁ〜久しぶりに笑ったよ。そっか龍後さんは俺にアドバイスが欲しいんだね。そうだね…うーーん。自然の摂理に逆らわず、一瞬一瞬に自分の意志を通し好奇心を持って行動することかな。それ以上は教えないよ?自分で考えてね」


 皇の発言があまりに真っ当なことを言っていたことに璻は驚いた。


「皇さんって現実的ですね。めちゃめちゃまともな発言にびっくりしました」


 皇は璻の発言にムッとすると応えた


「龍後さん冷めてるね〜失敬な!まるで普段はまともじゃないと言っているように聞こえるじゃないか!」


 皇の発言にそこにいた全員が同じ事を心の中で呟いた。


 ……コイツは普段からまともじゃない事を自覚してないのか……


 璻はあることをひらめくと皇に質問をした


「あっ……もしかして、素粒子化って水分子が関係してます?空気中の水分子の比率とか」


 皇はニヤっとすると璻の質問に応える


「鋭いね〜水分子は関係してあるかな?」


 皇はソファから立ち上がると急に歩き始めた


「よし、お説教は済んだから一旦帰るわ〜それに俺も仕事もあるしね。吟さん、あとでまた来ますよ。じいちゃんにもそう言っておいて。それに与瀬村のカウンセリング内容を調査するんでしょ?部外者の俺がいても話進まないからさ」


 突発的な皇の発言に新埜(しんの)は呆れながら応える


「わかりましたよ。そのようにお伝えします」


 歩き出した皇の背中を見ると藤宮は皇に声をかける


「皇っ!」


 呼び止められた皇は振り返り藤宮を見た。


「なんだよ?俺にいじられなくて寂しいのかよ」


 藤宮が玄関へ指を指すと皇に話しかける


「色々ありがとう。あと帰るなら素粒子化せずに玄関からドア開けて外に出ていけよ」


 藤宮の当たり前の発言に皇はムスッとする。


「いずみんは素直にお礼言えないわけ?ったく。わぁかってるよ!素粒子化使わずに玄関からちゃんと出ていくよ!」


 皇はそういうとツカツカと玄関に向かいドアをガチャと雑に開けるとさっさと帰っていった。


。:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。


・素粒子化

皇の特殊能力です。分子レベルで小さくなり瞬時に別の場所を移動する能力です。自分で素粒子化できるため相手に合わせて姿をあらわすことができます。


・ババジ

ヒマラヤ山脈に隠棲し、数世紀にわたり肉体を維持していると伝承される不老不死の聖者のことです。普段は滅多に人前に出ません。ババジも素粒子化できると言われています。


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。:*:★。:*:★━━━━━━━━━★:*:。★:*:。

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