第87話:自由と孤独
車に乗り込むのを確認した鏡夜はニヤッとすると皇を見た。まるで勝ち誇ったような表情をする鏡夜に皇は苛立ちを感じる。
車に寄りかかりながら鏡夜は皇に話しかけた
「じゃあ、俺たちは行くからな。そしじぃにもよろしく言っておいてくれ」
皇は呆れた顔をしながら鏡夜の言葉に応えた。
「礼儀をしらねぇのか?人の敷地内に入り誤りもせず帰るのか?それはないでしょうがっ!」
そういうと皇は一瞬で姿を消し、鏡夜の目の前に現れる。鏡夜は少し嬉しそうに笑うと皇の言葉に応えた。
「はぁ?じゃあどうすんだよ?戦うのか?らしくねぇな?皇よぉっ!」
鏡夜は咄嗟に皇の背後に周り頭をガシッと力強く掴む。車のボンネットに皇の頭を近づけ押し付けようとした。すると新埜は止めに入ろうと2人に声をかける。
「皇さん、鏡夜くん、ちょっとやめな……」
鏡夜は一瞬、新埜を酷く睨みつけた。
……今遊んでっから黙ってろよっ!!……
鏡夜の目はそう言っているように見えていた。新埜は呆れると深くため息を吐いた。
「はぁっ……血の気が多い連中だ…」
新埜に気を取られた鏡夜は、皇の頭を掴んだ手に強い痛みを感じ徐に手を見た。
すると掴んでいた皇の頭が消えている事に気づいた。
鏡夜は独り言を呟いた。
「うん???確かに皇の頭を掴む感覚がしたんだが……」
次の瞬間、肩をトントンと叩かれる。不自然に感じた鏡夜は後ろを恐る恐る振り返った。そこにはなぜか頭を掴んでいた皇が鏡夜の後ろに立っている。閉じた扇子を鏡夜の顔にぐりぐりと押し当て勝ち誇った表情をすると嬉しそうに鏡夜に声をかけた。
「はい〜鏡夜の負けー??」
鏡夜は顔に当てている扇子を左手で押し返し、舌打ちしながら皇に応えた。
「チッ…クソっ!扇子で顔をグリグリするな!マジ、ダリィからっ!」
皇の茶化した態度に璻は呆れる。戦っているのか?はたまた戯れているだけなのか?段々とわからなくなる。
……皇さんはどうして頭を掴まれた状態から抜け出せたんだろうか……
璻が少し考えていると鏡夜は皇を睨みつけ声を抗える。
「俺ら人間とお前らの能力の何が違うんだ!」
皇は後に3歩下がると鏡夜の疑問に嬉しそうに応える
「嫌だな〜そんなの脳内器具をつけている連中は自分本位でしか物事を考えられないからですよ。目の前のやらなきゃいけない事に逃げ、ダラダラと娯楽に埋もれる依存性が高い人間ばかりじゃ俺らみたいな能力は身につかないですね。ましてや、鏡夜みたいな能力がある人間が石屋についたのはショックですがね」
鏡夜は皇の言葉に応える
「水流士の職業は親の意向だ。元々俺の意志じゃねーよ。嫌だったんだ。俺はただ一族に……親に否定され育った。俺は皇みたいに優秀な跡取りじゃない。むしろ全てから逃げたかった。ただ俺が求めていた理想の場所が石屋の職業だった。それだけだ」
皇は鏡夜の言葉を聞き呆れた表情をすると扇子を少しだけ開きゆっくりと仰いだ。鏡夜の話に一ミリも興味がないように見える。皇は深く深呼吸をすると鏡夜の言葉に応えた。
「はぁー今の発言にガッカリだわ。鏡夜、親に否定されその原因を自分で対処せず、親や一族を心底憎み現実から目を背け、逃げた言い訳しただけじゃねぇかよ!職業は今の時代自分である程度は選ぶ事ができる、それを親が言ったからと言い訳にし自分で決められない事を親のせいにするとか品性を疑いますね」
鏡夜は皇の言葉にイラッとしたのか思わず言葉を発する。
「はぁっ?うっ……」
鏡夜は少し顔を下に向け、頭を押さえながら皇の話を続けてきいた。
「頭を押さえているという事は今、微弱の電気が流れていますね。やっぱりその首の付け根にある機械は……」
鏡夜は皇に堂々と首の付け根を見せると機械のようなものが付いているのが見えた。
鏡夜は皇に言葉をかけた。
「そうだ。これが脳内器具だ。これで微量の電気が流れる。もう俺は水流士にはなれないし、俺の問題から逃げても誰も何も言わないこの意味がわかるか?」
皇は扇子を閉じ、鏡夜に諭すように言葉をかけた。
「鏡夜…それは解決ではない。問題を先送りにしているだけなのはわかりますか?親が心底憎いと話している奴は今だに親離れ出来ましぇーんって自分で公言しているのと同じだ。親を恨む事で自分のエネルギーが漏れている事に気づいていない。その時点で基礎からかなりズレているんだよ。自分の狭い視点でしか現実が見れなくなってしまったお前に友達としてかける言葉はねぇよ。どうぞ、そのままお帰りください」
鏡夜は皇に言葉をかけた。
「皇、お前は勘違いをしている可哀想な奴だ。石屋の自由があるのをわかっていない。個人データは全て管理されるが、自由はあるし便利だ。感情もコントロールできる。楽園のような場所さ」
皇は鏡夜をじっと睨みつけ扇子を手の平に叩きつけると言葉を返した。
「我々、隠者は地球の環境管理も同時進行にしながら業務を行っている。お前ら石屋は"自立出来ない人間"を物理的な機械で支配し物事を循環させているそれに対し我々隠者は、土地神の声を聞き滞った水を流し、土地の補強や木々の管理、祭りや祈り事を行いこの地球のエネルギーを循環させ土地の磁場を安定させる事が仕事だ。個人単位で物事を見ているわけではない。200年から1000年単位の未来を予測し必要な事柄に長い間時間をかけ準備をしているんだ。お前のいう"楽園"と言われている場所はただの羊小屋だ。お前ら石屋に話をしたところで意図が通じないだろうが!ったく……腹立たしい。これで2度目だ!とっとと去りやがれっ!」
珍しく皇は酷く怒っているように璻には見えた。
鏡夜は車の助手席のドアを開けると新埜に声をかけた。
「あっ、吟さん。与瀬村あいなのデータ移したら、ウチの管理にデータ移動をお願いします。石屋直属の管理になりますので。あとはサイバースペースへの移植が終わり次第、他者承諾書にサインした吟さん宛に最後、与瀬村あいなはどうなったか連絡いたしますね。一様これは業務なので」
新埜は静かに頷くと鏡夜に話しかける。
「わかりました。皇さんと確認して個人データを送ります」
鏡夜は頷きながら小さく挨拶をする
「よろしくお願いします。では」
と話すと車に乗り込もうとした。一瞬だが穂積を見つめた。穂積は鏡夜を見ると大きな声で呼びかける
「鏡兄っ!待ってよ!」
穂積は鏡夜に駆け寄ろうとするが皇に肩を掴まれなぜか前に進むことを阻まれる。鏡夜は穂積の言葉を無視し、車に乗り込むと運転席にいる男性に声をかける
「出してくれ」
男性は深く頷くと車にエンジンをかけログハウスから早々と去って行く。道路を走る音が聞こえ車が遠ざかっているのがわかる。
穂積はその場で顔を下に向けると手で顔を押さ嗚咽を出しながら泣き崩れていた。
「うっ……わっ私っ……何も出来なかったぁ……鏡兄を家に連れ帰る事も与瀬村さんに少しでも考え直してもらう事も出来なかったっ……」
璻は穂積に駆け寄り声をかける
「そんな事ない。結果だけ見ればそうだけど、与瀬村さんは自分の選択で石屋に向かったんだ。ただそれだけだから、責任を感じなくていんだよ」
皇は扇子を仰ぎながら穂積に現実を突きつける。
「穂積兎鏡、鏡夜はもう帰ってきませんから、諦めなさい。鏡夜の選択を受け入れ尊重する事が今あなたが出来る事だということがわからないのか」
皇の言葉は穂積の心に深く突き刺さる
ゴロゴロと鳴る音が聞こえた璻は唐突に空を見上げる。
さっきまで風が心地よく吹く晴れた春の日だったが車が帰ってから空には雲がかかり今にも雨が降りそうな天気に変わっていた。
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・親を恨む事で自分のエネルギーが漏れている事に気づいていない。
皇のこの発言では誰かを心底憎むことで自分の思考が止まり行動が止まり、自分の意図した行動が取れなくなる。すると自分のエネルギーが最大限に出せないだろ?と皇は鏡夜に問いかけています。鏡夜はつらかったという記憶で止まっているためトラウマが未だ解決できていないことがわかります。
・隠者は、土地神の声を聞き滞った水を流し、土地の補強や木々の管理、祭り事や祈り事を行いこの地球のエネルギーを循環させ土地の磁場を安定させる事が仕事だ
皇のこの発言は隠者に属する職業ほぼ全てに言えます。隠者という職業は土地神の声を聞き物事を循環させることが主な目的になります。日本の神々(寺や神社など)はほぼ土地神になります。八百万の神々が集まり日本ができているのでその土地ごとに土地神がいます。その管理も2050年では隠者はおこなっています。特に皇は地球に必要な出来事を200年単位から1000年単位の長期スパンで見ているため、鏡夜のような個人的な悩みを聞くと皇は段々イライラしてくるのが伝わります。
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